Entrance for Studies in Finance

ブランド買収、SC、衣料品: ファストリ、イオン、良品計画

Hiroshi Fukumitsu

少子高齢化で国内市場の縮小が続くなか国内アパレルメーカーの目は海外に向けられている。ファストリはSCの展開も始めている。

ファストリの買収戦略
 2007年7月、ファーストリテイリング(ファストリ)のバーニーズNY買収が失敗した。買収価格で折り合えなかったため。6月に8億2500万ドルで親会社のジョーンズアパレルGとイスティスマールが合意。ファストリは9憶ドルさらに9憶5000万ドルと粘ったが、ジョーンズアパレルGはドバイ政府の投資会社政府系ファンドのイスティスマール(主幹事シティG)と9億4230万ドルでのバーニーズ売却で合意(ユニクロ側が支払う違約金を含めると実質9億7700万ドルが壁でユニクロ側の9億5000万ドルの再提案を上回る)。また日本の株式市場は、ファストリの買収価格の値上げに不安を広げて株価の下げで応じ、国内事業に専念すべしとのサインをファストリ(ユニクロ)経営陣に送った。
 ファストリは2010年8月期に売上高1兆円 経常利益1500億円の目標をかかげ3000-4000億円のM&Aを投じるとしている。これはおおよそ現状(2007年8月期)の2倍の水準。
 ファストリの新たな国内事業では、収益に不安があるものも少なくない。国内は2006年7月に買収した婦人服のキャビンの売り上げは貢献(2007年にTOBで完全子会社化)。反面、新たな低価格ブランド「ジーユー」(2006年10月開始)、靴販売(2005年3月買収)の「ワンゾーン」は売り上げが伸びず赤字か赤字幅が拡大している(2007年8月期)。またミーナのブランドで都心型SCの開発・運営事業を本格化する予定(1号は2005年10月開業のミーナ天神。08年8月期に3ヶ所)。今後は郊外型SCの開発事業にも進出。このような業務拡大嗜好とあまり良くない実績とは市場に不安を与えている。
 現在は収益の9割が国内のユニクロ事業。国内衣料の市場シェアに対するシェアは約5%。ニューヨーク(06)、上海(06)、ロンドン(07)、パリ(09)に通常店舗より大きい旗艦店を展開。モスクワにも出店を計画。世界に通用する国際ブランドの入手を悲願(海外ブランド品は利益率が高いや海外事業展開に必要な知名度向上が狙いか 海外ブランド調達にも有利)としてバーニーズNYの買収に乗り込んだもの。すでに買収したブランドに仏のコントワーデコトニエ(2005)、プリンセスタムタム(2005)、イタリアのアスペジの日本法人(2005)などがある。2003年に米衣料のセオリーにも資本参加している。このうちフランスでのコントワーデコトニエなどを運営するフランスの子会社は販売は順調。
ファストリの海外ブランドの買収戦略は、理解できるという声がある。ファーストがSCの運営を始めていることも注目である。

SCといえばイオン
 SC(shopping center 英語としてはshopping mallの方が自然)の運営で伸びた企業Gにイオン(米にアパレル子会社タルボット 2007年3月にダイエーと業務・資本提携)がある。
 傘下のイオンモールは、デベロッパーとして成長。SCの核施設としてジャスコ、マイカルの出店を進める役割もあるが、SC内の専門店の販売に連動する歩合家賃収入が利益の増加につながる循環となっている。イオンモールは収益は、不動産開発ダイヤモンドシティとの吸収合併(07年8月)による収益上乗せ効果で08年2月期(純利益44%増)、08年3-5月期(純利益69%増)は、前年同期に比べ大幅に利益を伸ばした。この勢いは08年3-11月期(純利益33%増)にもまだ続いている。モール型(専門店、映画館、病院の誘致)の大型SCの開発でノウハウを蓄積。既存店の増床も収益上乗せにつながっている。
 しかし2008年4月以降、イオンは不採算店の閉鎖・業態転換・自社売場の削減・テナント拡張など、従来の拡張路線の修正を打ち出し始めた。2008年7月には保有GMS店舗の売却・証券化(流動化)計画を発表、資産の圧縮にのりだした。公募増資により得た資金で規模を拡大。バイイングパワー増大で、メーカーに対する発言力を高め収益力を高めとしてきたが国内での拡張は行き詰まったようだ。不動産流動化で得た資金で負債を削減。設備投資も抑制して財務の健全化を急ぐ方針。今後、出店は成長力の高いアジア中心にシフトする模様だ。
 このようなアジアシフトは、セブン&アイにもみられる。生活関連企業は国内市場の縮小をみすえて、成長力の高いアジア市場へのシフトを加速させている。

