Entrance for Studies in Finance

メインバンク制度の崩壊と事業再生ADR

Hiroshi Fukumitsu

american depositary receipts:ADR(アメリカ預託証券)
 海外で証券を発行するとき、その国の有価証券の様式を取っていないと、流通しない。そこで登場するのが預託証券(DR)である。本邦の証券の預り証であるが、その国の有価証券の様式を取っている。これがアメリカで出ればアメリカ預託証券。日本でなら日本預託証券(JDR)となる。
 JDRは2007年10月に解禁された。2008年4月にはインドのタタ自動車が2008年4月にもJDR方式で2008年6月にも東京証券取引所に上場するとの報道が流れて、市場活性化策として注目された。しかしその後、内外の株価は急落。2008年12月に至ってタタ自動車が東証上場を無期延期の決定を行っていることが明らかになっている。
 それでは、上場している外国株式はどうなっていたかだが、これは日本株と同様の様式を求められていた。 

alternative dispute resolutions:ADR(裁判外紛争解決制度) 金融ADR
 金融取引に絡む、顧客と金融機関の間の紛争について、簡易・迅速 納得感のある解決 時間的、労力的、経済的な負担の軽減のため、裁判以外の紛争解決制度ADRが話題になっている。
 そのような制度が機能するには、当事者間で、中心的指導理念の共有 価値規範 行動規範(苦情処理のルール)の透明な確立が前提との指摘がある。
 行動規範については、まず当該機関自身の紛争解決努力を行い、一定期間内に対応できない場合 すみやかに第三者の紛争解決機関を紹介するなどが一例。
 この制度についての目標は、金融関連分野をまたぐ横断的な単一ADRだが、日本では業界団体の自主的な苦情処理・紛争解決の取り組みを活用するとされている。しかしこのような分立型がいいのかは疑問が出ているし、業界団体依存型は第三者機関とはいえないという疑問がある。
 金融ADRは2010年10月1日から始まった。銀行・保険については、全国銀行協会、生命保険協会、日本損害保険協会などがそのまま紛争解決機関となった。証券については、証券・金融商品あっせん相談センターという有料の紛争解決機関が立ち上げられた。有料であるが弁護士費用に比べれば安く、迅速な処理になる見込。弁護士司法書士など紛争解決委員が双方の言い分を聞いて、和解案を示す。業者は原則として受け入れ義務があり、利用者は納得できないときは裁判で争える。

事業再生ADR
ADRのなかで最近注目されているのは事業再生ADR。会社更生法や民事再生法とは違い、訴訟手続きによらず、企業の再生をめざすのもの。そこで認定を受けて紛争の仲介役として登場したのが、JATP。JATPが仲介役として金融機関と協議しながら再生計画をつくる。
2009年9月24日にアイフルとウイルコムはそれぞれADR(裁判外紛争解決)手続きを利用した事業再生に乗り出すと正式に発表した(両社とも認定を申請して受理された)。事業再生ADRは2008年11月に運用が始まった。すでに利用した企業に日本アジア投資(2009年5月)、コスモスイニシアなど。アイフルの債務総額は3100億円前後で、事業再生ADR利用は過去最大規模。なおウイルコムの債務総額は1000億円前後。実務は事業再生実務家協会(JATP 経済産業省認定の第三者機関)があたる。
 取引金融機関(アイフルの場合は住友信託銀行754億円やあおぞら銀行413億円など09/3末)に対して、債務残高の維持と返済期限の延長を求めながら、会社の再建を進める。第三者機関が仲介役になって、金融機関と協議して再生計画を作成、債権者会議を開催して、再生計画への同意を得るプロセス。
 アイフルの経営悪化の最大の要因は利息制限法の上限(15%-20%)を超える過払い金の返還請求の急増、高止まり。そのため資金繰りがゆきづまった。
 再生計画で経営者が残ることが仮にきまるとすると、社員のリストラや金融機関に返済猶予を求めること(金融機関にすれば債権を不良債権化させること)とのバランスで経営責任を明確にしないことへの疑問の声が残る(債務免除なら経営責任を追及しやすい)。取引先企業では保有する売掛債権について会計処理のルールが定まったいないことに当惑の声が広がっている。他方でCDSを購入している一部の銀行は、クレジットイベントに該当させて保険金の支払いを受けたいのが本音かもしれない(倒産であれば確実に該当する)。
 ADRはこのようにその扱いがまだ確定していないスキーム。従来の民事再生や会社更生に比べて訴訟手続きのよるのに比べて迅速・柔軟な再建計画策定が見込める反面、その定着への関門は多く、その今後はハイブリッドファイナンスと同様に流動的だ。

