Entrance for Studies in Finance

Case Study: Shin-Etsu 信越化学

信越化学 塩化ビニール シリコンウエハーで世界トップ

 1990年以来社長として同社をけん引してきた、金川千尋氏が2010年6月29日付けで会長に就任。森俊三氏が副社長から会長に昇格。2016年4月 斎藤恭彦副社長を社長。森氏を相談役とする人事が発表された。金川会長のもと、2001年300ミリウエハーの量産化に成功。2004年には米国で塩ビ樹脂一貫工場を建設を決定。斎藤氏は2011年に米シンテック社長に就任。2015年には米国でエチレンプラント建設を決定。シェールガス由来の原料で低コスト生産を実現した(2018年にも稼働とされる 原料からの一貫プラントを実現)

 ブラジルなど中南米やアフリカなど新興国の上下水道 建材などの旺盛なインフラ需要を受けて急伸。米国の塩ビ子会社シンテック 2012年に米ルイジアナに新たに1000億円(もともと周辺の土地を拡張用地として確保。豊富な自己資金で建設資金賄う 同工場は2008年10月に稼働 2010年後半に完成 2012年に通年稼働 累積投資額は2400億円)を投じて原料工場を新設(→一貫工場化 自社原料比率を引き上げ:原料の自社比率を3割から6割強から7割近くに引き上げて つまり内製率引き上げで生産コストを引き下げ採算が改善 もともとダウケミカルから原料を長期調達契約で確保で事情の安定を図っていた シェールガス革命で原燃料の天然ガス価格の低下も米子会社の収益に貢献)。世界シェア1割 世界1位 シェールガスからエチレンの生産をして主力の塩ビのコスト競争力を引き上げる構想(2013年10月公表)があり、2014年4月に工場建設の許可申請をした。工場の完成は2010年代後半、建設には1000億円以上必要な大型プロジェクト。

  塩ビ樹脂や半導体シリコンなど7品目(2012年の世界シェア推計 合成フェロモン60%  液晶用フォトマスク基板40% シリコンウエハー30% ArF用フォトレジスト30%  塩化ビニール樹脂10%)で世界首位の商品をもち業績に安定感(2014年3月期予想売上高営業利益率16% 欧米の化学業界と比較しても高い利益率 圧倒的シェアを武器に高いコスト競争力と価格交渉力

相場変動が激しいcommodity化された商品を扱いながらいかに利益を上げるか。それを実践しているのが信越化学だ(売上高営業利益率201403期16% BASFは201312期6% ダウケミカルは同時期7%)。シェアとともに収益源の多様化がこの企業の強みになっている。シリコーン樹脂は世界シェア10%(2012年)で世界順位4位ながら、家電製品や自動車に幅広く使われていて今後の成長が期待される。シリコーンの上位メーカーにあるダウ・ケミカルとヂュポンが2015年に経営統合で合意。ダウがダウコーニングの完全子会社を目指すなど、シリコーンをめぐって化学大手の再編進む。

 半導体に使われるので スマホの需要伸びると半導体メーカー向けが増える。逆に2015年のよういスマホ需要の伸びが停滞すると出荷も停滞する。シリコーン(国内シェアは首位 世界シェアは1割程度)は化粧品にも使われる。シリコンは需要に波。塩ビは比較的安定。住宅ヤインフラなど。その塩ビでは世界シェア1位。

 業績下降局面でも巨額投資を継続 → 首位を生かして価格支配力を握り高収益確保(2011年3月期 純利益連結1001億円 単独445億円;2012年3月期 純利益連結1006億円 単独490億円 2013年3月期 売上高は1兆254億円で2%減 連結純利益で前期比5%増1057億円 連結営業利益前期比7%増1600億円強 3期連続増益)。複数分野に首位の事業があり収益を安定させている。景気後退局面でも積極投資を継続(米工場で生産能力拡大投資2013-2014 シェール革命で原料価格低下 さらにエチレンを米国で自社生産する構想を表明2013/10)、首位を追求する経営姿勢(生産能力を上げて製造コストの引き下げとシェア拡大の両面を目指す)。韓国サムソンに似たビジネスタイル。
世界的な塩ビ需要(住宅 インフラ 上下水道 建材 など幅広き需要 新興国向け需要拡大) スマホ タブレット向け 高性能半導体向けウエハー需要拡大。
 シリコンウエハー(半導体シリコンあるいはシリコンウエハー)から塩ビ レアアース磁石やフォトレジスト(感光性樹脂)等電子材料 シリコーンなど幅広く経営資源を投入。シェア向上に努めてきた。半導体シリコンウエハーに偏った体制から、塩ビ、シリコンなど利益のバランスを改善した経営力が評価されている。
 20138月には スマホ電池の容量を増やす新材料を開発していることが報道された。次世代電池の開発に信越が加わったことは、同社の次世代の商品開発としても注目される

