Entrance for Studies in Finance

US shale gas revolution: シェールガス革命 

シェールガスおよびシェールオイルの開発で水圧破砕=フラッキング(fracking, hydrofracking, hydraulic fracking:水の圧力で地層にヒビ割れをつくりガスが流れるルートをつくるもの)による地下水汚染(L字型の井戸に化学物質を含む特殊な水の高圧注入して頁岩(けつがん shale)層にヒビを入れてガスを採取する L字型というのは地下を垂直に2000メートル以上掘りさらに水平に2000メートル以上掘る:水平坑井とのこと 固い岩盤を水平に掘り進む)が問題になっているという記事を見て、昔の米国の金鉱山開発でも水圧を使った開発による環境破壊が問題になったことを思い出した。
 Pale Rider (1985 film)におけるhydraulic mining scene
Pale Rider (1985)についての私の解説
シェール井は寿命が短く開発から数年で生産量が急減する。業者がそこでつぎつぎに井戸を掘ることになる。テキサス州は全米で掘削中の井戸の半分がある。年2万件の新規掘削認可。

問題はこれは水道の水源である地下水を汚染する点にある。汚染水やメタンガスが地下水に流れ込む被害が各地で生じているとされる。アメリカではこのほか、鉛管を水道管に使っていたミシガン州フリント市で、水道管の鉛が溶けて水道管に流れ込んで深刻な被害をもたらしているとされる。1)財政難のためステンレス管への切り替えが進んでいないこと 2)水源を一時フリント川の水に切り替えたことで塩分濃度があがり、水道管の鉛が溶けだしたこと 3)降雪地域で冬に道路に塩をまくことも影響した、などとされている(選択2016年3月p.12-13)。

欧州ではフランス、ドイツでは地下水汚染の懸念が強いとされる。

shale gas revolutionとは以上のような問題をかかえながら、技術的進歩により、米国で2000m以上の深いところの頁岩(shale)層に閉じこめられていたガスの採掘利用が可能になったことを指す。これにより米国の天然ガス・石油の採掘量が飛躍的に増加したことを指している。

なお米国でのシェールガス革命の背景には全米のガスパイプライン網の存在があり、新設のガス田からの接続が容易だったこと。また米国では地下資源の開発権が地上の土地所有者にあって、このことが開発業者による権利の取得ー開発の流れを円滑にしたとされる。したがって、この革命は米国の条件でこそ可能だったという言い方がある。

採掘技術が進展した2005年頃から生産は急拡大(2005年を底に天然ガスの生産が増加)。2020年にはガスの純輸出国に。2040年には米国のガス産出の半分を占めると見られている。
米国では2008年以降 大幅に天然ガスの価格が低下している(基本的に国内の需給関係で決まる この米国産天然ガスの輸入は原子力発電所の事故により海外から割高な天然ガス輸入を行っている日本が強く希望している 日本をはじめアジア諸国では原油価格に連動して天然ガス価格を決めているため割高な価格で購入する羽目に陥っている。原油価格連動はもともとは安定供給を優先した合意によるものだが 2008年以降 米国や欧州での天然ガス価格に比べて』極端に高値にかい離するようになっている。2013年3月現在、米国の価格に対して 英国の指標価格は3倍余り 日本の価格は4倍余り。日本の輸入価格は常識では理解しがたい高値になっている。)。
結果として中東のガスが欧州に回り、ロシア(世界最大の天然ガス埋蔵量を保有するが生産量は2007年以降横ばい)の北西部のガスはアメリカに換えて東アジアへ(ロシアも天然ガス価格を原油価格と連動させているが)。天然ガス価格は低下へ。
 ガスとともに出る原油で2017年には米国が世界最大の産油国になるとの予測もある(これが輸出に回り原油需給が緩和するとみられている 2008年を底に原油生産が急増)。
 エネルギーコストの低下は、米国経済全体に大きなプラス要因になっている。発電 輸送 産業 などのコストを広く下げる効果が期待されるし、米国の製造業の競争力が回復するとの見込みもある(日本企業のなかにはまず商社などがガス田への権益確保に動いたほか、電力会社ヤガス会社は輸入を模索、化学業界では米国に進出してこの低価格のメリットを生産に生かそうとするなどの動きがある)。
 ロシアはガスの供給を東欧諸国を服属させる方策としていたが、東欧諸国にすればこれは「ロシアのくびき」。これによって親米路線を抑え込んでいた。有名な事件として2009年1月のウクライナに対する代金未払いを理由としたガス供給停止事件がある。東欧諸国では、そこで自前のシェールガス開発が課題になっている。
 他方で米国が中東など産油国への関心を低下させた空隙に、中国が進出を進めているとの報道もある。 