改革が必要な総合スーパー事業 課題は衣料品に
 なお2001年に一度は破綻したマイカルを抱える本業(総合スーパーGMS*事業)?のほうでは、直接取引を広げ、自社ブランド「トップバリュ」の育成、物流センター・ITシステム投資を通じて、利益率の改善に努めてきた。
 *general merchandise storesは翻訳は総合スーパーとなっている。スーパーはsuperstores。専門店はspeciality stores。雑貨店はvariety stores。百貨店はdepartment stores。英語におけるそれぞれの業態の意味と課題に、日本語との間で大きなズレはないだろう。

グループ外の専門店を取り込み、賃料収入を収益源の一つに育てたイオンの戦略は、セブン&アイGにも影響を与え、セブン&アイでもグループ内の店舗開発機能を集約してSCを収益源として育てる方針とされる。
 しかしマイカルも販売低迷・情報化投資で減益。イオン本体も販売が低迷。コスト抑制策でかろうじて増益を維持した。不振の理由は、イオン、マイカルは衣料品(ほかの商品に比べ利益率高い)の比重が大きいが、そこで売上不振であること。不採算店舗の資産価値の評価損など。
 グループの規模を生かした仕入れの集約や、物流コストの削減が課題であるが、SCが重要な収益源であることは変わりがない。 
 イオンの2007年8月中間決算によると、米子会社婦人服のタルボット(1988年に傘下入り)が天候不順などで販売が低迷し業績が悪化(その後も08年から09年にかけて、米国の景気悪化による消費の落ち込みでタルボットは赤字を続けている 09年2月期決算では2006年に買収したジェイジルの資産価値見直しによる特別損失、子ども服・紳士服などの事業から撤退することでの損失もかさなった)。タルボットは完全にイオンのお荷物だが、これ(タルボット経営陣)を放置している理由はよくわからない。イオンは社員を派遣しているようだが、その人たちも機能していないようだ。価値が落ちたタルボット保有を続ける理由は不明でよくわからないが、イオンの衣料品事業への執着と関係がありそうだが、イオンは衣料品事業の建て直しが課題になっている。
イオンは2008年8月21日純粋持株会社に移行した。

注目されるイオンと三菱商事との提携 注目される衣料品
 2008年12月。イオンと三菱商事の提携が明らかになった。スーパー、コンビニと総合商社の提携はよく知られている。三菱はローソンともともと提携関係。これに対してセブンイレブン、セブンアイと提携しているのが、三井物産。物産はセブンアイと商業施設開発で連携している。
 ファミリーマートに出資、ユニー(傘下にはサークルKサンクス)と業務提携で組むのは伊藤忠商事。
 ダイエーと関係を結んでいたのは丸紅である。2007年にイオンがダイエーに出資した段階(イオンがダイエーに2割 丸紅は3割出資)で、イオンと丸紅は提携を結ぶが、イオンは丸紅との提携強化も考えたものの、三菱との提携関係強化に本音がありそうだ。
 三菱とイオンの関係は、三菱が5%出資で筆頭株主になり、商品調達・物流効率化で包括提携。
 三菱との提携は、従来のイオンが得意にしてきた規模拡大型の水平統合ではなく、調達・物流をにらんだ垂直統合であり、新たな展開として注目される。三菱商事傘下のローソンとイオン傘下のミニストップが、連携して業務効率化を図ることも視野に入ってきた。店舗面積拡大はSC業としては賃貸料稼ぎになる。
しかし本業のGMSでは、面積あたりの売上高の低下という他社同様の傾向を免れていない。食品は堅調でも利益はあまり稼げない。
 イオンはコンビニ事業での劣勢、金融事業(電子マネーやイオン銀行)での出遅れがある。三菱との提携には、これらの弱点をカバーする狙いもありそうだ。
 三菱を間にはさんで、三菱が経営にかわっているファストリ(ユニクロ)との協力で衣料品部門を立て直す可能性もあるかもしれない。

