親、とくに父親による子どもへの虐待を、アリス・ミラーは「魂の殺人」と呼ぶ。
18~19世紀のヨーロッパにおいて、子どもへの体罰は、その子の全能感を打ち砕くために必要不可欠なしつけとされていた。
映画のサントラを故デビッド・ボウィが手がけたことを懐かしく思い出す、父がDV男だった「クリスチーネ・F」、祖父がユダヤ人であるかもしれないことを気に病み、異常性格者の父親にサディスティックな虐待を受け続けたアドルフ・ヒトラー、養父母や聖職者から過酷な虐待を受け続けた連続幼児リンチ殺害事件の犯人、ユルゲン・バルチュ。これら三人の深層心理を解き明かすくだりは圧巻だ。
「虐待の世代間連鎖」と言われてピンとこなくとも、本書を読めば、その成り立ちが、リアルに理解できるようになるだろう。
さすが、全世界で読みつがれてきたロングセラーだ。山下公子さん(科学史・科学哲学者の村上陽一郎さんの配偶者)の訳業も完璧だ。読みつがれるに値する名著である。
Alice Miller,
For Your Own Good: Hidden Cruelty in Child-Rearing and the Roots of Violence
目次
まえがき
生命力の迫害としての教育
いわゆる「闇教育」
「光の教育」はあるか
沈黙の劇の終幕
はじめに
自己自身に対する殲滅戦
アドルフ・ヒットラーの子ども時代
ユルゲン・バルチュ
この章の終わりに
恐れ、憤り、そして悲しみ
わざとしたわけでなくとも無慈悲な行いは痛みをもたらす
シルヴィア・プラスと苦悩の禁止
押し殺された憤怒
知る許可
あとがき
教育や躾の名による暴力は子どもたちの魂を粉々に打ち砕き,社会はいずれ手痛い復讐を受けずにはすまない。ヒットラーや少女娼婦クリスチアーネの幼年時代を詳細に分析して,教育の暴力性と非人間性を容赦なくえぐり出した衝撃のロングセラー。
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