証券化の目的
●sale and lease backとの類似性と違い
保有資産を利用した資金調達は、証券化で初めて可能になったわけではなくsales and lease back(SALB)という古典的方法がすでに開発されている。では証券化とSALBはどこが違っているだろうか。
わたしは投資家の範囲が、完全に企業外部の人にひろがった事を画期的だと考えている。
またこのように外部の投資家を巻き込むために、以下にみるような証券化のスキームの開発が必要だったのだ。
●証券化の仕組みstructure of securitization
証券化で注目されたのは、もとになる債権のオリジネーターとは分離された証券の発行者special purpose vehicle(SPV)あるいは special purpose entity(SPE)が作られて、このSPVあるいはSPEが債権を購入して、それを組み替えて証券に仕立ててオリジネーターが発行する証券より高い信用格付けを得て、投資家からの資金調達が可能とする仕組み性です。
倒産隔離bankruptcy remoteness、真正売買true sales、信用補完credit enhancement、階層化などの耳新しい言葉は人々の関心を集めました。
倒産隔離と真正売買によりオリジネーターとは完全に分離されることで、新たに発行される証券の信用力は購入された債権(資産)が生み出すcash flowに厳密に依存することになりました。それは従来型の返済意思だとか、担保資産価値などとの組み合わせの上で返済能力をみる金融手法と基本的に異なる仕組みだといえます。
もう少し具体的に見ましょうか。債権資産は選別の上、プールされpooled、組みなおされてrepackaged(tranching ;tranche)います。trancheの間には優先劣後構造が採用されます。そして証券に細分されます。
信用補完 credit enhancementが加えられています。下の(1)(2)を内部信用補完internal enhancement。(3)は外部信用補完outside enhancementと呼ばれます。
1)originator-provided enhancement
excess spread
cash collateral or cash reserve
overcollateralization
2)structural credit enhancement
senior-subordinate structure
3)third-party credit enhancement
financial guarantee by the insurer
letter of credit issued by the bank
このような信用補完は、もとの債権のリスクを修正し再分配することで可能になっているともいえます。つまり証券化では modify or redistribute the risk of the collateralという現象が起きています。
●金融の証券化の目的について、証券化についての近着の概説書から抜書きをします。ここで気が付いたのは証券化が、保有しているリスク資産量の調整に役立つという視点です。そしてそのことが金融機関にとっては、自己資本の量の調整にもなるということです。これに対して日本では、資金を内製するという側面が議論として加えられました。いずれも採用してよい論点だと思います。
資料:Frank J.Fabozzi and Vinod Kothari, Introduction to Securitization, Wiley, 2008, 3-27.
potential for reducing funding cost(資金調達コストの低下)
債券市場での債券発行する代わりに貸付債権を証券化して信用格付けの低い企業でも保有していた債権(資産)をSPVの資産に組みなおすことで高格付けの証券化商品が組成できる。前提は、法的に資産が分離されて証券発行の担保とされること。もとの本体との倒産隔離(bankruptcy-remote)がとられた上で信用補完(credit enhancement)が施される。
(証券化はある事業から生ずるキャッシュフローを優先的に証券化に充当することで本体では得られない格付け得る仕組みである。高い格付け取得による資金コストの軽減、長期資金の確保はメリット。⇒反面、証券化を実施したあと、キャッシュフローの使い方は強い制約を受け、さまざまな財務制限条項もつけられ事業運営の自由度が低下していることなど、証券化のために払っている犠牲にも注意が必要である。)
証券化によって、それまでは売却が困難だったものが換金され、現金化(refinance)される。債権(たとえば売掛債権)の場合は、現金化が早まったとみることもできる。証券化が進展すると、債権を保有するか売却するかは選択の問題。
diversifying funding source(資金調達手段の多様化)
資産担保証券市場でしばしば発行者として登場しかつ発行後の流動性を保てたあとのことだが、社債市場と資産担保証券市場とを、純粋に資金コストを比較して選択することができる。
managing corporate risk(リスク量を調整する)
リスク資産のの売却によりinterest rate risk (短期負債と長期債権というミスマッチ)そして限定はあるがcredit riskからも免れる
