井上真偽,2019,ベーシックインカム,集英社.(11.14.24)
遺伝子操作、AI、人間強化、VR、ベーシックインカム。
未来の技術・制度が実現したとき、人々の胸に宿るのは希望か絶望か。
美しい謎を織り込みながら、来たるべき未来を描いたSF本格ミステリ短編集。
日本語を学ぶため、幼稚園で働くエレナ。暴力をふるう男の子の、ある“言葉"が気になって――(「言の葉の子ら」 第70回推理作家協会賞短編部門ノミネート作)
豪雪地帯に取り残された家族。春が来て救出されるが、父親だけが奇妙な遺体となっていた。(「存在しないゼロ」)
妻が突然失踪した。夫は理由を探るため、妻がハマっていたVRの怪談の世界に飛び込む。(「もう一度、君と」)
視覚障害を持つ娘が、人工視覚手術の被験者に選ばれた。紫外線まで見えるようになった彼女が知る「真実」とは……(「目に見えない愛情」)
全国民に最低限の生活ができるお金を支給する政策・ベーシックインカム。お金目的の犯罪は減ると主張する教授の預金通帳が盗まれて――(「ベーシックインカム」)
いやあ、おもしろかったね。
短編小説5篇とも、サイエンスフィクション、空想科学小説というより、スペキュレイティブフィクションとしての色彩のほうが強い。
ロボット、AI、遺伝子操作、人間の機能強化(エンハンスメント)、VR、ベーシックインカム等、近未来に実現しそうな題材にことよせて、人間の、あまりに人間くさい想念、願望、欲望が描かれていく。
テクノロジーの発展が可能にする、希望と絶望のあわいにあるであろう近未来がとてもリアルだ。