松浦理英子,2020,犬身 上・下,朝日新聞出版.(3.9.25)
上
幼い頃から「犬になりたい」と切望する八束房恵は、玉石梓という理想的な犬の飼い主に出会い、「あの人の犬になりたい」と願うようになる。そこへ謎の男・朱尾献が現れ、「犬化願望を叶えてやる代わりに魂をよこせ」と契約を迫る。第59回読売文学賞受賞作。本の雑誌が選ぶ文庫ベストテン第1位(2010年度)
下
梓の飼い犬・フサとなった房恵だが、彼女の実家は決定的に崩壊していた。性的虐待を続ける兄、息子ばかり偏愛する母親。一方、まるで梓が書いているかのような、兄との性的関係を告白するブログが公開され…さまよえる犬の魂は何処に行くのか?
愛する人、玉石梓の犬になりたいと願う「種同一性障害者」、八束房恵。
房恵は、朱尾献に魂を明け渡す契約を交わし、念願の犬、フサとなる。
梓は、兄、彬に、中学生のときから性虐待を受けており、終盤、彬と対峙したフサは、彬に殺され、フサを殺された梓は、彬を刺し殺す。
一気読み必至の奇想天外なストーリー展開に、玉石家の、兄の妹に対する、母の息子に対するグロテスクな欲望が露悪的なまでに織り込まれていく。
汚された魂が浄化される物語は、挿話がグロテスクであるほど、いっそう読み手の琴線に触れる。
I Wanna Be Your Dog