Entrance for Studies in Finance

新生とあおぞらが合併を断念した(2010年2月13日)

Hiroshi Fukumitsu

2010年夏に直接合併のはずだった
2009年6月25日 新生銀行(旧日本長期信用銀行)とあおぞら銀行(旧日本債券信用銀行)が合併で合意したとの報道が流れた。実現すれば総資産18兆円。中央三井トラスト・ホールデイングを抜いて国内6位の大手行(連結総資産18.5兆円2008/12)の誕生だった。
 当初は2010年夏に共同持ち株会社設立。1年後程度後に合併という案が検討されたが、統合の経済効果を早く出すために、2010年夏に両行が直接合併する道が選択された。合併は2009年7月1日に正式に発表された。
 合併論の背景には、2008年秋のリーマンショックのあと、地方銀行を相手にした金融債の発行が困難になり、高金利の定期預金に頼る状況に陥ったこと(金融庁の後押し 2010年にも精査結果)がある。また新生銀行は、サブプライムでもリーマンショックでも、メガバンクに比べ相対的に大きな損失を抱えた。新生のリテール、ノンバンク業務(子会社にレイク)、あおぞらの地方銀行とのパイプ、証券化業務。どちらを強化してゆくのか。路線選択が注目された。

合併断念へ(2010年2月)
2010年に入ると合併にむけての協議の難航が伝えられ、2月に入って正式に合併断念が報道された。路線が違い過ぎて補完効果を発揮しにくい。緊急避難として政府の公的資金に期待したが、政権交代で実現しなかったとされる。つまり市場主義をかかげるひとたちに税金をばらまく自民党政治(小泉―竹中路線)を終わらせた副次的効果はここにもあったわけだ。ビジネスモデルの主導権争い、システム統合での協議もまとまらなかったとみられる。

2008年12月末現在の日本の銀行の資産規模ランキングは以下のとおり。

三菱UFJ 198.8兆円
みずほ 157.1
りそな 116.1
住友信託 39.2
中央三井 22.7
新生 12.2
あおぞら 6.3     2008/12末 連結総資産

 この問題についての日本政府の対応が注目された。それは日本政府は一方では、両行の大株主であり、出資金の回収の機会をねらっているからである。両行の破綻は使った公的資金(国民負担)のことを考えれば選択肢にはない。
 しかしだからといって、この外資によって食い物にされている銀行に、さらに公的資金を投下することが、国民の納得を得られる話とも思えない。
というのもこの2つの銀行については1998年の破綻時に、債務超過分を穴埋めする金銭贈与分が多額にある。また、資産の勘定が2割以上目減りしたときに国が買取りを約束した瑕疵担保条項による資産買取に伴う損失もある。これらの損失は別にして、1998年以降、優先株を買い取るなどして公的資金を注入して資本増強したもの回収が議論されているにすぎない。それなのにさらに追加的に公的資金を出すのは甘すぎるのではないか。

ファンドビジネス批判
 両銀行の再破綻には共通の背景が指摘されている。「地域金融機関向けの金融債の発行をおもな資金調達手段にしてきた」こと。また個人預金を集める場合も「高金利でかき集めていること」。(「新生=あおぞら銀行、合併新銀行の困難と希望」『金融財政事情』2009.7.13, pp.6-7)。このような短期の高利調達が恒常化したことで、高リスクの有価証券投資に傾斜せざるをえなかったこと。(森岡英樹「負の遺産を引きずった新生=あおぞら銀行合併」『エコノミスト』2009.7.28, pp.80-83)このようなありようは、銀行ではなくファンドビジネスだと批判されていた。
市場調達の依存度の高さから、資金調達の安定性がリクスにさらされやすい。こうした中で、収益基盤の拡大を目指した。ノンバンクビジネス、不動産事業向け融資、証券化、内外の証券化関連商品・ファンドなど投資銀行業務を伸ばした。それがサブプライムローン金融危機で裏目に出て巨額損失につながったとされる(前掲『エコノミスト』誌による)。

