本書は、生活保護受給世帯、および「自立支援センター」入所者(元ホームレス)を対象に、自ら実査した調査データに分析した研究書だ。このような一次データの分析はとても貴重ではあるが、いかんせん、あらかじめたてられた仮説が「常識」の枠を超えてはおらず、さほど有益な知見は引き出されていない。もちろん、想定されていたことを調査データで確証する意義はあるが、「仮説検証型」ではなく「事実発見型」のデータ分析を行っていれば、もっと有益な知見を引き出せたのではないだろうか。
また、各都道府県の最低賃金をもとに、フルタイムで働いて得られる所得を「閾下稼得」とし、それ未満の者を「日本型ワーキングプア」と筆者は呼び、その額と生活保護基準との落差を分析している部分は評価できると思った。もちろん、生活保護基準の方が大きく上回っているわけだが、そのことが、基準額及び加算額の引き下げ、廃止の口実にされてきたわけである。
「貧困の負のスパイラル」を止めるてだてを本気で考えないといけない。
目次
序章 問題意識と研究の目的
第1章 生活保護の現状と日本型ワーキングプア
第2章 要保護層の貧困の実態
第3章 被保護母子世帯の貧困ダイナミクス
第4章 要保護層の就労自立支援プログラム
第5章 ホームレスの就労自立支援
終章 日本型ワーキングプアと岐路に立つ生活保護
行政に管理され外部に公表されることのなかった生活保護者たちの情報。行政の立場にいる著者であるからこそ入手できたデータと現場経験をいかして、被保護世帯の実態を明らかにしていく。資料的価値を備えた一冊。
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