日本のフェミニズムのどこがどう問題なのか、「ジェンダー」と「男女共同参画」についての言説をとおして、あれやこれや共感し、思い当たることが多々あるな、と思った。
女であること、ただそれだけで、踏みつけられ、侮辱された経験があるのなら、それを開示し、激しく抗議すればよろしい。就業上の差別、家事労働の押し付けには、徹底的に抗えばよい。
ただ、フェミニズムが、なぜ、「固定的性別役割分業に根ざした善き日本型伝統的家族」の幻想を打ち砕くことができなかったのか、少しは反省してみるべきだろう。
差別された痛み、実存だけを根拠に、感情的に綴っただけの稚拙な作文を、新しい学問と称して、恥ずかしげもなく世に問うてきたことをどう思うのか。
もちろん、検討するに値する、良質なフェミニズムの言説も多々ある。しかし、障がい者差別や、エスニシティによる差別への異議申し立てと比べて、あまりにひどい言説を、日本のフェミニストは垂れ流し続けてきた。
痛みを分かち合う同志の言葉を尊重したい気持ちはわかる。しかし、それが対抗言説として有効ではない、感情につき動されただけの稚拙なものであれば、それが説得力のある言説となるよう相互に鍛え上げていくのが「同志」のあるべき姿勢ではないのか?
ジェンダー・ギャップ指数にみる男女平等度は本年度時点で世界第121位、いまだ夫婦別姓さえ実現していない。自民党の国会議員は世襲のジジイばっかり。こうした惨状すべてが、フェミニズムの貧困に起因するわけではないが、本書を読めば、セクシズムに対抗していくための、戦略、戦術が、日本のフェミニズムには欠けていたことを実感する。
目次
まえがき
第一章 「ジェンダーフリー」をめぐる対立[山口智美・荻上チキ]
第二章 地方からのフェミニズム批判――宇部市男女共同参画推進条例と『日本時事評論』[山口智美]
第三章 千葉県に男女共同参画条例がない理由――条例制定運動の失敗と保守の分裂[山口智美]
第四章 「性的指向」をめぐって――宮崎県都城市の条例づくりと『世界日報』[斉藤正美・山口智美]
第五章 男女共同参画とは何か――ユー・アイふくいの図書問題をめぐって[斉藤正美]
第六章 箱モノ設置主義と男女共同参画政策――国立女性教育会館(ヌエック)[斉藤正美]
第七章 フェミニズムとメディア、インターネット[山口智美・斉藤正美]
結びにかえて[荻上チキ]
あとがき
男女共同参画事業の名の下に、条例づくりや事業の任い手となったフェミニスト。
それを中央からおりてきた政策と捉え、反発した保守運動。
「バックラッシュ」として、地域やインターネット上で広がったこの衝突の実際をフィールドワークと双方への丹念な聞き取りから明らかにする。
フェミニズムが本当に取り組むべき課題のために。
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