Entrance for Studies in Finance

情報の電子化と図書館の将来

ネット上の情報への移行(2009年の記載)
 インターネット上の情報は信頼できないが図書雑誌など紙の印刷物は信頼できるという議論がある。これは間違いだ。世界各国の白書など政府刊行物や国際機関の出版物が、ずっと前からインターネットで配信されている。これを信頼できないといえるだろうか。内容は印刷されたこれら政府・国際機関の刊行物と全く同一である。さらにコストの点で紙での印刷は限定されるようになり、事実上インターネットでしか利用できない資料も多い。
 また現在、学術雑誌の中には電子媒体で刊行される物が少なくない。
 そして研究者の多くは、図書館や資料室に足を運ばなくなった。
 
電子化で図書や図書館はどうなるか(2009年の記載)
 だとすると電子化*で古い図書はどうなるのか。グーグルはすでに600万冊とも700万冊ともいわれる絶版本を電子化している。確かにこのグーグルの動きに賛否はある。絶版本へのアクセスが簡単になるとして、この電子化を支持する声が多いと私は考える。
 電子化はデジタル化(diztizing)ともいう。デジタル情報に置き換えてコンピュータで取り扱えるようにすること。文字や画像や音声はアナログ情報と呼ばれる。その特徴は連続した情報であること。連続した線。色の濃淡。これを離散的な情報に置き換えて、コンピュータで扱える情報に変換することをデジタル化あるいは電子化と呼んでいる。

 書籍の電子化は何をもたらすのか。理屈のうえでは、書籍という形で書籍を保管する必要がなくなり、書庫が不要になる。さらに大胆にいえばネットにつながるPCがあればあらゆる情報へのアクセスが可能になる。
 図書館はまずはそうしたサービスへの入り口になるべきだが、詰めていえば図書館という物理的入口も不要になってきている。ネット上の図書館の入り口つまりは端末だけで十分だと考えられる。つまりはこういうことだ。最初に登場するのは、本のない図書館。そしてつぎにくるのは図書館という空間そのものの否定。
 
 電子書籍端末や電子携帯端末は、電子化されたデジタル情報を移動可能なものportableにした。アマゾンドットコムでは2007年に電子書籍端末「キンドル」の販売を米国で開始した(399㌦)。2008年までに販売台数は50万台に達した。新聞・雑誌・図書をキンドルを使ってデータを購入して閲覧できる。さきほどのグーグルとの違いは、これらは新しい資料だという点である。つまり刊行される形が紙媒体から電子媒体になったということである。2009年9月に米国で配信されている図書は35万冊以上になった。
 電子端末は、書斎や事務室、図書館だけでなく、どこにでもそれを持ち歩くことを可能にした。図書館という場所さえ不要になった(2009年末の普及台数は300万台 キンドルが約180万台 ソニーリーダーが約100万台など)。
 2009年10月には日本を含む世界各国でもアマゾンのキンドルの購入が可能になった。販売価格は279ドル(普及版)。1冊のダウンロードに要する時間は1分以内。1500冊分のデータを保存でき、文字の大きさを6段階に調節できる。当面は英語書籍だが、将来は世界中のすべての書籍を60秒以内で消費者に届けることが目標とされる。

アップル アマゾン ソニー Googleの争い(2010年追記)
 2010年4月3日、米アップルが多機能電子端末iPadの米国での発売開始に合わせて電子書籍に参入(購入すれば自社以外の端末でも閲覧できるがこれは他社も同様)。当初の発売は米国、日本など10ケ国。2010年6月22日、同社は6月21日まで発売以来80日で300万台超を販売したと発表した。この普及の勢いは、多機能電話端末iPhone、携帯音楽プレーヤーiPodなど同社のこれまでの製品を上回っているとのこと。
 2010年6月21日 アマゾンは書籍大手チェーンのバーンズアンドノーブルが同社の独自端末Nookの販売価格を259ドルから199ドルに引き下げると同日朝発表したことに対抗して、アマゾンのキンドルの価格を259ドルから189ドルにすると発表した(なおこの時点でアマゾンの電子書籍端末の米国での推定シェアは6割程度とされる)。
 2010年7月 ソニーの電子書籍端末リーダーはアマゾンキンドルに次ぐシェアをもつとされるが、ソニーがリーダーの販売価格を値下げした。主力のデイリーエデイションを349.99ドルから299.99ドルへなど。ソニーの製品は割高だが、画面がキンドルより大きい点、タッチパネル方式である点が評価されているとのこと。
 2010年7月19日 アマゾンは過去3ケ月間の電子書籍販売がハードカバーを上回ったと発表した。
 2010年11月25日(木) ソニーはリーダーの日本語版を12月10日(金)に国内で発売開始するとした。約1400冊の書籍を収納できる。価格は2万前後(5型)と2万5000円前後(6型)。眼に負担が少ない電子ペーパー方式(白黒表示のみ)、消費電力抑え2週間連続使用可能。
 2010年11月29日(月) シャープは高機能端末ガラパゴスを12月10日(金)から発売開始するとした(Googleのアンドロイドがベースソフト)。雑誌誌面が見開きで読める10.8型765gが5万4800円。5.5型(7時間駆動)が3万9800円。(この時点でアップルiPadの価格は9.7型680gで4万8800円)
 2010年12月6日(月)。Googleは同日から米国で電子書籍販売を始めた(Google e-booksに300万冊以上をそろえ、うち数10万冊を有償で販売)。そしてこのGoogleと組んできたのはソニーだとされる。米国では電子書籍市場の急速な拡大が進んでいる(2010年見通しの9億6600万ドルは前年比3.2倍 ペーパーバック市場は2009年10億4200万ドルは縮小傾向のため電子書籍に抜かれた可能性高い 日本の市場は2008年度464億円 2009年度574億円で23.7%増 うち携帯電話向け513億円 パソコン向け55億円)。