managing regulatory capital(規制上必要な資本の大きさを調整する)
リスク資産を売却することで規制上必要とされる資本を少なくすることができる。また貸付債権を直接保有するよりは貸付債権で裏付けられた高格付け証券を保有が
好まれる。
achieving off-balance-sheet financing(簿外の資金調達となる)
簿外の資金調達となり、帳簿上の債務を増やさないという側面は、こうした簿外取引を取り込んで企業を分析する傾向と対立している。
generating sevicing fee income
債権が売却されてオリジネーターの機能がサービサーに代わり、サービサーの手数料を稼ぐものに変わっている。リスク資産を増やさないで手数料を稼いでいる。
●つぎの抜書きは住宅ローン債権担保証券mortgage backed securitiesについてのものです。ここではMBSの発端・発展がGSEsによってもたらされたという側面が注意されます。このようなGSEs介入の目的は住宅ローン市場の円滑な発展にありました。購入するloanにprimeの規格を持ち込んだことからも、アメリカ流の住宅政策として理解できます。いわゆるsubprime loanは以下の議論でnon-conforming loanと呼ばれるものに含まれます。
資料:Chrales Austin Stone and Anne Zissu, The Securitization Markets Handbook, Bloomberg Presss, 2005, 1-17.
アメリカでは住宅ローン債権を使った証券化が、政府出資企業government sponsored enterprisesが、住宅ローン債権mortgagesの買取り、またそのための資金を住宅ローン債権を担保とする証券mortgage backed securities:MBSsを発行することでまずは進展した。GSEはagencyとも呼ばれる。それはGSEsの基準をみたすconforming loanをGSEsが買い取るというものだった(これはアメリカ流の住宅福祉政策なのだと理解されている)。このGSEsの役割は大きい。しかしこのconformin loanの市場には買い手として、GSEsのほか、やがて民間の業者private conduitsが加わるようになっている。
その後、住宅ローン債権の証券化は、nonconforming loanに進んだ。そこではこの民間の業者が大きな役割を果たしている。このnoncorforming loanの市場はnon-agency marketとか、新たに開かれたという意味でnon-conventional market、あるいは民間の業者が主導しているという意味で private label marketとも呼ぶ。
このようにして米国は、GSEsに民間の業者が加わり、住宅ローン債権の買取り、証券化が進み、他国に例がないほど、住宅ローン債権の売買、証券化が進んだ地域となりました。
この結果、住宅ローンのオリジネーター(ローンを最初に実施する業者を指す)は住宅ローン債権を保有するか、売却するか(再調達refinanceするか)の選択が可能になりました。また住宅ローン市場は、オリジネーターの資金力に制約されずに発展できるようになりました。そして金融機関は自己資本規制によって受ける制約の中で、保有する住宅ローン債権とともに保有するMBSから生ずる損失を合わせて住宅ローン債権から受けるリスクを調整するようになりました。
用語
conforming loan: agency or conventional market
nonconforming loan: non-agency or non-conventional market
GSEs: Freddie Mac(FELMC), Fanniee Mae(FNMA), Government National Mortgage Association(GNMA)
注:政府保証された最初のGNMAのMBSは1970年に発行された。またFreddie Macが最初のCMOを発行したのは1983年のこと。民間の大手conduitsとしてはGMAC(General Motors Acceptance Corp)やGECC(General Electoinic Capital Corporation)などが知られる。そしてprivate label marketではnonconforming loanの売買、証券化がnonagency(private conduits)によって行われている。
●参考までに。以下の本はmortgage brokersになろうとする人への指南書。同書は、GSEsがmortgagesの二次市場(売買市場)で買い手として存在してmortgage lenderの資金源になっていると指摘しています。
Richard Giannamore with Barbara Bordow Osach, The High-Income Mortgage Originator, Wiley, 2008, pp.40-41.
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Aug.27, 2009.
Corrected and reposted in Aug.4, 2010.
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