
ほとんどがもと紀要論文のためか、どうでも良い些末な統計データが羅列されているのに辟易したが、ヨーロッパにおける社会保障改革とベーシック・インカム構想についての知見の紹介と整理、日本社会においてベーシック・インカム構想がじゅうぶん実現可能であることを示した試算の提示、以上の二点だけでも一読する価値のある書物だろう。
グローバリゼーションによる産業構造の空洞化、産業ロボット等の導入による省力化、コンピュータの導入による労働効率性の向上、国内市場の成熟化・少子高齢化による需要の低下等により、完全雇用を前提とした自己責任のみでの生活資金の確保が困難になるなかで、いかに生存権の保障を行っていくのか。ワークシェアリングや環境保護事業、農林水産業等の振興によるによる雇用確保の努力を行っていく一方で、実現可能な低コストの最低生活費保障の有力な手段として、ベーシック・インカムの部分的な導入がはかられていくべきだろう。
目次
1 企業中心社会と社会保障改革
いま何故、社会保障改革か
国民負担から見た社会保障改革
2 ベーシック・インカム構想と福祉社会の展望
ベーシック・インカム構想の新展開
労働の変容と所得保障
日本におけるベーシック・インカムの可能性
本書の特徴は二つ。一つは、戦後「福祉国家」下の社会保障制度の揺らぎの意味を、世界的に進行する家族ならびに労働のあり方の変化という基礎構造の変化から捉えると同時に、日本においては「企業中心社会」的特徴をもっている社会経済システムならびに社会保障制度が機能しなくなっているという視点から捉えている点。もう一つは、ベーシック・インカム構想というヨーロッパを中心に大きな関心を呼びながら日本ではまだ研究が緒についたばかりの議論を展開していることである。
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