志駕晃,2020,彼女のスマホがつながらない,小学館.(3.16.24)
(著作権者、および版元の方々へ・・・たいへん有意義な作品をお届けいただき、深くお礼を申し上げます。本ブログでは、とくに印象深かった箇所を引用していますが、これを読んだ方が、それをとおして、このすばらしい内容の本を買って読んでくれるであろうこと、そのことを確信しています。)
本作は、「パパ活」にいそしむ女子大学生の殺人事件をめぐって展開する推理小説だ。
犯人は、「パパ活」するオヤジと女の子を仲介する女衒の男子大学生。
その彼は、子どものときに、性虐待の被害を受けた解離性同一性障がい者であった──このオチもなかなかにすばらしい。
あと、「パパ活」の現場の描写も、エグい。
そんな浜本の言葉は耳に入らず、咲希の頭の中は真っ白だった。二人は新宿の高級ホテルのベッドの上に腰かけていた。
「ところで咲希ちゃん。今日は時間を取ってくれてありがとう」
浜本の手が肩に回ったので思わず身を固くする。そして目を瞑った浜本の顔が、どんどん咲希に迫ってくる。
無理だ。こんなおじさんとキスなどできない。
そう思い咲希は身を引くが、浜本は構わず唇を重ねてくる。本能的に逃れようとすると、そのままベッドに押し倒された。そして浜本の舌が、堅く閉じた咲希の唇の間から侵入し、同時に強烈な異臭を感じる。浜本の口からは、嗅いだことのないような臭いがしていた。
(pp.20-21.)
「二〇万円でどうかな」
だから次に浜本と会ってそう言われた時、咲希は自分の耳を疑った。場所は新宿の高級ホテルの中のレストランだった。
自分の甘い考えを反省した。さすがに体の関係なしで食事を奢ってもらい、さらにお小遣いまでもらえるはずがなかった。咲希はその場で断ろうかと思ったが、二〇万円という金額に心が動く。
「じゃあ、行こうか」
咲希が逡巡していると、会計をすませた浜本は当然のように席を立った。
「すいません。やっぱり無理です」
咲希は浜本の背中に声をかける。
「とにかく部屋で話そうか。もうチェックインしちゃっているから」
咲希は断ろうかと思ったが、浜本はエレベーターの上階行きのボタンを押してしまう。やがてエレベーターが到着すると、中に入った浜本が早く乗れとばかりに待っている。既にエレベーターに乗っていた老夫婦が怪訝な表情を浮かべるので、咲希もエレベーターの中に入ってしまった。
「じゃあ、三〇万円ならどうかな」
老夫婦が先にエレベーターを降り、二人きりとなった空間で浜本がそう囁いた。
三〇万円。
ちょっと我慢をすれば、そんな大金が手に入る。三〇万円もあればバイトをやめられる上に、欲しかった服も買えてしまう。里香が腕にしていたカルティエの時計が脳裏をかすめる。そして結局、断れないまま咲希はふらふらとホテルの部屋に入ってしまった。
「咲希ちゃんは、意外と胸が大きいんだね」
浜本はそう言いながら、咲希のワンピースのファスナーを下ろす。
「浜本さん、やっぱり無理です。私、そんなことはできません」
咲希はベッドから起き上がろうとする。
「咲希ちゃんはもうすぐ誕生日だよね。誕生日プレゼントには何が欲しい?」
その言葉に一瞬体が止まってしまう。
その隙に浜本は咲希のワンピースを脱がし、白い下着が露になる。
「何でも好きなものを買ってあげるよ」
里香のしていたカルティエの時計のことを思い出す。咲希は今でも、高校生の時に両親に買ってもらった安物の国産時計を着けている。
浜本は再び咲希をベッドの上に押し倒すと唇を重ねてくる。
「や、やめてくだ・・・・・・」
そして咲希の中に舌が入ってきたので思わず目を閉じる。逃げようとして舌を動かすが、逆に二つの舌が絡み合ってしまう。同時に浜本の指がショーツの中に入ってきたので悲鳴を上げたつもりだったが、口を塞がれていたので喘ぎ声のように聞こえてしまう。
ショーツの中に忍び込んだ浜本の指が、やがて茂みに到達し、さらにゆっくりと下に向かう。そして遂に咲希の一番敏感な部分に到達すると、咲希は悲鳴のような声を上げる。
「咲希ちゃん。けっこう濡れてるね」
(pp.24-26.)
「じゃあ咲希ちゃん、そろそろ行こうか。このホテルの最上階のイタリアンを予約してあるんだ」
そこで食事をした後に、このホテルの一室で松山とベッドをともにするのだろうか。さすがに月三〇万円ももらって、それを拒否するわけにはいかない。
会計をすました松山は、赤い絨毯をゆっくりと歩いていく。咲希はその一歩後ろを、伏し目がちについていった。
今日はシンプルな白のワンピースを着てきた。しかしこんな時間に高級ホテルの廊下をおじさんと二人で歩いていれば、人々の視線がいやが応でも気になってしまう。
父親と娘でないことは、二人の微妙な距離感でわかってしまうだろう。実の娘だったら、こんなに恭しく父親の一歩後など歩きはしない。ホテルの従業員たちは、こんな自分たちをどう思っているのだろうか。
ホテルにとってみれば、松山はいつも大金を落としてくれる上顧客だ。さらに若い愛人を手にした羨望の眼差しが向けられているかもしれない。
その一方で、自分に向けられる視線には好奇と蔑みの色が混じっているだろう。金に目が眩んだ下品な女か、それとも若いだけが取り柄の薄っぺらいコールガールか。特に咲希は、ホテルの女性スタッフと目が合うのが怖かった。
(pp.151-152.)
さすがに、こうした描写には、吐き気がして、非常に不愉快となったが、これが「パパ活」のリアルなのであろう。
さらに不快になりたい方は、パパ活女子を参照していただきたい。
春をひさぐ女子大学生が、そろいもそろって、ワンピ姿なのには、思わず笑ってしまった。
唯一無二のリアルタイム・ミステリー
映画化もされた大ヒット作『スマホを落としただけなのに』で有名な気鋭のエンタメミステリー作家の最新作は「リアルタイムパパ活ミステリー」。
生活苦に悩む大学生の咲希が美人でやり手のパパ活女子・里香に誘われてパパ活に足を踏み入れるAパート(平成30年6月から)と女性週刊誌で働きながらもファッション誌への憧れを棄てきれない編集者の友映が女子大生連続殺人事件の犯人を追うBパート(令和2年2月から)から成り立つ小説です。
恐ろしくもきらびやかな「パパ活」の世界で起きる不可解な事件に加え、時系列ですすむ物語には「コロナウイルス」「芸能スキャンダル」の影響が。
読めば2020年を感じられる、1粒で3度おいしい唯一無二で至高のエンタメ小説です。
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