われわれが生きる世界とはまるで異質の世界のなかで、自らの「常識」では理解しがたい経験の連続に人はどれだけ耐えうるのか、そんな実験的試みとしても読める作品である。(筆者は、帰国後、深刻な心身状態に陥ることになる。)
なにより衝撃的なのは、産み落とされた子どもは、母親に抱かれるまで「人間」とは認められず、ときとして母親はその子を絞め殺し、遺体をシロアリの巣に入れ食わせるというものだ。殺された子どもは「精霊」として天に召されたものとされるが、わが子を殺めた母親は、しばしば自責の念や悪夢に苦しむ。
われわれの合理的な価値観を異文化の人々におしつけるのは傲慢ではあるが、文化の多様性の尊重というものが、強烈な不快感や違和感、そして悲しみに耐えることを必要とするものであることを、本書はあらためて教えてくれる。
150日間、僕たちは深い森の中で、ひたすら耳を澄ました―。広大なアマゾンで、今なお原初の暮らしを営むヤノマミ族。目が眩むほどの蝶が群れ、毒蛇が潜み、夜は漆黒の闇に包まれる森で、ともに暮らした著者が見たものは…。出産直後、母親たったひとりに委ねられる赤子の生死、死後は虫になるという死生観。人知を超えた精神世界に肉薄した、大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。
目次
序章 闇の中で全く知らない言語に囲まれた記憶
第1章 深い森へ
第2章 雨が降り出し、やがて止む
第3章 囲炉裏ができ、家族が増える
第4章 シャボリとホトカラ
第5章 女たちは森に消える
第6章 シャボリ・バタ、十九度の流転
第7章 彼らは残る
終章 僕たちは去る
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