オンワード樫山
 アパレル大手のオンワード樫山は2005年に英国のジョゼフを170億円で買収してこうした動きの先鞭を付けたが、その後イタリアについては衣料品・服飾雑貨のジボ・コーを通じて、欧州での販売を拡大している。2006年度の欧州売上げは326億円とされる。今後はこれらのブランドの米国への進出を本格化させる。対中国でも2006年12月末で107店舗。これを2007年末に170店舗。2010年末には400店舗以上を見込んでいる。対中国売上高を現在の3倍以上の150億円超に増やす計画である。

注目される良品計画の海外進出 衣料品事業
 純粋にアパレルとはいえないが良品計画の海外進出は順調であり海外進出の流れを実感させる。同社の事業規模はユニクロ(ファーストリテーリング)と比較して規模は3分の1程度であろうか。また2000年頃に一度業績が悪化したが<構造改革>を実施。以後、業績が堅調に推移していることも注目されている。
 2000年当時、良品計画の業績は、ユニクロや100円ショップなどの影響で客数が減少。対抗して価格帯を引き下げた結果、利益率も悪化した。海外の英仏子会社も販売不振。新規出店による人件費、借地借家料の増加も経営を圧迫した。そこで2000年に不採算のフランス5店の閉鎖に踏み切った。安易に広げた商品の種類の削減(2割程度)。2001年2月 初の減益。2001年8月 初の最終赤字。2001-2002年をかけて欧州事業を縮小。2001年8月末「新価格宣言」=低価格戦略。衣類や日用雑貨で低価格品の品揃え拡充。既存店の活性化で販売好調の維持。→客数の減少の歯止めに成功。このほか2006年4月からファミマに専用棚。ネットの売り上げも寄与を拡大している。
 2002年には11不採算店の閉鎖(店舗賃借り料減少)が行われている。商品自動発注システムの稼動で人員を合理化。海外子会社については衣料品の現地開発、現地調達を進めた。なお2002年3月。三菱商事が良品計画に出資(3.8%)。2003年についても12出店の一方で11不採算店を閉鎖。このほか取引先を絞り込んで、また直接取引拡大により仕入れ原価圧縮、在庫圧縮による販売管理経費削減にも取り組んだ。販売管理費削減で作った原資を売上高を伸ばす施策にあてる戦略を実施。2005年からは国内の老朽店舗の改装はじめる。2005年から再び内外で積極的出店を行うが海外への展開をここでは注目したい。
 2005年にドイツ、2006年にスペイン進出。2007年11月米国直営1号店としてNYに開業。中国やタイなど所得水準が向上しつつあるアジアへの出店も加速するとしている(2007年7月末で国内323店舗に対し、欧州8ヶ国に41店舗、アジア6ヶ国に26店舗)。2007年2月に170億円ある海外売上高を2011年2月期には400億円まで拡大する計画で、アジアについては40店舗以上への拡大を見込んでいる。



消費不況の深刻化と企業の対応(ユニクロ、スタバ)
キリン(09-01-16)

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in Mar.5, 2008.
corrected and reposted in June 9, 2009.
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