Entrance for Studies in Finance

キリンとサントリーが統合を断念した(2010年2月8日)

Hiroshi Fukumitsu

expecting merger of Kirin and Suntory
キリンとサントリーの統合交渉が明るみにでてから(09年7月13日)半年で破談が公表された(2010年2月8日)
2008年12月期に過去最高利益を出した勝ち組同士が、経営統合の交渉を進めていることが2009年7月13日に明らかになった。実現すれば年間売上高3兆8200億円(キリンは国内食品最大手で2兆3035億円 サントリー1兆5129億円)。世界最大級の酒類・飲料メーカーに。食品メーカーとしても世界第5位になるものだった。大変微妙なのは、大きな話なのだが、この話にどうも誰も喜んでいなかったことだ。それはなぜなのだろうか。
一般に関心が強いのは、両社の商品が統合後どうなるかだが、ともにブランド力は強いので、販売機会を失うことになるブランドの統廃合はしないのではないかと指摘されている。しかし反面では、新商品を減らして開発費・販促費減らすという選択もあるとも指摘を受けている。どうなるかは実際、誰にもわからないというところだろう。
 両者の統合の目的については色々な指摘がある。教科書的にいえば、コスト削減と経営の効率化が指摘されよう。たとえば資材・原材料調達の一本化(すでに資材調達でも提携)。物流の共通化(すでに一部地域で清涼飲料の共同配送を始めている)。自動販売機のメリット(管理コスト圧縮 相互販売可能になる)。また将来的には工場の統廃合を見込むとも。
 しかし私自身は両社は勝ち組であり、コスト削減や取引条件改善に切迫性があるとは思わない。むしろシェア向上により市場支配力を高めてグローバル企業としての生き残りを図るという点に目的を感じている。サントリーはシンガポールのセレボス・パシフィックを傘下。08年10月にはニュージーランド飲料2位のフルコアをフランスのダノンから買収を決めた(2009年9月」にはフランス飲料大手オレンジーナを買収)。またキリンは豪州のナショナルフーズや、フィリッピンのサンミゲルビールを傘下にしている(事業好調の医薬品事業の協和発酵キリンの分離をサントリーが望んだとも伝えられる)。両社が、国際展開を一層強化する上で、国内市場の寡占化(国内の激しい競争からの脱却)はおそらく役に立つだろうが、しかしそれは日本の消費者にとってはどうなのだろうか。
 最終的に合併比率と、サントリー創業家の扱いで両社の話し合いがまとまらず、統合交渉の断念が2010年2月8日に公表された(対等を要求するサントリーの姿勢が強かった。双方が相手の企業価値を低評価。サントリー創業家の扱いも争点)。しかしこの統合にはもともとさまざまな疑問があった。

消費者・独占禁止法からみて問題はなかったのか
まず統合すると
ビールで49.6%(2008) 2008年首位のアサヒ37.8%を圧倒
 2009年 キリン37.3 アサヒ35.5 サントリー14.2。サッポロ12.0%
ワインで38.7%(2007)
清涼飲料31.4%(2008) 首位のコカコーラ29.4%を抜く
という状況になるのだが、これをどう考えるか。国内ビール事業は縮小(安い第三のビールが伸びる 家庭用市場ですでに4割)。販売管理費の圧縮。海外事業を展開。

グローバルには、ビールでキリンが1.3% サントリーが0.8% 合わせて2.1%。清涼飲料ではさらにシェアは低い。グローバルな世界シェア(2008)でみれば問題はないとされるが、現実の国内シェアをみたときそう言い切れるだろうか。圧倒的な国内シェアを背景に、高い利益率を実現するというのは、企業にとっては好ましいかもしれないが、消費者にとってよいことだろうか。

