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本と音楽とねこと

賃上げ立国論

山田久,2020,賃上げ立国論,日本経済新聞出版社.(10.5.24)

生涯賃金3割増へ!
高水準だった日本の賃金はいまや、米国の2割安、フランスの3割安、ドイツの4割安超のレベル。
企業の成長、産業高度化のためにこそ、賃上げは必要。
いまの経済状況を考えれば、賃上げは絵空事なのか?「ユニコーン」の誕生が相次ぐスウェーデンで実現している「賃上げを基軸とする活力ある社会経済モデル」とは――。
日本が目指すべき「ハイブリッド・システム」を提示する。
◆日本の賃金は国際的にみても低すぎる!
◆低賃金による低価格戦略はもはや限界を迎えており、付加価値創造経営への転換が求められている。
◆個人は、より高い賃金を求めて転職が増加。安全網に支えられ、自律的キャリアの形成へ意識改革が進む。
◆企業は、不採算事業を大胆に圧縮し、事業構造の転換を促す雇用賃金システムの導入が不可避。
◆政府は、社会保障制度と年金給付水準の維持、財政危機の回避へ、賃上げを促す第三者機関の設置を。
◆日本が豊かな社会を維持するために、「生涯賃金3割増」を実現する国家戦略を提示する。
未曾有の人手不足にもかかわらず、日本では賃金が伸び悩んでいる。
いまや欧米ばかりでなく、専門職ではアジア各国より低い実態が明らかに。
労働分配率は低落し、消費の伸び悩みが日本経済を下押ししている。
では、どうすれば賃上げは可能なのか。
本書は、福祉国家のイメージとは異なるドライな一面を持つスウェーデンの仕組みを参考に、政労使による賃上げの枠組みを提示。
生涯賃金を3割上昇させることができるミクロとマクロの戦略を描く。
幅広い層に向け、賃上げの議論を喚起する一冊。
賃金は個別企業で労使が交渉によって決めるとする従来の発想から踏み出し、賃上げを国家戦略として位置づける新しい日本経済論。

 日本の勤労者の実質賃金は、アジア通貨危機が起こった1997年より、一時的に上昇した時期はあったものの、ほぼだだ下がり。
 G7の国でこんな惨状にあるのは、日本とイタリアくらいのものである。

 本書は、賃金引き上げが必要な理由を、マクロ、ミクロ両面から、豊富なデータを提示しながら明らかにする。

 もとより、グローバル寡占企業の登場により、賃金は引き下げられる傾向にある。

 アマゾンがその寡占企業の筆頭だろう。
 アマゾンとの価格、利便性競争に敗れた小売り店は、縮小、撤退、従業員の賃金圧縮を余儀なくされる。
 店舗をもたず、商品管理と配送業務のみに特化したアマゾンは、小売店と比べて多くの労働力を必要としない。
 しかも、その労働力の大半は、パートタイマー、契約社員、業務委託された個人事業主、つまりは、雇用が不安定で低賃金の非正規労働者である。

 改めて整理しよう。技術革新を背景に「スーパースター企業」が台頭し、「勝者による寡占化」を通じてこれら企業が市場シェアを高めている。一方、その過程で既存企業はシェアを奪われて収益が減少し、その従業員の賃金は伸び悩む。賃金の伸び悩みは低価格志向を強めて、コスト競争力のあるスーパースター企業の優位性をますます高める。結果として続くマクロでみた賃金の伸び悩みのために市場は拡大せず、需要不足から生産性を低迷させる方向に働く。さらに、賃金の低迷が転職行動を抑えて、産業構造の転換を遅らせて生産性を低迷させている。
(p.45)

 日本の大企業は、バブル経済の崩壊による多額の債務を圧縮するために、1990年代後半より、正社員雇用を抑制し、パート、派遣等の非正規社員を増やし続けた。
 労働組合も、自分たち正社員の雇用を守るために、雇用の非正規化を後押しした。

 また、中小企業においては、労組不在による労働者の賃金交渉力の弱さが、賃上げどころか、賃金停滞、低下を帰結することになった。

 つまり、大手企業部門における「賃金より雇用」の(集団的)労使関係、そして、中小企業部門における(集団的)労使関係の「不在」という、いずれにしても日本の労使関係の特異性が、競争制限的な産業保護政策と相まって、先進諸外国に比べて弱い賃上げ圧力の基本的な要因になっている。
(p.56)

 山田さんは、属人的な職能給から、職務給、あるいは職種給へ全面的に転換するのではなく、職能型人材管理による雇用の安定を保持しつつ、職務・成果型人事管理を取り入れることを提唱する。

 また、労働組合は非正規労働者を包摂していくべきである旨、主張する。

 同感だ。

(1)「終身雇用・年功賃金」について、「職業人としての全人格的形成を促す職能型人材管理」という根幹は維持しつつ、政労使および産官学の連携による企業横断的なキャリア形成の仕組みを構築することで、「特定職業でのプロフェッショナルの能力発揮を促す職務・成果型人事管理」を採り入れる「ハイブリッド・システム」を目指す。
(2)「正社員中心の企業別組合」は、非正規も含めた産業別や地域別の労働組合間の連携強化等によって新たな形での「良好な労使関係」へ転換する。
(p.171)

 法定労働時間分働いて自活できない、生活できない、あるいは、子どもを育てる経済的余裕がないという階層を減らしていくには、実質賃金の底上げしかない。
 多くの人はそう思うだろうが、その考えにたしかな根拠を与える著作として、本書の価値は大きい。

目次
序章 日本の賃金は低過ぎる
第1章 賃金低迷の犯人は誰か
第2章 賃上げが必要な本当の理由
第3章 賃上げを基軸にした社会経済モデル―スウェーデンに学ぶ
第4章 賃上げを支える経営・人材戦略
第5章 賃上げを可能にする国家戦略―「生涯賃金3割増プラン」
終章 生涯賃金3割増が導く「自由で公平な高質社会」


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