井上荒野,2020,ママナラナイ,祥伝社.(11.23.24)
「ママナラナイわね、お互いに」斉藤尚弥は不動産会社に勤務する三十六歳。近頃、何もかもうまくいかない。男性器も心も折れてしまい、おまけに仕事も絶不調―通称“川の家”と呼ばれる高台にある家に住む、夫婦への立ち退き交渉が難航していたのだ。夫人によれば、立ち退きを強く拒否しているのは夫の方らしいのだが…。夫人の協力を得て交渉を続けるうちに、やがて思いもよらない事実が判明し―(表題作)。この世に生を享け、大人になり、やがて老いるまで―ままならぬ心と体を描いた美しくも不穏な、極上の10の物語。
ウェットな心象風景の描写にこころがざわつく。
こころも身体も自らの意思で制御できず、ただただ外界のできごとに振り回され、嗤うしかない宙ぶらりんの状態に落とし込まれる。
人生こんなもの。
ほんと、ままならない。