関連して統合の目的として取引条件の改善が指摘され、統合が進んだスーパーなどに対して優位な取引条件を引き出すことが指摘されている。しかしその目的を消費者の立場からどうみるかは問題として残る。現在でもたとえば缶業界に対しては強い立場の飲料メーカーだが、寡占度があがると歯止めがきかなくなるのではないか。
 また両社は企業体質に大きな違いがあり、とくにサントリーのユニークな体質が統合により失われる懸念は大きいのではないか。

サントリー企業風土の喪失と技術的困難
 同族経営(非上場 創業家の資産管理会社である壽不動産が89.3%の株式を保有)であるものの、財務体質は良好。遊び心があり自由闊達で短期的収益(参入以来45年にして黒字化したビール事業や、多年の苦心の末にヒット商品伊右衛門の開発に至った日本茶事業などが例にあがる)に左右されないサントリー流。ブランドを維持してもこうした企業風土まで残せるだろうか。
 また創業家一族の合意が得られたとしても、サントリー株価の算定や統合会社への創業家の出資比率をどうするかなどの難問が控えていた。

 規模拡大が必ずしも成果につながっていない、セブン&アイやイオンなど流通業界の状況から<規模拡大が果たして本当に問題の解決になるかは疑問だ>という「エコノミスト」(2009/08/04, p.29)の指摘もうなずける。
 食品他社の動向は、さまざまだが、味の素のようなスタイルもある。

味の素の非中核事業切捨て路線
 食品の中で非中核を切り捨てる路線が明確だったのは味の素(子会社にクノール食品 味の素冷凍食品 味の素メディカ グループ会社に味の素ゼネラルフーズ 香辛料のギャバン{03出資06完全子会社化} 削り節・めんつゆ大手のヤマキ{07出資}など)である。
味の素は資本出資をした1990年以来、カルピスをグループの飲料事業部門として育成。2001年に増資後、2007年6月には完全子会社とした。
 しかしワインについては2006年12月に傘下のメルシャンワインをキリンのTOBに応募して大半の株を手放している。また翌2007年1月にはエヴィアンブランドをもつフランスダノンとの提携会社カルピス味の素ダノンの味の素とカルピスの保有株をともにダノンに譲渡して提携を解消している。

清涼飲料で健闘するアサヒ
アサヒビールは子会社のアサヒ飲料を通じて清涼飲料分野を強化している。2010年5月にはハウス食品から「六甲のおいしい水」事業を買収した。2010年12月にはカゴメから「六条麦茶」ブランドの製造・販売を買収を発表した(麦茶飲料で伊藤園に次ぐ2位に浮上)。また同じく2010年12月に缶コーヒーの生産能力を引き上げるために明石工場の設備更新を発表した。増産が可能になるのはいわゆる「ワンダシリーズ」。
 伊藤園は、緑茶で「おーいお茶」という看板があり、麦茶でも「天然ミネラルむぎ茶」というNo.1ブランドがある。タリーズのコーヒーシリーズは販売好調である。

サッポロが明治・ポッカと提携へ
キリン・サントリーの経営統合が表面化してちょうど1ケ月後の8月12日。今度はビール業界4位のサッポロが動き出した。サッポロはこの間、投資ファンドスティールパートナーズへの対応に時間を取られていた(もたつく間に高級ビール首位の座をサッポロのエビスがザプレミアムモルツに奪われた)(アサヒは2009年4月中国青島ビールに出資約20%、デンマークのカールスバーグと海外販売提携。さらに2009年4月に豪飲料のシュウエップスを買収。中国の飲料合弁の康師傳飲品:カンシーフ飲品が好調)。
 発表されたのは、明治HD(明治乳業と2008年1月にポッカと資本業務提携を結んだ明治製菓が2009年春に経営統合)が出資するポッカと資本業務提携をすることであった。これにより2009年夏、サッポロは、ポッカを間にはさんで3社連合を形成した。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in July 26, 2009.
Corrected and reposted in Aug.18, 2009.
Corrected and reposted in Feb.15, 2010.

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