公的資金はもう出すべきではない
 もうひとつの注目がさらなる公的資金の是非だ。
政府が過去の公的資金注入による資本注入により、新生銀行については普通株(約2200億円)、あおぞら銀行については優先株(簿価で約1800億円)を保有。両行合わせて約4000億円の公的資金抱える。
かつて両行が経営破たんした折に、政府は高い数値目標(注入時の価格つまり簿価に利益を上乗せすることを返済の条件として、)を設定しまっている。新生銀行が745円。あおぞら銀行が478円。これが回収のルールとされる。
ところが両行の株価が2009年4月24日現在で、新生銀が」124円、あおぞら銀が118円という状況であるので、公的資金回収のめどは立たない(もしも株価水準が回復していれば、両行は市場で株を売って返済資金をつくることもできる)。

悩ましい公的資金回収の道
では逆に両行を単純に破たんさせればいいのか。実は悩ましい。国民目線でいえば、そもそも外資ファンドの手中にある両行に公的資金を追加投入して救済する理由はない。政府保有の株券が多いことを考えると、しかし両行の株券を急いで紙屑にすることがベストの選択とも言い切れない。

 新生銀行とあおぞら銀行の近況を以下にまとめた。

新生銀行
新生銀行は1952年設立の旧日本長期信用銀行が前身。1998年に破綻して一時国有化された。その後、2000年に米投資ファンド、リップルウッド(現RHJインターナショナル)が買収して新生銀行に名称を変更した。日本政府が20%強の発行済み普通株を持つ。2009年春現在はJCフラワーズが議決権ベースで33%保有。2004年再上場。
2007年から2008年にかけて、優先株で2200億円の公的資金を受けている新生銀行は、優先株が普通株に転換される時期を迎え、政府が最大株主となる事態の乗り切りに躍起となった。
まず2007年8月に1200億円分がさらに2008年4月には残りが優先株から普通株に転換され、政府の出資比率が24%となる異例の事態が懸念された。まず2007年夏の時点で政府は12%保有の最大の株主となった。
そこで新生銀行は当時、約6%保有(出資)のJCフラワーズに対して、増資などを要請した。この要請を受けJCフラワーズは新生銀行に対し22.7%を上限とするTOBを2007年12月から2008年1月にかけて実施。さらに総額500億円の第三者割り当て増資を引き受けることになった。これによりJCフラワーズの出資比率は32.6%に上昇。政府の株主としての突出を抑えることが可能になった。新生側は公的資金の返済の道も探ったが、返済には株価が750円以上になることが条件とされこれはむつかしかった。私たちは、新生銀行をリップルウッドを連想するが、新生銀行の筆頭株主の地位は、2007年夏からは、日本政府とJCフラワーズとが、競り合う構図となった。

背景にあった問題は業績の悪化から、株価が低迷したことにあった。
まず2007年3月期決算では2004年9月に買収したアプラスについての「のれん代」が貸金業法改正成立の影響もあり大きく目減りしたとして、減損処理を行ったことが響き609億円の連結最終赤字となった。この大幅な収益のブレにより、新生銀行は金融庁から業務改善命令を受けた。
ノンバンクへの投資は高収益を得られるとされたが、業法改正成立の影響もあり銀行の業績の足を引っ張る要因になる可能性も少なくない。
2008年3月期決算では、ノンバンクの収益は回復したものの、得意としてきた個人向けで、仕組み預金(デリバティブを活用して高めの金利を可能にした商品)の収益が激減、投信の売れ行きが伸び悩み、赤字幅が拡大した。サブプライム関連の損失291億円もあった。最終利益601億円は本店ビルの売却益617億円でかさ上げされたものだった。
2008年11月 2000年に新生銀発足時に社長兼会長に就任、05年に社長をまた06年に会長を退任した八城政基氏が2008年6月に会長にさらに11月には社長にも復帰することになった。
しかし八城氏が登場したから業績が急回復とはさすがにならない。2009年3月期決算で新生は1430億円の赤字をだし2000年の開業後初めて無配に転落した。債務担保証券CLOで507億円の減損処理、欧州の資産担保証券ABSで279億円の損失計上、不動産関連融資で189億円の貸倒引当金計上などが響いた。