 サムソン経営の特徴 垂直統合 自前主義 高水準の拡張投資
一般にはなじみがないが、塩化ビニール樹脂や半導体シリコンウエハーで世界首位企業(このほか液晶用フォトマスク基板 合成フェロモン ArF用フォトレジストが世界シェア首位 シリコーンは世界4位ながら国内では首位)。好調な塩ビ事業(中南米やトルコ向けあるいはアフリカ向け 上下水道・建材向け需要旺盛 北米向けも引き合い増えている)で半導体ウエハーの落ち込み(パソコン販売低迷で減る)補う。業績で安定感。米塩ビ子会社シンテックはフル創業。2012年にルイジアナ工場通年稼働(1000億円投資)。さらに追加投資(480億円)へ。
 このほかハイブリッド車やエアコンに使う希土類磁石。光ファイバー材料のプリフォーム。
 豊富な自己資金(2010年末で3000億円 2006年11月には5000億円ともされた)を能力増強投資にいかに生かすかが課題ともされる。しかし信越の設備投資計画規模をみると年間2000億円規模(2006-2008年)。高水準の投資といえる。
 この手元のキャッシュについてはシリコンウエハーの市況変化の大きさ。高い研究開発投資。生産能力投資が1000億円規模の投資となること。などを説明している。
 信越を率いてきた金川千尋さんの講演録によると、手元資金があるからM&Aをするという考え方はしないとする。事業の投資でまず考えるのは現在の事業への投資だとする。そして新規事業。最後にM&Aだとする。またバランスシートにのっていない、経営者従業員の質や能力は事業を成功させるうえで、大事な要素だとしている(2005年12月15日日本経済新聞)。常識的なことを言っているにも関わらず啓発的だ。

○シリコンウエハー事業
 近年はテレビやパソコン需要低迷で苦戦 2008年秋のリーマンショック以降 ウエハー価格が急落(直前に、需要のひっ迫から価格が上昇したこと、また信越とSUMCOの大型増産投資そしたことなども一因) しかしスマホやタブレット向けが伸びている:市況リスクが高い)(信越化学では、ウエハー設備の償却年数を2006年に5年から3年に短縮。減価償却を加速させている。固定費を一挙に下げる戦略。この積極償却戦略でSUMCOを圧倒 需要減でも利益を早く出す結果に→2011年3月の東日本大震災ではウエハーを生産する子会社の白河工場が被災したが7月には回復。世界シェア3割 世界1位
 なおシリコーン樹脂(2011年3月 白河工場が大震災で被災。在庫出荷と他工場での増産でシェアダウン避ける 2011年7月には震災前の水準に生産力を回復させる)は、高機能樹脂として自動車のエンジン周辺部材からパソコン 化粧品まで幅広く使われている。国内で5割 世界で1割のシェア
 (シリコーンについては2010年内に中国に江蘇省にシリコーン工場建設の報道。シリコーンは現地生産の利点が大きいとする。輸送費、関税などのコスト削減効果。納期短縮効果を見通す。)
 パソコンの販売低迷からシリコンウエハーの出荷価格低下。 2013年4-12月 半導体シリコンの需要の落ち込み(パソコン需要減少で伸びの減少)を、主力の塩ビ関連事業の好調が補った。 2014年4-9月 シリコン事業が、スマホ向けの半導体シリコン(半導体シリコンは再び増益基調に)、自動車や化粧品など産業用のシリコン樹脂のいずれでも伸びて、塩ビ・化製品事業の採算悪化(需要は堅調だが原料メーカートラブルでエチレン価格上昇し一時採算悪化)を補った。半導体シリコンは他社の増産もあり、市況の悪化(価格の低下)が続く。米国内の住宅需要に加えて中南米のインフラ需要もあり塩ビ、電子・機能材料に期待が高まる

○塩化ビニール樹脂事業(日米欧に生産拠点 塩化ビニールについては、依然として中国での生産拠点をあえて避ける戦略とっている 米国事業は2006年後半以降 米国の住宅需要低迷期にはその影響を受けた しかしその後 中南米など新興国需要で復活 他方 東ソーは中国広州市に生産拠点 信越は日本からの輸出で対応 震災で日本の鹿島工場が一時操業停止)

