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戦時から目覚めよ──未来なき今、何をなすべきか

スラヴォイ・ジジェク(富永晶子訳),2024,戦時から目覚めよ──未来なき今、何をなすべきか,NHK出版.(7.30.24)

人類の”大惨事”は避けられるか?
気候変動、生態系の破壊、食糧危機、世界大戦――人類の破滅を防ぐための時間がもう残されていないのだとしたら、我々は今何をなすべきなのか?パンデミックを経てますます注目される現代思想の奇才が、西欧と世界で今起きている事象の本質をえぐり、混迷と分断渦巻く世界の「可能性」を問う。

ウクライナ、パレスチナ、西欧とロシアの文化戦争―ジジェクの思想と政治批評にこの一冊で入門する!戦争を防ぐために何が足りないのか?

 ウクライナ情勢を中心にした、時局論集。

 欧州は、ロシアに抗するウクライナを全面支援し、ロシアの天然ガスを必要としない、環境負荷の小さな社会の構築を目指せ、と言う。
 ジジェクは、ロシアの拡張主義的覇権の欲望を粉砕し、同時に、気候変動をくい止めるための、社会のプラットフォームとライフスタイルの変革を主張する。
 ド直球の主張の数々に少々驚く。

 「ウォーク」(意識高い系の目覚めた人びと、環境保護を訴えながらプライベートジェット機を使用するなど、ダブルスタンダードにまみれた、ポリコレ主義の偽善者)への批判は、手厳しい。

 ここで生じる逆説は、眠りが現実からの消極的な逃避ではないことだ。この眠りは、必死の行動として機能する。これをどのように理解すべきだろうか?今日の市場には、有害な成分を取り除いた製品が多々ある。カフェイン抜きのコーヒー、脂肪分なしのクリーム、ノンアルコールのビールなど、挙げればきりがない。さらに、バーチャル・セックスはセックスなしのセックスで、行政機関の運営は政治的意図を持たない政治であり、今日の寛容でリベラルな多文化主義は不穏な〈他者〉性を除いた他者の経験である。このリストに、われわれの重要な文化的要素をもうひとつ加えるべきだろう。デカフェな抗議者、すなわち正しいことしか口にしないが批判的な観点に欠けた、眠り続ける「ウォークな」抗議者だ。
 彼らは、地球温暖化やウクライナ戦争に恐怖を感じ、性差別や人種差別と闘い、根本的な社会変化を要求し、全人類にグローバルな連帯という大義に同調するよう呼びかける。要するに、いっさい生活を変えず(ときどきチャリティに寄付すればいいだけ)、キャリアもそのまま保ち、勝つためなら手段を選ばない攻撃的な面を持ちつつも、正しい側にいる人々だ。ベン・バージスの本の題名を言い換えると、キャンセル・カルチャーの遂行者は、「世界が燃えているのにジョークを飛ばすコメディアン」なのだ。「急進派」とはほど遠く、新たな規則を押しつけてくるが、それは「必死に活動しているふり、すなわち何ひとつ変わらないよう目を光らせておく」ための模範的な疑似活動の一環なのである。
(pp.204-205)

 ジジェクは、ウクライナがロシアに譲歩し、和平を取り結ぶのは、ロシアの覇権主義を増長させるものであるとして反対するのだが、このままさらに戦争を長引かせ被害を拡大させるのを良しとするのかという疑問は残る。
 ここはいったんロシアに譲歩し、ロシアの権威主義体制を崩壊させるための情報戦に移行した方が良いのではなかろうか。

目次
序 フュチュールとアヴニールのはざま
さらばレーニン ようこそ無能な侵略者たち
戦争(と平和)の異常な平常化
黙示録の五番目の騎士
「サファリ」的な主観性
ほかの国が果たすべき役割
結束する権力者に立ち向かえ
今日のウクライナにおけるレーニン
ヒマワリの種がたっぷり入ったポケットから、何が育つのか?
倫理観の衰退を示す紛れもない兆候
偽の目覚めに騙されるな
ロシアと西欧の文化戦争
狂気のリズムにブレーキをかけろ
富裕層への課税?それでは足りない!
アサンジ:そうとも、われわれにはできる!
結論 手遅れの場合、どう始めればいいのか?


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