トイアンナ,2024,弱者男性1500万人時代,扶桑社.(9.22.24)
週刊SPA!連載の「弱者男性パンデミック」に大幅加筆修正を加えて新書化!
データで読み解く“弱者男性国家”ニッポンの現在。
「お前はお前を愛せない、女もお前を愛さない。
それだけで人生はこんなにも過酷だ」
配信者・たぬかな
「弱者男性」の75%は自分を責めている。“真の弱者”は訴えることすらできない―。データで読み解く弱者男性国家ニッポンの現在。
トイアンナさんは、大胆にも、各種統計データから、「弱者男性」の数が1,100~1,500万人にのぼると推計する。
その内訳は、以下のとおりである。(「巻末付録」より)
障がい者・・・・・・精神・身体・発達の合計:564万人。
信者の家族・・・・・・新興宗教の信者の家族:388万人。
引きこもり:70.9万人。
介護者:256.4万人。
虐待サバイバー・・・・・・子供時代に虐待を受けたことのある大人:558.9万人。
犯罪被害サバイバー・・・・・・性犯罪被害にあった大人:90.7万人。
多重債務者の家族:126.8万人。
容姿にハンディがある:男性(生産年齢)人口の内、10%。
貧困・・・・・・相対的貧困で計上:953.9万人。
性的マイノリティ・・・・・・LGBT:540.7万人。
境界知能・・・・・・IQが70~84:1,020万人。
非正規雇用・無職:846.4万人。
コミュニケーション弱者・・・・・・吃音の成人患者数:48.6万人。
3K労働従事者:534万人。
在日外国人、民族的マイノリティ:160.8万人。
きょうだい児・・・・・・重い病気や障がいを抱える人のきょうだい:285万人。
疑問に思う点は多々あるけれども、議論の出発点におくデータは必要なのだから、まあ、良しとしよう。
それにしても、叙述が雑すぎるし、明らかな誤謬も多い。
言葉が適切ではなく、文意が正確に伝わらない箇所があまりに多いこと、それもまた良しとしよう。
しかし、きちんと読み直して、校正すれば、避けられたはずのミスについては、いただけないな。
p.23、「未既婚年代別幸福度比較」の図、データを取り違えているよ。
「未婚中高年男性」の幸福度が低いことをあなたは指摘してるわけでしょ。
p.119、知的障がい当事者が取得できるのは「療育手帳」。「養育手帳」など存在しない。
pp.166-167、「男女別に見た生活時間」の性比についての表記、記述がムチャクチャ。
あまりに煩雑なので説明は省略する。
p.181、「同居の主たる介護者」の図、凡例にある「続柄」二つのデータが欠落している。
pp.203-204、フェミニズムの系譜について。
「ラディカル」
アメリカでリベラルが人種差別撤廃を訴えるなか、男女差別には甘かった失望からラディカル・フェミニズムが誕生する。そして、「あらゆる権力へのアクセスは男性が支配している」「性的な作品(ポルノ)の被写体になることや、ポルノを見ることでも女性は搾取される」と主張した。また、恋愛至上主義を批判し、異性との恋愛や結婚、家庭といったものを女性抑圧の元凶としつつ、組織内でも意見が割れるなど問題も起こった。
「第二波」
西欧ではシモーヌ・ド・ボーヴォワールによる『第二の性』、アメリカではベティ・フリーダンによる『新しい女の創造』といった書籍の影響から、第二派フェミニズムが生まれた。男女は生まれながらに異なり、男性と女性はそれぞれ違う道を認めるべきだとした。
また、女性はケアの役割を持っており、軍隊などで戦争に参加する必要はないと説いた。
「第三波」
第二派を受け継ぐ形で、1990年代はじめにアメリカで生まれた運動であり、2020年代には第四派にまで進んでいる。人種、LGBTQ+、障害など、多数の要素が人を抑圧するのであって、男性女性のシンプルな構造で社会は決まらないと説いた。第二波はセックスを拒否する権利を述べたが、第三波は「セックスをしたいという権利」も述べた。
わたしは、「第二波フェミニズム」のなかから、「ラディカル・フェミニズム」、「マルクス主義フェミニズム」、「エコロジカル・フェミニズム」等の諸潮流が立ち上がった、という理解をしているが、少なくとも、「ラディカル」のあとに「第二波」を位置づけるというのは、明らかな誤りだ。
それから、第二波フェミニズムにおいて、「男女は生まれながらに異なり、男性と女性はそれぞれ違う道を認めるべきだ」などという合意がなされた事実はない。「女性はケアの役割を持っており、軍隊などで戦争に参加する必要はない」とも説いてはいない。事実はそれとは逆で、NOW(National Organization for Women=全米女性機構)は、はっきりと軍隊への女性の包摂、参画を要求した。
あと、「第二波はセックスを拒否する権利を述べたが、第三波は「セックスをしたいという権利」も述べた」ってどういうこと?
あー、もうアタマ痛くなってきた。
人気ブロガーが物書きとして出版業界に進出するのは悪いこととは思わない。
そうやって物書きの裾野が広がって、言論界、出版業界が活性化するのは、歓迎する。
でも、カネを貰って書き物をするのであれば、それなりの矜持を持って臨んでもらいたい。
大学生の即席レポートみたいな、いい加減な内容の書物を出すんじゃないよ。
出版社、編集者も、それなりの矜持を持って、ちゃんと仕事しろよ。
ただ、一点、なるほど、そうだよな、と思える部分があった。
「弱者男性」の支援者がバーンアウトしないための対策について述べた部分だ。
2.私的に関わりすぎない
生きづらさを抱えている人と同調しすぎると、自分の精神状態が不安定になってしまう。ドライな言い方ではあるが「仕事として関わっている」くらいの距離感のほうが、結果的に長い期間支援できる。自分と相手にはそれぞれバウンダリー(境界線)があり、お互いに踏み入ってはいけないのである。あらかじめ「職務」として関わる範囲を決めておくといい。それ以上自分側へ踏み込んできた相手に「そこから先は入らないでください」と言ってもいいし、相手の領域に踏み込みすぎてもいけない。
3.トラウマの再燃が感じられたら離れる
支援者は得てして、自分自身も似たトラウマを抱えている。その傷が癒えないうちは、絶対に支援者になってはいけない。そして、トラウマの再燃を感じたら「自分が支援している真っ最中」であっても、離れる決断をしなくてはならない。これを踏み越えて活動休止になるNPOや任意団体も多数あるのだ。川で溺れている人を助けようとして、自分が溺れてしまってはいけない。支援者はまず「自分が安全であること」から始まる。
(pp.231-232)
わたしは、「弱者男性」の支援はしたことがないけれども、別様の「弱者」と関わり、たいへんな失敗をしでかしたことがある。
トイアンナさんが言うとおりのことをふまえておけば、避けられた失敗だった。
内心、忸怩たる思いがある。
でも、いまさら、しかたない。
自らの弱さを認めて、前を向いていこう。
目次
1 弱者男性とは誰のことか
2 男性の弱さ
3 弱者男性の声
4 弱者男性の分類
5 弱者男性になってしまう
6 弱者と認めてもらえない
7 弱者から抜け出せない
8 弱者男性とミソジニー
9 弱者男性に救いはあるか