そのほかの事業
レアアースで鍛えられたリスク管理経営にも特色
○レアアース磁石(希土類磁石とも) 4割 1位 (日立金属とシェアを2分 ハイブリッド車に使うもののほか ハードデイスク駆動用 小型モーター用など 信越化学はレイアアースの工場を2013年にもベトナムで稼働させるとのこと またレアアースのリサイクル事業にも取り組んでいるなど 希土類の生産で世界の9割以上を占める中国でのレアアースの生産規制、輸出制限を早くから経験 中国の政治リスクをいち早く意識した経営も注目される)
 しかしこのレアアースの面でもレアアース合金工場を2012年に福建省に建設。2013年稼働開始を目指しているとのこと(2012年3月報道)。
 参考 2011年7月 価格下落に転じたレアアース
 このようなリスク管理経営は、2007年3月に新潟県の直江津工場でメチルセルロース(建材のほか薬の錠剤に添加する増粘剤)の製造部門で爆発事故があった際、同社が国内市場で9割以上ノシェアを握る医薬品原料のセルロース誘導体:錠剤を固める結合剤や錠剤の外部を覆う素材になっている、の供給に支障が出たことを反省。ドイツの拠点工場でも2009年4月から生産を開始する決定をしたところでも発揮されている(2007年9月発表)。

○合成フェロモン(農薬代わり)世界シェア6割 1位
○液晶用フォトマスク基板(液晶デイスプレー製造に使う) 4割 1位
○ArF用フォトレジスト(半導体の製造過程に使う) 3割 1位

シリコンウエハーの2番手 SUMCOの立て直し
(なおシリコンウエハーでは、世界2位メーカー:世界シェア2割メーカーとしてSUMCO(サムコ)がある 両社を合わせた世界シェアは6割強 SUMCOは1999年に住友金属と三菱マテの事業統合で誕生 原料のポリシリコンの値上がり 円高為替差損の計上 SUMCOは親会社の一つの住友金属の新日本製鉄との合併により経営再建を急いでおり赤字の太陽電池向けウエハー事業からの撤退 また過剰設備解消を目標に2工場閉鎖が2012年2月に報道 2012年3月報道では住友金属と三菱マテリアルに計450億円の優先株引き受けを求めたとのこと 2013年1月期の連結決算 売上高前期比16%減の2066億円 最終損益は34億円の黒字 前期2012年1月期は843億円の赤字。SUMCOの業績に悪化については、住友金属の責任も指摘されている。
 このSUMCOの経営については、まず住友金属と三菱マテリアルという2つの親会社をもつことが不透明感を感じさせる。加えて責任を指摘されている住友金属は新日本製鉄との合併を控えて、SUMCOに対応する力に限りがあった。そこで出てきたのは3メガに三菱商事などが加わったファンド運営会社JISジャパンインダストリアルソリューションズが150億 住金と三菱マテリアルがそれぞれ150億ずつ 計450億円の出資で、国内工場の閉鎖、従業員削減など構造改革投資を行う(14年1月期までに955億円の損失 自己資本の減少を450億円の優先株発行で補う 繰り延べ税金資産273億円の取り崩し 計682億円の特別損失の計上)いう案だ。
 信越と比較して業績が悪いのは、拠点数の多さ、人員の多さが足かせだというのが主張だが、高水準の投資に加え、不採算業務の太陽電池ウエハー事業が収益の足を引っ張っていた。工場の閉鎖(設備の毀損による減価償却費)、人員の削減(労務費たる人件費)は固定費削減効果が大きい。スマホやタブレット向けにウエハー需要拡大の恩恵はあるはずだが、SUMCOの業績見通しは不透明でさえないものだ。実はスマホ需要が高価格帯から中価格帯にシフトしたことで半導体需要が落ち込んだとのこと。
 2014年1月期の連結営業利益は2013年1月期の倍の220億円程度(2013年1月段階見通し)。2013年12月期(決算期変更に伴う11か月決算)連結営業利益(実績)は170億円(2013年12月段階 175億円程度:2014年2月段階)。シリコンウエハーの需要が次第に回復また、工場閉鎖や希望退職を実施。合理化効果の反面、合理化による特別損失、為替差損、支払い利息などが収益を圧迫している。同じシリコンウエハーでなぜ信越化学と大きな差がつくのかは、大変興味深いところだ。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
original edition in Jan., 2013 corrected and re-posted in Aug.15, 2016 
Area Studies Business Models Business Strategies  

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