電気ショック等による人格破壊と、惨事に便乗し、あるいは惨事を意図的に引き起こしてなされてきた、市場原理主義による社会の破壊、この二者の類似もしくは重なりを説き起こす最初の部分から、現代史の隠された繋がりが次から次に暴露されていく。
ナオミ・クラインは、「新自由主義」なるイデオロギーの実践が、その実、「コーポラティズム」にほかならないことを明言する。もっとも、その「コーポラティズム」とは、政府、企業、労働者(団体)の「協調」に基づく民主的統治ではなく、「新自由主義」を装った、政治家・官僚(軍人を含む)、グローバル企業の経営者、投資家たちによる「談合」に基づいたすさまじいばかりの富の収奪と権力の暴力的行使のシステムを意味する。
チリ、アルゼンチン、イギリス、ロシア、ポーランド、インドネシア、中国、韓国、南アフリカ、イラク、そしてアメリカ等で引き起こされてきた数々の悲劇と、現在のグローバルにして構造的な貧困問題の原因とが、'Shock Doctrine'および'Disaster Capitalism'というキーワードを軸として次々に暴露される事実によって、見事に解き明かされている。
世界中でベストセラーとなった本書の存在は、漆黒のような絶望のなかのかすかな光明だろう。
上
ブランク・イズ・ビューティフル―三〇年にわたる消去作業と世界の改変
第1部 ふたりのショック博士―研究と開発
ショック博士の拷問実験室―ユーイン・キャメロン、CIA、そして人間の心を消去し、作り変えるための狂気じみた探究
もう一人のショック博士―ミルトン・フリードマンと自由放任実験室の探究
第2部 最初の実験―産みの苦しみ
ショック状態に投げ込まれた国々―流血の反革命
徹底的な浄化―効果を上げる国家テロ
「まったく無関係」―罪を逃れたイデオローグたち
第3部 民主主義を生き延びる―法律で作られた爆弾
戦争に救われた鉄の女―サッチャリズムに役立った敵たち
新しいショック博士―独裁政権に取って代わった経済戦争
危機こそ絶好のチャンス―パッケージ化されるショック療法
第4部 ロスト・イン・トランジション―移行期の混乱に乗じて
「歴史は終わった」のか?―ポーランドの危機、中国の虐殺
鎖につながれた民主主義の誕生―南アフリカの束縛された自由
燃え尽きた幼き民主主義の火―「ピノチェト・オプション」を選択したロシア
下
第4部 ロスト・イン・トランジション―移行期の混乱に乗じて
資本主義への猛進―ロシア問題と粗暴なる市場の幕開け
拱手傍観―アジア略奪と「第二のベルリンの壁崩壊」
第5部 ショックの時代―惨事便乗型資本主義複合体の台頭
米国内版ショック療法―バブル景気に沸くセキュリティー産業
コーポラティズム国家―一体化する官と民
第6部 暴力への回帰―イラクへのショック攻撃
イラク抹消―中東の“モデル国家”建設を目論んで
因果応報―資本主義が引き起こしたイラクの惨状
吹き飛んだ楽観論―焦土作戦への変貌
第7部 増殖するグリーンゾーン―バッファーゾーンと防御壁
一掃された海辺―アジアを襲った「第二の津波」
災害アパルトヘイト―グリーンゾーンとレッドゾーンに分断された社会
二の次にされる和平―警告としてのイスラエル
ショックからの覚醒―民衆の手による復興へ
上
本書は、アメリカの自由市場主義がどのように世界を支配したか、その神話を暴いている。ショック・ドクトリンとは、「惨事便乗型資本主義=大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革」のことである。アメリカ政府とグローバル企業は、戦争、津波やハリケーンなどの自然災害、政変などの危機につけこんで、あるいはそれを意識的に招いて、人びとがショックと茫然自失から覚める前に、およそ不可能と思われた過激な経済改革を強行する…。ショック・ドクトリンの源は、ケインズ主義に反対して徹底的な市場至上主義、規制撤廃、民営化を主張したアメリカの経済学者ミルトン・フリードマンであり、過激な荒療治の発想には、個人の精神を破壊して言いなりにさせる「ショック療法」=アメリカCIAによる拷問手法が重なる。
下
ショック・ドクトリンは、一九七〇年代チリの軍事クーデター後の独裁政権のもとで押し付けられた「改革」をモデルとし、その後、ポーランド、ソ連崩壊後のロシア、アパルトヘイト政策廃止後の南アフリカ、さらには最近のイラク戦争や、アジアの津波災害、ハリケーン・カトリーナなど、暴力的な衝撃で世の中を変えた事件とその後の「復興」や、(IMFや世界銀行が介入する)「構造調整」という名の暴力的改変に共通している。二〇〇四年のイラク取材を契機に、四年をかけた努力が結実した本書は、発売後すぐ、絶賛する反響が世界的に広がり、ベストセラーとなった。日本は、大震災後の「復興」という名の「日本版ショック・ドクトリン」に見舞われてはいないだろうか。3・11以後の日本を考えるためにも必読の書である。
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