アメリカに遅れること5年。日本でも電子書籍の販売が2012年頃から本格化した。紙の出版市場は縮小傾向が続いている。今後は電子書籍の急速な増加を予想できる(2014年3月追記)

 2012年度の電子書籍の市場規模729億円(インプレスビジネスメデア調べ)有料の電子書籍を購入したことのある利用者はまだ4%程度 普及は10台が中心とされる。この市場拡大のきっかけは2012年のアマゾンの日本市場参入ではないかと思われる。少しずつこの変化は年齢の高い層にも普及して、やがて書籍の多くの電子化が予想される。2013年度の市場規模は1010億円。2016年度の市場規模予想2000億円 タブレットヤスマホの普及が力となり 2017年度には2390億円と予想されている
 他方 国内出版の市場は縮小が続いている。2011年で1兆8042億円 7年連続の減少。

電子書籍各社の状況(2014年)
 e-book initiative japan 2000小学館を独立した鈴木雄介氏が仲間と設立 2001手塚プロから手塚全作品の配信許可 2011年東証マザーズ上場 2013東証一部上場 2014年3月現在 85000冊のマンガを配信。
 講談社が電子書籍のタイトル数を大幅増加 2012年1月5000冊 2013年1月1万点以上 2014年1月従来比5割増1万7000点。
 Kadokawaは2014年1月に6割増しの1万5000点。すでに2013年7月今後すべての新刊をすべて電子書籍化表明。2013年 アマゾンと電子化で国内出版社として初めて契約。

電子書籍:サービス停止時のコンテンツ利用継続で課題、出版社と配信者の間では小売り価格の決定で出版社による価格拘束やカルテルの問題 の経緯
SII 2014年10月 電子辞書事業(スマホの普及で市場縮小)から撤退
LINE 2014年10月 LINEマンガ海外配信へ LINEアプリは世界で5億人が使用 9割が海外
講談社 2014年9月 NECと電子書籍の新しい制作システム運用SMS: smart source editor開始 すでに2012年から紙と電子の同時刊行を一部で始めていたが秋からは全作品で
集英社 2014年9月 少年ジャンプ 紙と同時で電子版を発売 月額900円で紙より割安
AMAZON 2014年7月 キンドル向けに定額読み放題サービスを検討中 月額9.99ドルで60万冊読み放題
CCC 2014年7月 凸版の子会社ブックライブと提携 年内にも書籍購入で電子版無料サービスAirBook開始
KADOKAWA 2014年7月 ツイッタージャパンと提携 ツイッター上で電子書籍立ち読みサービス開始(感想文の投稿と友人による書籍閲覧)
ソフトバンク系ビューン 2014年6月 会員制のビジネス書配信サービス開始
講談社 2014年6月 Gyao(ヤフー傘下)と共同で女性向け月額サービス 女子コミ開始
インプレス 2014年6月 2013年度の電子書籍市場 前年度比31.9%増の1013億円(コミック伸びる) スマホ向け市場が急速に拡大114.4%増798億円 携帯電話向け市場は激減
アルメデイア 2014年3月 13年5月1日の全国書店数は1万4241店 2003年比で4900店25%減少 中小店は減少 大型店増加 大型店の在庫の4割が1年間売れない不稼働在庫
Sony 2014年2月 北米の電子書籍販売事業から撤退 事業は楽天系コボに移管へ
出版デジタル機構 2013年5月 凸版系電子出版取次大手ビットウェイを約20億円で買収
DeNA 2013年12月 講談社や小学館と提携して電子雑誌を創刊
文教堂 2013年12月 紙の雑誌を買うと電子版を無料閲覧できるサービス開始
Google 2013年11月 NY連邦地裁がグーグルの全文複写プロジェクトで著作権侵害を認めず
コネッツ 2013年9月 教科書12社と日立ソリューションズがデジタル教科書の開発・普及の団体コネッツを設立
楽天 2013年7月 電子書籍端末を再値下げ5480円に
楽天 2013年6月 出版取次3位の大阪屋を傘下に収める 日販7000億 トーハン5000億 大阪屋1000億割れ とされる。
アマゾン 2013年5月 サムソン電子からリアクアビスタ(オランダ カラーDPの開発)を買収 買収額は1億ドル未満
東芝 2013年4月 単独で電子書籍サービス開始 凸版との協業は中止へ
LINE 2013年4月 LINEマンガ配信開始
アップル 2013年3月 日本国内 iブックストア開店 端末iPad iPhoneなど
凸版 2012年12月 電子書籍専用端末発売
出版デジタル機構 2012年11月 電子書籍の配信開始
KDDI 2012年10月 12月からスマホ向けに定額読み放題サービス開始
ドワンゴ 2012年10月 電子書籍の有料配信を発表
改正著作権法 2012年10月 違法な音楽動画のダウンロードに罰則
Amazon 2012年10月 日本国内の電子書籍市場に参入 端末 キンドル キンドルファイアなど(国内出版の対応は出版社が販売元になる委託方式:講談社、小学館、文春などとアマゾンが販売元になる卸売方式:新潮社、角川、幻冬舎などに分かれる)Amazonの販売力は圧倒的
Sony 2012年10月 電子書籍サービスでアンドロイド系他社端末に対応へ
Google 2012年9月 日本国内の電子書籍市場に参入(グーグルプレイ)端末ネクサク7
大日本印刷 2012年8月 三井物産から日本ユニシス(クラウドで運用実績)の株を取得し筆頭株主へ(物産保有株の3分の2 18.9%)クラウドを活用した配信事業強化 エレクトロニクス事業(顧客の帳票・日報などの電子データを保管配信)の採算を改善へ
富士写真フィルム 2012年7月 電子コミックの政策支援事業開始(電子コミックファイル制作ソフトを販売へ)
楽天 2012年7月 日本国内の電子書籍市場に参入 端末コボタッチ コボ7980円 なお11月には6980円に
ブックライブ(凸版系電子書籍運営) 2012年3月 三井物産 日本政策投資銀行 東芝 NECが資本提携
産業革新機構 出版デジタル機構に150億円出資 2012年4月発足 中期的に100万点の電子化目指す
楽天 2011年 カナダのコボを買収へ 買収金額236億円
Apple 2010年 iPadを発売
Amazon 2007年 キンドルを米国で販売 →2009年 日本でも購入可能になる

