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アメリカン・コミックのヒーローたち

「Batman Begins」(2005)は「バットマン」誕生秘話を描く娯楽大作である(配給ワーナー)。幼い時の両親の虐殺とそこからの精神的な回復の道のりがアジアへの旅として描かれる。監督Christopher Nolan(1970-)。ヒーローの内面を描いた「スパイダーマン2」(2004製作コロンビア配給ソニーP)もヒーローの弱さを描くことで、観客の共感を得ることに成功していた。バットマンBatmanは富豪の御曹司、スパイダーマンSpider-Man は庶民の子供という設定の違いは興味深い。両者の違いは、成立年代が大きく違っていることを示している。バットマンのキャラクターはBob Kane(1915-1998)により1939年に創作された。
もともとコミックから出ているこうした映画は、10代前半の男の子が対象だから人物の作り方は浅くなりがち。日本の大人がお金を払って映画館でみて人物描写の幼稚さに辟易するのは当然。でもこの2本は少し異色でそれなりに楽しめる。
 1939年には、宇宙からやってくるスーパーマンSupermanのキャラクターもJerry Siegal(1914-1996)により創作された。ところで1939年という年は国際的緊張の高まりの中でアメリカの役割が問われていた年であった。1939年9月にドイツがポーランドに侵攻し、フランス、イギリスはドイツとの開戦を決断する。しかしヨーロッパへの介入に逡巡するアメリカが参戦を決断するのは1941年12月の日本による真珠湾攻撃を受けて世論が沸騰するのを待ってになった。上方から地球の平和を守る正義のヒーローがこの1939年に登場するのは偶然ではないだろう。
 スパイダーマンは、1971年にStan Lee(1922-)が生み出したキャラクターである。当時、アメリカ社会は公民権運動の最中にあり、社会的差別に社会全体が敏感になっていた。また泥沼化したベトナム戦争の前に、国際紛争にコミットする自信を喪失していた時期である。したがって時のヒーローは、やはりバットマンとは違い庶民出身で、またスーパーマンとも違い地球全体の平和よりは荒廃した国内都市の平和を守る必要があった。
「スパイダーマン3」(2007)は大作で特撮もすばらしかったが人気がでなかった。人気が出たスパイダーマン(Tobey Maguire)と俳優として成功しないMJ(Kristen Dunst)というお話だが、多くの批評に共通したのは、絶好調のスパイダーマンでは人間性を感じないということだろう。ところでMaguire本人は苦労人で高校を中退して演劇の世界に入った。映画の中でも彼が食べたり飲んだりするシーンがないが徹底したvegetarianとして知られる。
テレビドラマやコミックにもっとも取り上げられたのはSupermanだろう。なかでもAdventure of Supermanと題した1952-58年製作のTVドラマは繰り返し再放送された。だが主演のGeorge Reeves (1914-1959)がピストル自殺をしたことは残念なことだった。その理由は不明で女性関係が原因ともされるが、一部にSuperman俳優としてあまりに成功したためほかの仕事が来なくなったことが原因との説がある。
 この事件は大きな衝撃をアメリカ社会に与えたが、その後、Christopher Reeve(1952-2004)が主演した劇場映画シリーズ(1978)(1980)(1983)はこれも好評だったが、そのReeveが1995年5月の落馬事故で四肢不随となった。一時は公の席にも車椅子で登場したが闘病のすえ2004年に心不全で亡くなった。闘病を支えた妻のDana Reeve(1961-2006)も2年後の2006年3月Superman Returns(2006)の完成を待たず肺ガンで亡くなった。このような演じる俳優の側のあまりに人間的な悲劇はSuperman主演俳優の悲劇としてよく知られている。
 Bryan Singer(1965-)監督、Brandon Routh(1979-)主演のSuperman Returns(2006)が、こうした迷信を吹き飛ばすとよいのだが(配給ワーナー)。
なお「ヤングスーパーマン」(原題Smallville)という若き日のクラークケントつまりスーパーマンになる前のクラークケントの悩みや生き方を描くテレビドラマシリーズ(2001-)がある。こちらの主演はトムウエリング。NHK教育テレビで放送され(2003)、現在はCSで流されていて熱心なファンも多い。実はこのシリーズにCristopher Reeveが出てくる場面がある。Reeveの最後の姿として印象に残る。
Christopher ReeveとともにMichael J.Fox(1961-)についてここで語りたい。Back to the Future(1985)で主演した彼の作品が1980年代で終わっているのは、Parkinson's deseaseという難病にかかっためである(なおパーキンソン病は中脳黒質の神経細胞でつくられるドーパミンが、神経細胞が死滅して作られなくなり
運動機能が調節できなくなる病である)。
 Fox発病の事実は1991年に明らかになり、これも大きな衝撃をアメリカ社会に与えた。なおFoxは発病公表後もThe American President(1995)などに登場しているが、演技にやや不自然さを感じるのはわたしだけだろうか。
 難病を患いながら社会活動を続けている人としてイギリスの物理学者Stephen William Hawking(1942-)はあまりにも有名である。彼の病気は筋萎縮症と報道されたこともあるが、motor neurone desease MNDの一種を患っていると考えられる。
 なおSupermanでは悪役Lex Luthorを誰が演じているかも注目点。ここは演技派の俳優を使い、存在感を示して欲しいところ。(1978)(1980)の旧作ではGene Hackman(1930-)だったが、今回の2006年の作品ではKevin Spacey(1959-)だった。Hackmanはバスケットボール映画のHoosier(1986)でCoach Norman Dale役で登場し、Shooter役のDennis Hopper(1936-)と絶妙な絡み合いを見せていた。

 最近になって気になるのはハリウッド映画におけるアメリカ大統領の描き方である。とくにBill Clinton(1946-)が大統領を務めていた時期(1993-2001)は興味深い。Clintonは女性問題で批判されたものの国民の支持率は高かった。
 Michael Douglas主演(President Andrew Shepherd)のThe American President(1995)は、独身大統領の女性との交際をユーモアを交え温かく描いている。
これに対して、Independence Day(1996)のBill Pullman(President Thomas Whitmore)やAir Force One(1997)のHarrison Ford(President James Marshall)は外敵に対して戦う大統領の象徴だろう。
そしてThe Deep Impact(1998)の黒人大統領President Tom Deck(Morgan Freeman)は明らかに融和の象徴だ。
これらがクリントン大統領の時期に作られた映画だということも興味深い。
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. 
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