井上荒野,2022,小説家の一日,文藝春秋.(11.3.24)
小説、メモ、日記、レシピ、SNS…短篇の名手が「書くこと」をテーマに紡いだ豊饒の十作。
どの作品も読み応えじゅうぶんの傑作短編小説集。
それぞれの作品の主人公たちの情愛と憎悪、諦念が交錯するこころ、その細やかな描写が秀逸だ。
繊細な言葉遣いにしびれる。
井上荒野,2023,照子と瑠衣,祥伝社.(11.3.24)
照子と瑠衣はともに七十歳。ふたりにはずっと我慢していたことがあった。照子は妻を使用人のように扱う夫に。瑠衣は老人マンションでの、陰湿な嫌がらせやつまらぬ派閥争いに。我慢の限界に達したある日、瑠衣は照子に助けを求める。親友からのSOSに、照子は車で瑠衣のもとに駆けつける。その足で照子が向かった先は彼女の自宅ではなく、長野の山奥だった。新天地に来て、お金の心配を除き、ストレスのない暮らしを手に入れたふたり。照子と瑠衣は少しずつ自分の人生を取り戻していく。照子がこの地に来たのは、夫との暮らしを見限り、解放されるため。そしてもう一つ、照子には瑠衣に内緒の目的があった―。
物語の柱は、高齢の女性二人のシスターフッド。
それだけでも斬新であるが、二人が織り成す人間模様が生き生きと描かれていて、物語の世界にどっぷり引き込まれる。
言葉から解像度の高い映像が浮かび上がる。
よくできたロードムービーを見ているかのような臨場感がすばらしい。