高橋美恵子編著,2021,ワーク・ファミリー・バランス──これからの家族と共働き社会を考える,慶應義塾大学出版会.(10.4.24)
日本が目指すべき稼得・ケア共同型社会のあり方とは?
これまで内閣府の調査に携わり、スウェーデンとの比較から日本の政策に提言を行ってきた編者が中心となり、スウェーデン・ドイツ・オランダの子育て世代と、各国に家族で駐在した経験のある日本人に対して行ったインタビュー調査をもとに、4カ国の実態を比較する。
EUのなかでも福祉が充実し、多様な働き方・多様な家族のあり方を追求する3カ国で、男女が共に家族と仕事を両立するための政策がどのように機能し、どんな課題を抱えているか、生活の中からリアルに描き出す。
ベネフィットと課題を参考にして、これからの日本が目指すべき両立支援のあり方や価値観の変容について提言を行う画期的な一冊!
スウェーデン・ドイツ・オランダの子育て世代にインタビュー調査し、男女が共に家族と仕事を両立するための政策と課題を、生活の中からリアルに描き出す、意欲作!
性別に関わりなく、一人一人がもてる資質、能力を職業活動に発揮できる社会──ジェンダー平等を目指すべきであることに異論を挟む余地はないだろう。
また、人口構成の高齢化により労働力が不足するなか、女性の就労は、社会システム維持のためにも推進せざるをえない。
そこで、問題となるのが、女性の二重役割──稼得労働と家事、育児、介護労働の二重負担──の問題である。
それを解消するためには、男性の、稼得労働時間の削減と、家事、育児、介護労働時間の増加が必要だ。
「稼得・ケア共同型 (dual earner, dual carer)」社会では、ワークとファミリー/ライフの良きバランスが目指されることになる。
(斧出節子「第3章 労働未来論から稼得・ケア共同モデルへ ドイツ」、p.130)
子育て中のカップルにおいては、スウェーデンのフルタイム就業──「1.0+1.0=2.0稼得モデル」ではなく、オランダの(カップルで)「0.75+0.75=1.5稼得モデル」を目指すのが現実的である。
オランダのパートタイム雇用は、実は、産業界の要請や「仕事と子育ての両立」の解決策としてだ けでなく、女性解放ないしは男女平等戦略という面からも奨励されている。1985年に政府は、男 女平等政策プランを策定し、男性が有償労働に携わり、女性が主に家事・育児といった無償労働を担 うという現状の性別役割分業を変革し、男女間で有償労働と無償労働をより均等に分配し直すことを 目指した。この無償労働には、家事や子どもの世話だけでなく、高齢者・障がい者に対するケアも含 まれ、このプランでは、女性はさらに労働市場に参入して経済的自律性を高め、男性はもっと無償労 働を引き受けることが望ましいとされた。
1996年に社会経済審議会(SER)は、この男女平等政策プランの発想をさらに具体化し、「コ ンビネーション・シナリオ」という政策を答申する。これは、労働時間の柔軟化、経済・社会保障の変更、ケア供給の拡大を含む政策パッケージで、「コンビネーション」には、個人生活における「有 償労働と無償労働の組み合わせ」だけでなく、ケア領域での「公的保育と家庭保育の組み合わせ」と いった2種類の次元が含まれる。公的保育所の充実により、女性が労働市場に参入できるようにする 一方で、男性の有償労働時間を減らし家庭責任を担えるようにする。そのために、子育て中の夫妻の 両方が共に週当たりの有償労働時間を平均29時間から32時間にすることが想定される。このシナリオ では、夫妻はともにフルタイムより少し短い時間の「大パート」に従事することにより、1・0では なく、0・75ずつ、つまり2人合わせて1・5の収入を稼ぐことが目指される。この「1・5稼ぎモ デル」では、有償労働を75%ずつ分担すると同時に、育児などのケア労働は各自25%ずつ担当し、残 りの50%は保育施設など利用し外注化する。そして、女性が労働市場に参入しやすくする一方で、男 性の有償労働時間を減らして、ケア労働を担えるようにする。夫妻は保育所を利用しつつ協力して家 事や育児を遂行し、職場だけでなく家庭内でのワークシェアリングを進める (SER 1996,Parlementairemonitor 1999)。
(善積京子「第4章 パートタイム大国 オランダ」、pp.157-158)
ただし、フルタイム就労=正社員/職員、パートタイム就労=非正規社員/職員という構図は抜本的に変えなければならない。
パートタイム就労者を正社員/正職員として包摂する──パートタイム就労者の時間あたり賃金水準、社会保険加入資格を、フルタイム就労者のそれと均等化させる必要がある。
それが、同一価値労働同一賃金を実現するためにも必要不可欠である。
本書は、スウェーデン、ドイツ、オランダでの現地インタビュー調査にもとづいた、実に手堅い研究の所産であり、今後の労働政策になにが必要なのか、明確な指針を示してくれる内容となっている。
目次
序章 ワーク・ファミリー・バランス社会のあり方を考える
第1章 共働き家族のリアル 日本
第2章 男女とも仕事と子育てを両立させる国 スウェーデン
第3章 労働未来論から稼得・ケア共同モデルへ ドイツ
第4章 パートタイム大国 オランダ
第5章 同性カップルのワーク・ファミリー・バランス―欧州3カ国における制度と現実のはざまで
終章 日本のワーク・ファミリー・バランスの実現に向けて