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本と音楽とねこと

誇大自己症候群

岡田尊司,2005,誇大自己症候群,筑摩書房.(12.4.24)

「普通の子」が、些細なことから突発的に凶悪な事件を起こす。彼らはなぜ、世間を震撼させる犯罪者になったのか?従来の精神医学ではとらえきれない病理を、「誇大自己症候群」という切り口から探る。そこに共通するのは、幼児的な万能感やヒーロー願望、現実感に乏しいファンタジー傾向、他者への共感性の欠如や自己正当化などである。そしてそれらは、とりもなおさず、現代の大人たち、ひいては社会全体に見られる心的傾向なのだ。本書では、この病理を徹底分析、自己の呪縛が肥大化した現代を検証しつつ、その超克を見据えた画期的論考。

 しつけや教育の寛容化や少子化により、根拠のない過剰な自尊心──誇大自己をもったままの「大人こども」が増えている。

 学校で、職場で、不幸にも、呪物クラスの誇大自己モンスターに出会うことがある。

 うんざりするような自己顕示に辟易し、拒否反応を示すと、すさまじく逆上する。

 もちろん、当人は神でも王でもなく、それほど大げさな侮辱や攻撃が行われたわけでもないのだが、誇大自己は自らの万能感が傷つけられたことが許せないのだ。なぜなら、誇大自己そのものが、本当の強さや裏付けのある自信から生まれたものではなく、虐げられたり主体性を奪われたり、挫折や卑屈さを味わった者が、劣等感や弱さや小心をごまかすためにまとった「強がりの仮面」だからである。些細な軽視や非難さえ、彼の劣等感や卑屈さを刺激し、傷つけられ脅かされたと感じ、一層傲慢で、尊大で、権柄づくの反応を引き起こすのである。その瞬間、誇大自己は自分こそが「被害者」だと感じている。被害者だから、不当な攻撃を行った相手に反撃することは正当であり、それをしないことの方が沽券にかかわると思うのである。
(p.67)

 もっとまずい対応は、誇大自己症候群の人の言い分を、軽くあしらったり、否定するような言い方をすることである。そういう考え方もあるが、そうとも限らないのではないかと、やんわり否定したつもりでも、誇大自己症候群の人の心には緊張が走る。ましてや、間違っているとか、ダメだというような評価を下そうものなら、彼(彼女)は激しい怒りに囚われ、指摘されたことに耳を傾けるどころか、それを侮辱だと受け取ってしまう。
(p.209)

 誇大自己お化けとは距離を置くこと、これ以外にトラブル回避の手段はない。

 このように誇大自己症候群の人との関係においては、親密な段階に足を踏み入れることが、とても困難な状況を生み出すのである。
 したがって、誇大自己症候群の人と不幸な関係にならないためには、ほどよい距離を保ち続けることが、とても重要である。地獄の底まで付き合うつもりならば別だが、親密な領域にみだりに足を踏み入れないように、距離を保つことがお互いのためなのである。プライベートな話をしたり、感情を開けっぴろげに示したり、親しみを込めた対応をすることも、危険なスイッチを押すことになる。相手が急に距離を縮めてくるような行動に出てきたときは、すでにあなたの対応が誤解されている可能性もあるので、スキを見せずに、距離を取り直す必要がある。そこで、相手に合わせた対応をしてしまうと、後戻りができなくなってしまう。これはと思ったときに、早い段階ではっきりとした対応をすることが、トラブルを避けることになる。
(中略)
 誇大自己症候群の人は、自分にとって好意的に接してくれる人に出会うと、過度に理想化して過大な期待を抱きやすい。
 愛情にしろ援助にしろ、いくらでも惜しみなく提供すると錯覚させるような言い方は、ことに危険である。常に釘を刺し、相手の問題はあくまでも相手の問題であり、本人に成り代わって問題を解決することはできないことを、しっかりと伝える必要がある。ことに援助者として、このタイプの人に関わる場合、援助や支えも際限なく与えることはできないし、それは本当に支えることにはならないことを告げる必要がある。
(211-212)

 誇大自己モンスターには、いきなり不幸話を切り出し同情をかおうとする者がいる。
 その罠にはまって共感したり同情したりするのはたいへん危険だ。
 同性、異性を問わず、特定の他者に執着、固着し、根拠のない誇大自己を脅かされたら逆恨みし、復讐するのが、呪物クラスの誇大自己お化けの性癖なのだから。

目次
第1章 異常事態の根底にあるもの
第2章 誇大自己症候群とは何か
第3章 誇大自己症候群の悲劇
第4章 誇大自己症候群を生む現代社会
第5章 身近にひそむ誇大自己症候群
第6章 誇大自己症候群の克服


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