本書の主人公は、イラク戦争に衛生兵として従軍し、死と隣り合わせの過酷、凄惨な経験を重ねて、米国に帰国したあと、ヘロインと麻薬系鎮痛剤の中毒を発症する。そして、薬物の代金ねん出のため銀行強盗を繰り返し、逮捕される。
本書は、ニコ・ウォーカーの自伝的小説であり、獄中で書かれた作品だ。
セックス、戦地での暴力と殺戮、ドラッグ、そしてまたセックス、ドラッグの繰り返しを経て、銀行強盗を重ねるくだりでは、さすがに気が滅入りそうであるが、不思議とそうならない。ニコ・ウォーカーは、たしかにどうしようもない奴なんだが、内省的でもあり、憎めない性格をしているのである。そして、この「どうしようもないが憎めない」人物造形を編集者とつくりあげたことを、筆者自身が「謝辞」で打ち明けている。
これ以上ないというくらい汚い言葉と、それから嘔吐の連続には、不快になるどころか、どこか突き抜けたような明るさを感じる。スピード感あふれる言葉の連続弾を絶妙な翻訳に仕上げた力量も、これまたみごとというほかない。
この主人公、バカだろ。あなたはそう思うかもしれない。でもやがて途方もない悲しみが湧きあがり、あなたの心をかき乱す。これはそういう小説です。スタッカートする荒い文体と会話―戦争とドラッグと犯罪。破滅するしかなかった青年を痛ましく描き出す犯罪文学。
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