あおぞら銀行
あおぞら銀行は1957年設立の日本所不動産銀行(1977年に日本債券信用銀行に改称)が前身。1958年に破綻し一時国有化された。2000年にオリックス、ソフトバンク、東京海上などの企業連合が国から株式を買い取り再民営化、あおぞら銀行に改称。2003年にソフトバンクは米投資ファンド、サーベラスに株式を売却した(サーベラスは株式の6割強を掌握)。2006年6月能見公一氏を幹部に招く。
2006年11月に8年ぶりに再上場するも株価が売り出し価格570円(2006年最大の総額3800億円の売り出し 売ったのは国、サーベラス、東京海上日動火災がそれぞれの保有株の3分の1を売却 サーベラスは1000億円前後の上場益を得た)を一度も上回らず下がり続ける事態になる。久しぶりの大型上場だが明らかに失敗。この上場を認めた東京証券取引所にも責任があるのではないか。
あおぞらでは経営の混乱もあった。農林中金にいた能見公一氏が請われて2007年2月会長兼CEOに就任するも、短期の投資回収を目指すサーベラス側と対立。2008年2月に突如CEOを解任され(後任はサーベラスに近いとされるフェデリコ・サカサ社長)、5月には会長をも退任という展開があった。
サーベラスファンドは2008年3月から4月にかけ、430億円を投じてTOBを実施して出資比率を37.5%から45.5%に引き上げた(議決権ベースで50%強 これに対して東京海上はTOBに応じ役員も引き上げた)。つまりサーベラスが人事にも意向を強め、出資もして支配をつよめたのだが、これでは有力な人材が去り同行は孤立無援にもみえる。
2008年3月期決算では220億円強(前期624億円の黒字)の経常赤字ながら最終損益は黒字50億円(単体で35億円)を確保した(サブプライム関連損失が453億円 2006年12月に行ったGMACに対する投資580億円についての引当金は148億円 なお、直近の予想利益は265億円だった)。
しかし公的資金の投入を受けている同行は、金融庁に提出した経営健全化計画における予想数値(単体で760億円の黒字)との乖離を批判されることになる。これは予想数値より3割以上少ない利益にとどまった公的資金注入行を行政処分対象行にするというもの。これにより2008年7月にあおぞらは金融庁から業務改善命令を受ける。この3割ルールに2回抵触すると、トップの交代が求められる。
しかし2009年2月、あおぞらは2009年3月期2000億円弱の連結最終赤字計上見込みとなり、トップの交代は不可避となった(上場ETFやヘッジファンド取引でそれぞれ数百億円の損失を計上 これは損失処理による財務体質にお強化をすすめるためともされる)を前に役員を入れ替え、経営責任を明確化した。社長代行にブライアン・プリンス氏。会長に白川祐司氏。国際投資業務を縮小、国内の法人、個人業務に集中する方針。


参考 優先株で受け入れた公的資金の返済方法
2005年度のみずほFGの優先株方式の公的資金返済(04年8月に約2400億円、また05年3月に約2500億円を買入れ消却)。2005年度末の三菱UFJFGの未返済分3165億円の処理方法(日本生命、農林中金など機関投資家に国が優先株を譲渡する肩代わり=第三者への転売方式)。2006年度の三菱UFJFGの未返済分3000億円の処理方法(国が決められた価格で普通株に転換した上で市場で売却 機関投資家でなく個人投資家中心であることに特徴 06年5月-6月)。2006年度の三井住友FGの未返済分6950億円の処理方法(国が決められた価格で普通株に転換したものを自己株式として買入れ返済)。

さらなる公的資金をもとめる市場主義者たち
ところで合併により再生の青写真が描かれるなら、公的資金の追加という道も考えられると報道されているが、これは国民感情からすれば両行に甘すぎる話だろう。本当に採算が合う話なら民間から調達できるはずで、公的資金に頼るのは見通しに不確かな面があるからだ。いずれにせよ出資した外資ファンドは再上場時に十分儲けている。もうお引取りいただいていいのではないだろうか。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in June 27, 2009.
Corrected and reposted in July 22, 2009.
Recorreted and rposted in February 15, 2010.

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