前にも書いたことだが、1990年代、「よりよい性の商品化」だの「性の自己決定」だの、売買春やそれに準じる行為を正当化するような議論が、しかも男たちによってなされ、強烈な違和感と嫌悪感をおぼえたことがある。
かりに、就職、就業にともなう性別格差が、賃金も含めて解消されていて、失業者には生活保護か、それと同等の最低所得が保障されているとすれば、つまりは自らの性を売りものにする以外の生活上の選択肢が保障されているとすれば、「性の商品化」や「性の自己決定」肯定論にも多少なりとも説得力があっただろう。(暴力被害、性感染症被害のリスクに加えて、売り手が女性の場合、妊娠の可能性もあるわけだから、そうであっても、わたしは肯定しないが。)現実には、圧倒的な不平等があり、生活手段も限定されているなかで、「それはあなたが望んだことですか」と当事者に問うこともなく、よくそんな主張を、しかも主に「買う」側が言うか、というのが、違和感と嫌悪感の正体である。
本書でも言及されているが、アイドル(の性)の商品化も不快きわまりない。CDを買ったら(アイドルと)「握手できる」とか、10分1万円で「おさわりできる」女子高生のお小遣い稼ぎ(よく知らないが)と変わらない。ついでに言えば、大学のミスコンも、男目線でかわいいあるいは美しい、さらには媚びる女を称揚するもので、これまた不快きわまりない。(上智大学はやめたようだが賢明だ。)救いようがないのは、アイドル商売だのミスコンだの、企画しているのが、自省心のない男どもである点だ。恥を知れ、と言いたい。
本書の主要論点からは外れてしまったが、暴力のみならず、身体を商品化されて、傷つき、長期間にわたって苦しむ人たちの存在を知るだけでも、本書を読む価値はある。また、河野さんたちが、そのような人たちに、真摯に向き合ってきたことも、また親身に相談に応じてくれる窓口があることも、広く知られてほしいものだ。
コロナ禍で、イギリスでも、生活苦から、自らの身体を売る女性が急増しているそうだ。日本も同じ状況だ。いざというときに、国民生活を守らない政府など、要らない。
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