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本と音楽とねこと

上野千鶴子のサバイバル語録

上野千鶴子,2019,上野千鶴子のサバイバル語録,文藝春秋.(7.2.24)

「万人に感じよく思われなくてもよい」「相手にとどめを刺さず、もて遊びなさい」――家族、結婚、仕事、老後、人生のバイブルに。

著者自身が生き延びるため、必要に迫られ身につけた言葉の数々から140を厳選。初の語録!

 わたしが学部学生のとき、上野さんは新進気鋭、才気煥発の社会学者としてデビューした。

 岸田秀、村上陽一郎、宇井純、作田啓一、そして上野千鶴子。
 これら、高校生から大学生時分に多大な影響を受けた人びとに共通するのは、きわめて高い表現の質、であった。

 文庫版に収められた上野さんの文章を読み返してみて、やはり感心するのは、なによりもまずその文章表現の巧みさだ。

 ただ、私も歳を食った。
 若いときに、うーんと唸った文章も、それなりの学識と経験知、世間知がついたためか、そういえばそんなことも言ってたよね程度の感慨しか湧かなかった。

子育てと介護は、非暴力を実践する場
 「いっそベランダから投げ落とそうか」という気持ちを一度も持たずに子どもを育てる母親なんていないはずなんです。女の人たちは「よくもこの子を殺さずに育て上げたものだ」という感慨をどこかに持っていると思います。親を介護しながら「一日も早く死んでほしい」と思う家族介護者もいることでしょうし。
 そういう関係の中で嗜虐性や暴力性を抑え、自分の力を使わないでいる経験を積むことについて、「ケアは非暴力を学ぶ実践」と、私は言っています。自分の嗜虐性と暴力性をどう抑制するのかは経験と学習です。その経験の場を男から奪うなと思います。「中外日報」
(p.102)

 子育てと介護に限らず、「ケアは非暴力を学ぶ実践」という視点はとても重要だ。
 「ケアを尊重する社会」は、暴力、貨幣と権力の生活世界への浸食、パターナリズムを廃す社会でもあるべきだろう。

人生は壮大なヒマつぶしである
人生とは、死ぬまでの壮大なヒマつぶし。どうせ同じヒマつぶしなら、豊かにつぶしたい。『男おひとりさま道』
(p.126)

「生きていく理由ができてよかったわね」
 子どものできた人には、「生きていく理由ができてよかったわね」とポンと肩を叩いてあげたい気がする。二十年ばかりもあなたのヒマをつぶしてくれるのだもの、子どもに感謝こそすれ、あとでモトをとろうなんてセコイことは思いなさんなよ、と言いたくなる。『ミッドナイト・コール』
(p.149)

 人生も子育てもしょせんヒマつぶし。

 醒めたニヒリズムは、他者を領有しようとしたり、パワーゲームに没入して害悪をまき散らしたりすることを防いでくれる。

 どうあがいてもいつか人間どうせ死ぬんでしょ。
 この諦念が生み出すニヒリズムは強い。

 学識も経験知も世間知もまだまだこれからという若い人には、けっこう刺さる「上野語録」であるのかもしれない。

目次
第1章 「人生」のサバイバル語録
第2章 「仕事」のサバイバル語録
第3章 「恋愛・結婚」のサバイバル語録
第4章 「家族」のサバイバル語録
第5章 「ひとり」のサバイバル語録
第6章 「老後」のサバイバル語録
第7章 「女」のサバイバル語録
第8章 「未来」のサバイバル語録


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