本書は、「生活保護解体」というコンセプトのもとで、わが国の社会扶助、社会保障の問題点を明快に剔出し、最低生活保障のあるべきかたちを提言した力作である。
この国の最低生活保障がまちがっているのは、現在の最低時給で法定労働時間分働いて、あるいは国民基礎年金を満額受給できてそれで暮らしていけるのか、当然できないわけであるから、まずその問題の解決をめざし、そのあとで生活保護基準を検討しなければならないとことろ、賃金や社会保障を改善することなしに、浅はかな国民劣情をあてこんで、生活保護基準を引き下げ、国民の生存基盤をますます切り崩している点にある。
岩田さんは、低所得者も包摂してきた国民健康保険や国民年金の制度、就学援助制度、児童手当と児童扶養手当、住居確保給付金等の拡充をはかれば、生活扶助を除けば、手続き的にも心理的にも利用しづらい生活保護を利用せずとも最低生活保障がなされうることを指摘する。
生活扶助についても、本書で詳しく紹介されている、より生活実態に近い最低生活費の試算にもとづき引き上げられるべきであるし、最低賃金は、法定労働時間分働けばそれ(最低生活費)をうわまわる金額に引き上げられるのが当然だ。高齢、疾病、障がい等で働けない人については、「公助」ではなく、わたしたちの「共同財源」からわたしたちの合意された意思により配分されるべきであろう。その合意が形成されるよう説得力ある提言を行っていくのが、厚労省をはじめとする政府の役割であろう。
「不正受給」「社会保障費の圧迫」―絶えず強いバッシングにさらされてきた生活保護。だが今、制度を利用する人の半数以上は高齢、単身、年金受給者である。先の見えない時代に、どんな「最低生活保障」が必要なのか?誤解・俗論の数々を退け、社会保障制度全体のなかに生活保護を位置づけなおす画期的な試み。
目次
序章 解体でみえる、最低生活保障の新たなかたち
第1章 生活保護という不思議な世界
第2章 国民皆保険・皆年金体制のなかの「低所得者対策」―もうひとつの「社会扶助」
第3章 解体・編みなおしの戦略と指針―「原理問題」を整理する
第4章 提案 どう解体し、どう溶け込ませるか
終章 生活の「最低限」をどう決める
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