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戦後強制抑留者問題特別措置法成立(2010年6月16日)

第二次大戦の補償問題
 昔から分からないことの一つは右翼であるはずの自民党が政権を長年持ちながら、以下のような第二次大戦時の補償問題の解決に熱心でなかったことだ。なぜ放置し続けたのか、何もしなかったのか。その理由がよく分からない。
 自民党を支持する人たちはなぜこうした問題を自民党が放置したきたのか。説明する義務があるのではないか。

シベリア抑留者への未払い賃金補償問題
旧植民地出身の軍人・軍属への補償問題
旧日本軍収容所に収容された外国人捕虜への補償問題

 しかし今回、旧ソ連、モンゴルで強制労働を強いられた人々に特別給付金を支給する特別措置法が2010年6月16日に全会一致成立した。ところがこれを選挙対策のように批判するコラム記事(「金融財政事情」2010年6月28日, p.13)があり驚いた。記事を書く人の不勉強がこうした心ない記事につながったのではないか。
 政治の混迷をみれば批判も理解できないではないが、該当する人たちの高齢化が進んでいる。前回の法律の有効期限を考えると、タイミングは今しかなかった。

 おそらく講和条約などを締結するときに、国家間では賠償金を払うなどで補償問題を解決済みとすることが関係しているのだろう(ロジックとしては相手国とその国民の問題に転化)。しかし戦後直後の国力が疲弊していた時期とは異なり、日本の経済力はこれらの補償問題を解決できる程度には高まっているのではないか。
 この問題が典型的に現れたのは「従軍慰安婦」問題で、寄付などで「平和基金」を創設。この基金から「償い金」を歴代首相の手紙を添えて支給しようとしたが、国家による謝罪と補償を求める被害者の多くはこれに納得しなかった。
 戦時補償にはこれ以外の問題もあり、それらとのバランスの問題もあるだろう。たとえば戦災で死亡した民間人の扱いなど。色々想像がつくことはあるが、やはり結論として政府自民党の対応は分かりにくいものだった。政権を握っている間になぜ対応しなかったのか。

 なお調べた限りではドイツ政府の対応も日本政府と似ているようだ。相手国政府との間で賠償交渉は済ましたとして、個々人の賠償の申し立てへの対応には消極的であるようだ。
 この問題では、議会が動いて立法措置を行うことが被害者への救済への鍵になる。性格は異なるが、戦時下のアメリカで日系アメリカ人が収容所に強制収容された問題*については長年の名誉回復に向けた運動の末に、レーガン政権下の1988年に制定されたcivil liberties actによって、アメリカ連邦議会による謝罪と、生存者に対する2万ドルの補償金支払いが実現している。

*強制収容措置はアメリカ本土にいる日系人に対して1942年2月末から始まり1945年10月から11月まで及んだ。収容にあたり日系人は現住所からの立ち退きを迫られ、財産放棄を迫られた。また日系人の市民権は1952年6月まで回復されなかった。このような長期にわたる不当な拘束や人権侵害は、同じ立場にあるはずのドイツ系やイタリア系の市民に対しては行われなかった。第二次大戦中に日系人に対する同様の人権侵害は、オーストラリアやカナダ、ペルーなどでも生じた。
 なおこのような人権侵害が起きた背景の一つとして日本軍による空襲の問題がある。そもそも日米の開戦は、1941年12月8日未明の真珠湾攻撃に始まっているが、日本軍は1942年2月19日には多数の戦闘機を用いてオーストラリア北辺都市のダーウインの軍事施設に大規模な空襲をしかけている。死者は戦闘員が多かったものの市民の住宅にも多くの被害が出た。そしてその後オーストラリアに対しては43年11月まで断続的に空襲を続けたのである。アメリカ本土に対しても潜水艦に積載した飛行艇を使い、1942年2月24日にカリフォルニア州サンタバーバラにある石油施設に空襲をして被害を与えている。また1942年9月9日と9月29日の2回にわたりオレゴン州の山中に焼夷弾を投下している。これは自然鎮火して大きな被害を与えなかった。しかしアメリカ本土を空襲される事態は、米国内の排日的な議論の勢いを高め、日系人の強制収容政策を正当化させる役割を果たした。
 また時のアメリカ大統領フランクリン・D・ローズベルトは、日本人に対する蔑視的発言を控えなかった人物として知られる。少なくとも日本人については人種差別主義者であったことは公然の事実であり、それがこの強制収容政策にも影響していたと考えられる。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally written in Jan.16, 2009
Corrected and reposted in July 5, 2010

高等教育論
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