電子書籍をめぐる論点:端末を安くしてコンテンツで儲ける
当初 配信サービスで廉価な端末を普及させて、それからコンテンツで稼ぐというアマゾンのビジネスモデルが
注目された。その後 楽天がこのアマゾンのやり方を徹底して模倣した。
Amazonは廉価なキンドルの投入でコンテンツで儲ける姿勢を示すが 楽天はコボを値下げ投入して対抗
楽天は2011年にカナダのコボを買収して2012年電子書籍市場に参入。

出版社にはコンテンツ作成の負担がネック
出版電子化の勝利者は誰なのだろうか。配信業者だろうか。コンテンツの提供業者だろうか。
日本の出版電子化では講談社が刊行物のすべての電子化をいち早く決定 注目された。
電子化にはコストがかかる。そこで中小の電子化を支援するのが出版デジタル機構である。 
この機構は、出版印刷業界の大同団結 さらには産業革新機構の出資を受けることでスタートできた。
 現在は済産業省の補助事業を進めている。
 ただ電子出版は、新たな出版の道を開いたともいえる。最初から電子出版だけを考えたものも登場。
電子出版で人気を得たものが紙の印刷で再版される例も出ている。
 とくに少部数しか出ないものについては、電子出版の方が適切かもしれない。

Sonyの配信のオープン化
電子書籍販売でアマゾンの優位が際立つ中、Sonyは電子書籍配信のオープン化を進めている。
Sony 自身の端末にこだわり市場で劣後したことから 2012年にアンドロイド系他社端末に対応 
さらに2013年にアップルへの対応方針決めている。オープン化であるが、戦略的というよりは
市場で劣後しているため、配信のオープン化を迫られたようにも見える。
なおSonyは北米事業については2014年に撤退表明。豪州 欧州でなお現地出版と組んで事業生き残り図っている。

なお楽天の配信事業は2013年4月からアップル端末に対応している。 

電子出版権法制化の問題
著作権法に電子出版権儲ける 電子出版権は持つ出版社は原稿をうけとってから6ケ月以内に出版義務。電子出版権は一定期間後消滅(紙の場合は3年)。電子出版権を与えられた出版社は、第三者の電子出版を許諾する権利(サブライセンス)を持つ。2014年の通常国会に著作権法改正案提出。⇒出版社は差し止め訴訟で海賊版に対応できるようになる。確実に出版されることから著作権者が契約を安心して結びやすくなる。

消費税課税の問題
消費税課税で不平等 国内にサービスを提供する拠点がある場合に課税
 米アマゾンのキンドル向け電子書籍は海外データセンターが配信元のため課税されない。
 楽天のKOBO向け書籍もカナダ子会社が配信しているため課税されていない。

著作権の扱いの違いの問題
日本では著作者の死後50年 映画は公表後70年。
米国では死後70年。映画などは公表後95年あるいは創作後120年の短い方

0riginally appeared in October 23, 2009
Corrected and reposted in March 30, 2014
Reposted Oct.21, 2014

教育論
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