ロベルト・ユンク(山口祐弘訳),2015,『原子力帝国』日本経済評論社('16.6.17)
本書のドイツ語初版が出されたのが、スリーマイル島原発事故の2年前の1977年。その後、1986年のチェルノブイリ原発事故、1999年東海村核燃料加工施設臨界事故、そして2011年の福島原発事故と、本書で懸念された事態が次々に引き起こされたことを考えると、本書の先見の明にあらためて感じ入る。
本書(日本語版)が再版されることとなったのは、言うまでもなく、破局的な福島原発事故を受けてのことであるが、本書で指摘されている原発のリスクは、事故によるものだけではない。原発作業員や原発周辺住民の恒常的被曝、核融合により生み出される、猛毒にして強力な兵器にも転用可能なプルトニウムと、その戦争やテロでの使用リスクの問題、そして、それを防ぐための、市民の知る権利、思想・表現、集会の自由さえ奪いかねない「原子力帝国」の問題と、原発のはらむ問題性が、正しく網羅的に指摘されている。
ユンクの問題意識は、フランクフルト学派のそれと通底している。科学=技術システムが市民社会の監視の下で制御されないと、いかなる怖ろしい事態が生じるのか、これまでの歴史はユンクの指摘の正しさを証明している。
目次
序――硬直した道
放射線の餌食
賭ごと師たち
ホモ・アトミクス
おびえる人びと
原子力帝国主義
原子力テロリスト
監視される市民
展望――柔軟な道
待望の復刊!! 70年代ヨーロッパでベストセラー 福島第一で安全神話は地に落ち廃炉への「悪夢」は続く。 だれが民主主義と人権を守るのか。 ユンクが40年前の警鐘は生かされたのか。
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