メインバンク制度の崩壊と事業再生ADR
 ではなぜ第三者機関が必要になったのか。メインバンク制度の崩壊が関係しているとされる。もしメインバンク(融資債権順位でトップの金融機関)が存在して機能していれば、そもそも銀行は企業に対してモニタリングを行って適切な段階で経営改善を働きかけ、そして破綻した場合も事業再生はメインバンクが主導して進む。ところが企業と銀行との関係が変化してメインバンクを持たない企業が登場し始めた。まだメインバンクが存在する企業でも、銀行は企業経営に対して距離を保つことが必要になっている(⇔利益相反の防止)。そこで銀行としても、事業再生ビジネスを紹介して企業に自助努力を促すことになる。
 ところでメインバンクをもたない企業は、事業破綻とともに事業再生の調整にたちまち行き詰まる。リスケジュール(債務の再調整 減額・支払い延期など)に下位行(債務額の小さな金融機関)が応じてくれず、メインバンクが肩代わりなどの調整機能(再生計画をつくり、他の債権者からの同意をとりつけるなど)を発揮しないからだ。メインバンクがいないと、すべての金融機関が債権者衡平、プロラタ方式(債権額に応じた権利)を主張して、企業は再生の機会を失うことになる。
 事業再生ADRはメインバンクのいない企業の「駆け込み寺」になっているという評価があるが、だとすれば他方で、メインバンクの機能を企業の側そして銀行の側双方で再評価する必要がある(メインバンクとしてモニタリング機能を果たし、債権者間の調整して、企業再生のための努力をすることは、結果として銀行にとっても自身のリスク管理になり、最終的な債権回収可能性を高める)との指摘がある。

特集「メインバンクの将来」座談会「<失われた10年>後のメインバンク」ほか『金融財政事情』2009年11月2日号, 10-28.

参考
民事再生手続きと会社更生手続き 民事再生と会社更生は、破産・特別清算・銀行取引停止(6ケ月以内に2度の不渡り手形)と同様に倒産に数えられる。つまり倒産は、いわゆる破産の方向に進むものと、事業再生の方向に進むものとがあるが、いすれにせよ、それらの手続きにはいることはこれまでの事業の「倒産」である。
 ADR受理を「倒産」としていいかが、現在のところは曖昧である。再生、更生、それに事業再生ADRは、事業再生手続き。その中でADRは、訴訟手続によらないことが特徴となっている(事業再生ではスピードが重視される。会社更生法は1-2年に対して民事再生は半年程度。事業再生ADRでは3-5ケ月を見込んでいる。もうひとつは資金繰り。手続き中の融資は優先的に弁済されるので、金融機関にすれば融資に応じやすい)。  
。解釈によっては「倒産」直前に債権者との間で、債務の猶予について合意が成立するケースとみえる。
 財務上の数字からは、営業CFの赤字の解消が見込まれない状況は経営上の破綻を示している。また資産を売却してなお負債を返済できない状況も同じである。これらは「実質的」倒産状態とはいえる。
 ADR受理が、CDSのクレジットイベントに該当するかどうかも、議論の焦点。①倒産(破産)、②支払不履行、③債務返済の条件変更。現在のところ受理はその③をお願いしている状況でクレジットイベントではないとされている。債権者会議で事業再生計画が承認(決議)されれば、③に該当して、クレジットイベントに認定され、CDSが決済される(CDSの買い手は保険金を受け取り元本の保証を得られる)と予想されている。
 資料:「アイフルの事業再生ADR CDS市場に与えた波紋」『金融財政事情』2009年10月12日号, 6-7.
「運用開始から1年 課題が浮き彫りとなる事業再生ADR」『エコノミスト』2009年12月1日号, 15.
 
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Mar.3, 2009.
Corrected and reposted in Nov.5, 2009.

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