原敬暗殺、浜口雄幸銃撃、血盟団事件、五・一五事件、二・二六事件といったテロ、クーデターの嚆矢となった、朝日平吾による安田善次郎暗殺事件(朝日は暗殺の場で自害)の真相を追う。
きわめて粗暴にして自堕落、自己中心的な言動から、家族からも知人からも疎まれて孤立し、天皇の赤子としての国民の安寧を期すべく財界の大物の暗殺を決行した朝日。誇大妄想的な天下国家観と、最底辺労働者の低家賃住宅建設を夢みた正義感との奇妙な同居は、自業自得とはいえ、たび重なる挫折と社会から排除されたうえでのそれであったことからすると、じゅうぶんに理解できるものだ。
朝日の行為は、近年のジョーカー型、アベンジャー型犯罪を彷彿とさせるものであるし、安倍暗殺事件を受けて、本書があらためて注目されている。
大正、昭和初期の世論が暗殺者やテロリストを賛美する傾向にあったのに対し、近年の事件を受けての世論は、世直しのためであれば暴力もやむなしという趨勢にはない。そこに大きな違いがみられるのは、希望なのか絶望なのか。
一九二一年、ある無名の青年が広く知られる人物を殺害した。一代で財閥を作り上げた安田善次郎を襲った犯人の名は、朝日平吾。その衝撃は原敬首相暗殺の連鎖を生み、二・二六事件に至るテロリズムの世を招来する。彼は屈辱、怨恨、強い承認願望を抱いていたのではないか──。当時と現代に格差社会という共通項を見出す著者が、青年の挫折に満ちた半生を追ってゆく。『朝日平吾の鬱屈』改題。
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