 今回の開発方法については、地下水の汚染のほか、1本の井戸にプール5杯と形容される、大量の水を使うこと自体も問題になっている。これに対して使用する地層を溶かしたり摩擦を減らすために加えられる化学薬剤の開示を義務付ける動きがあるほか、対策としては廃水の保管施設の整備、再利用。飲用に適さない地下層の水を破砕水に利用することなどが進められている。
 シェールガスの普及で米国では天然ガス価格が大幅に下がった(2013年1月16日付けのBPの予測では、2013年にも米国がサウジを抜いて世界最大の産油国になるとみられている 原油価格維持のためサウジは減産中。2013年の2位はロシアと予測される。2035年までに米国はエネルギー自給が可能になるとも。もともと米国は世界最大の産油国で原油輸出国でもあった。1970年代に国内油田の生産がピークに達し、石油輸入依存度が上昇。2011年の石油消費の輸入依存度は60%。)。シェールガスの埋蔵量は北米やアジアに多くて中東依存のエネルギー地図を塗り替えるとされている。(中国 米国 アルゼンチン 南アフリカ オーストラリアなどで大きな埋蔵量がわかっている→エネルギー資源を政治的武器として使ってきたロシア、ベネズエラ、イランでは切り札の価値が低下。米国では中東への関心が低下するとの観測もある)。
シェールガス革命により米国では輸入ガス需要は低下。またガス料金が低下(2012年4月には2008年の高値の6分の1以下まで一時低下。エネルギー価格の下落はインフレ率を抑えほか、新興国にとってプラスに働くとされる)。製造業の国内回帰が促されているとも。
 シェールガスから得られるエタンを原料とするエチレンプラントなどの計画が続々と発表されている。天然ガスで鉄鉱石を還元する直接還元炉新設の動きがある。石炭火力に代わるガス火力発電の動きがある(さらに電力コスト抑制→電炉の競争力上昇)。天然ガスを燃料とするCNG車(ガソリン車より排ガスがクリーン)発売の動きがある など
 中国は米国技術導入によるシェールガス実用化を急いでいるとされる(2009年の推定埋蔵量は中国、米国、アルゼンチン、メキシコ、南アフリカ、豪州、カナダの順。ただし中国の埋蔵はゴビ砂漠など開発の難しい地域に分布。中国や欧州については地層についてのデータの蓄積が不十分で開発は単純ではないとも。)。

なお日本でも2012年10月4日 石油資源開発が秋田県で採取実験に成功して話題を呼んだ。ただし秋田の埋蔵量は県全体で日本の原油消費量の1ケ月程度(1億バレル)。技術の蓄積に主眼はあるようだ。

原発の発電停止で発電燃料の一つである天然液化ガスの消費量が日本では急増している(震災前に比べて輸入価格は2倍近くまで高騰している。背景には原油価格の価格がそのまま反映される価格方式の問題がある模様 日本は世界最大のLNG輸入国(2012年で世界の輸入の32% 2位は韓国の15%)。韓国や台湾も輸入量が多い。輸出国はカタール、インドネシア、マレーシア、豪州など。ポーランドでも開発が盛んとも。なお日本の輸入先は多様化が進んでいる。2011年はマレーシア18.2% カタール17.2% インドネシア9.5% ロシア9.3% ブルネイ7.4% アラブ首長国連邦6.8% オマーン5.1%など。日経新聞2012年5月29日)。そこで日本はこの米国産天然ガスの輸入を切望している(輸入価格と米国ガス価格との価格差は7倍 米天然ガスは輸送費を入れても輸入価格の半値で収まる)。米国のエネルギーメーカーは輸出に積極的。しかし米政府は価格上昇を懸念する米国内化学メーカーや国内世論への配慮から、このガスの輸出に消極的とされる(輸出は許可制で限定的 日本が輸入を開始できるのは早くても2016年からとみられている)。
ここで一見無関係なFTA(自由貿易協定)問題が絡む。米政府はFTAを結んでいない国への輸出を厳しく制限していたが、米国との信頼関係を欠く民主党がようやく政権から降りて安倍政権に変わったことで事態は進展(2013年5月17日 米エネルギー省は天然ガスの対日輸出解禁を発表した)。背景には生産増に対して国内需要がおいつかず価格が低迷している矛盾がある(13年4月には開発会社の経営破たんが伝えられた 一方では開発ブームで鉱区の権益価格が高騰 他方でガス価格の低下で開発会社の経営は悪化しているとされる)。

シェールガス革命の効果は多面的だが 原油貿易赤字の縮小を通じたドル高効果も注目される。北米でガス開発に絡んだ投資が世界的に進んでいることも注目点だ。生産拠点を米国に呼び戻す効果も期待されている。日本では天然ガスの調達コストが下がることへの期待が高い・・・ということはますます原発に頼らなくよいはずだけど。

資源輸入が減りドル高によって輸出が不利になるとも。資源輸出の拡大が裏目にでる。オランダ病ともよばれる。アメリカ、ブラジル、豪州が経験。

他方で、米国は輸出に消極的であっても、米国のLNG輸入量が低下することで、国際的にはLNGあるいは石炭に過剰感が生まれ、これらの価格を下押ししているとのこと。インドネシア、豪州、カタール、ロシアなどLNG輸出国の戦略にも、シェールガス革命は大きな影響を与えている。→このことを利用して原子力発電に頼らず発電コストを引き下げにつなげられる可能性がある。

なお2011年6月下旬から上昇を続けていた原油価格(ロンドンの北海ブレント価格 NYのWTIともに なおシェールガス革命や安全保障上の理由からの輸出制限、パイプライン計画の遅れによる国内過剰在庫などがありNYのWTI価格の国際指標性が低下している)は2012年3月頃をピークに下落。イランに対する経済制裁(7月から欧州連合は前面禁輸するとのこと)を受けたOPECのサウジなど穏健派加盟国の増産(原油が高騰すると石油離れが起こることを警戒している 脱石油の顕著な例は自動車における電気自動車 このほか船舶でもLNG 太陽光 リツウム電池の導入等の動きがある 航空機の分野ではジェット燃料にバイオ燃料を加える また米国では自動車の燃料に天然ガスを加える動きが盛んである)の動きも影響しているとのこと。なお日本ではこの影響は円高である程度相殺される(他方 ユーロ圏ではユーロ安で原油価格の上昇が重くのしかかっている)。ガス価格が低下したことで、油田メーカーはシェールオイルの生産にシフト。またガス価格の低下により、ガスを燃料にした石油代替燃料GTLも話題。

originally appeared in June 2, 2012
corrected and re-posted in April 11, 2016

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