Entrance for Studies in Finance

安江英行・劉新宇「国際企業法務入門」2012


この本の正式タイトルは「事例でわかる国際企業法務入門 日米英中の各国法による実務」でやたらと長い。中央経済社から2012年刊行。以下では、中国法の部分はカットした。中国の法制はまだ変化すると思えること、英米と日本の比較で注意すべき論点は一応分かると思えるので。

契約のルールの違い
英米では契約義務は厳格に履行する責任があるが、日本では自らの責任に帰することのできない事象による不履行については免責を認めている。不履行の場合の違約金の規定は、日本では契約原則自由の原則から、有効な合意とされるが、英米では実際に生じた損害を賠償することが基本であり、制裁的penalty条項は無効とされる。日本は口頭で契約が成立する範囲が英米に比べて広い。どの国でも保証行為は書面契約が必要。正式の契約締結前に締結が相手側の事情でできなくなった場合、それを契約違反として損害賠償請求することはどの国でもできない。

債権譲渡(assignment)
英米でも日本でも譲渡可能である。(企業の場合であれば売掛債権など。金融機関の場合は貸付債権などに譲渡可能がある。従来はそれを買い取りをして終わったが、現在は期間が長い債権についてはそれを証券化商品に仕立てることも行われる。流動化することによって、資産の回転率が高まり資産効率は改善される。)
   アセットファイナンスについて(三菱UFJ銀行の説明)

契約における責任の違い
(売買契約 引き渡し時点がずれる場合の所有権及び危険負担)
米国では、引き渡し時点まで売り主側。日本と英国では、特定物は契約時点から買主側、不特定物は引き渡し時点まで売り主側にある。)
(瑕疵担保責任warranty )
契約取引後、判明した数量の不足、品質における隠れた瑕疵。このようなwarranty違反は米国でも厳しく問題にされる。英国では、conditionとwarrantyを明確に分け、契約解除まで至るのはconditionの方だとされる。

債権保全法制の違い
たとえば債権を担保にする場合、第三者(債務者 譲渡者 譲受人以外の第三者)対抗要件をどうするかが問題になる。日本では2005年に動産および質権を担保にする場合の登記制度が整備された。
破綻の場合の債権保全については、日本では、民事再生法(会社及び個人)または会社更生法(会社のみ)により債務を軽減して事業を継続する方法がある。米国のchapter 11を真似て民事再生法はつくられ、従来の経営者が残ることが可能になった。英国では、従来の経営者は再建では排除される。

独占禁止法における違法の違い
販売地域の協定:日本では当然違法ではなく、市場への影響により違法性を判断。米国や英国では当然違法。
販売価格の下限の指定(再販価格維持制度):日本では正当な理由がない限り違法。米国や英国では当然違法。
抱き合わせ販売:日本では不公正取引として制限。米国では売り主が巨大な場合、英国では市場支配の濫用となる場合、違法。
合併の場合の事前届け出義務。日本では売り上げ200億円超の企業が50億円超の企業を買収ないし合併する場合。米国では買収者が取得する資産等の総額が2億ドル超の場合。

ガバナンスの扱いの違い
取締役報酬 アメリカでは取締役会で決定できる(これには批判がある)
独立取締役 (アメリカでは重視されるが)社内情報を十分入手できるかに課題がある(業務執行側が情報提供を阻むケースが知られている)
英国や日本では取締役と業務執行の分離が明確でないことが多い。米国の場合は業務執行役員と、取締役会が分離されるが、CEOが取締役会議長を兼任し、CEOに権限が集中する傾向がある。

#制裁条項 #瑕疵担保責任 #再版価格維持制度 #民事再生法 #登記制度 #アセットファイナンス
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Area Studies」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2024年
2023年
人気記事