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本と音楽とねこと

失われた場を探して

メアリー・C・ブリントン(池村千秋訳),2008,失われた場を探して──ロストジェネレーションの社会学,NTT出版.(9.5.2020)

 著者は、ハーバード大学の現役教員(女性)。
 バブル経済崩壊以降の就職氷河期を経験した、男性高校卒業者を対象として、どのような属性をもった若者が、非正規職に就かざるをえなかったを探る。
 調査データから、問題の本質をがっつり把握し、印象深い三人のライフコースを提示して、「失われた世代」をめぐる問題状況を明らかにする。社会学研究の王道をいく方法論が貫徹されている。目のまえで、レンガ造りの頑強な建物の建築過程を見ているかのごとき、みごとな著作だ。
 筆者は、新卒者の職探しの方法を、「人的社会資本」(家族・親族、友人・知人のつながり)、「制度的社会資本」(学校)、「非ネットワーク型」(新聞広告など)に分類する。就職氷河期においてなお有効であったのは、とくに工業高校の学校推薦枠であった。もっとも、就職に不利で不安定な生活を余儀なくされたのは、入学難易度の低い普通科高校の卒業生であった。
 このような知見にもとづき、中根千枝のいう「場」に包摂されなかった若者たちの運命を、就職の機会保障を怠った日本社会の責任を問いながら、考察する。
 マーク・グラノヴェッターのいう「弱いつながりのもつ強さ」は、日本社会のように、他者への一般的信頼度が低く、「身内」に閉じていく関係志向が強い場合、その効果は低い。「場」のなかに「資格」が埋もれてしまう社会における、人間の無力さに気づかせてくれる。
 サービス産業が優勢となる脱工業社会において、対人コミュニケーション、人間関係づくりの能力が必要とされるのは、そのとおりではあるが、それが計測可能なものであるかのようにとらえられ、若者に無用な圧力がかけられている。ふつうのあいさつとことばのやりとりができればそれで良い、プラスアルファの最小限の学力、教養、思考力、表現力を身につけてもらうこと、これは、高校生だけではなく、大学生にも必要なことだろう。

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