この映画はカナダと日本で先行して2008年公開。米国では2009年公開という珍しい形になった。原題は標記のとおりだが国内では「ブロードウェイ、ブロードウエイ」とか「コーラスライン」「ブロードウェイにかける夢」とか適当な題名をつけて上映され紹介されているのは残念だ。
監督はAdam Del DeoとJames D. Sternの2人。内容は伝説的なミュージカル「A Chorus Line」の2006年の再演をめぐるキャストの選考過程を丹念に記録したもの。しかしそれはコーラスラインというミュージカルの中身と重なっている。documentaryの手法が使われていて観客は選考を擬似体験することになる。
コーラスラインはMichael Bennett(1943-1987)の監督振り付けによって、1975年5月から1990年4月末まで上演されたミュージカル。上演回数6137回は、その後、1997年にCatsにより、また2006年にはPhantom of Operaにより破られるが、驚異的なものであった。その内容はまさにミュージカルに応募するダンサーたちの物語。今回の映画では秘蔵されていた録音テープや関係者の証言などを交えて、コーラスラインそのものの誕生のいきさつも明らかにされる。Michael Bennett自身の足跡もたどられており、Bennettへの敬意もよく払われている。
しかし映像で興味深いのはやはり俳優が選考され絞り込まれてゆくプロセス。そこで何が問われているか。単にダンスのできや声が出ているかだけでなく、役柄を俳優がどこまで理解しているか。納得させなくてはいけない相手は一人ではない。投票できる人間は監督や振り付け師など6人ほどはいるだろうか。おそらくそのみんなが納得する一人を探して選考が重ねられる。最終審査が近くなるほど実際の演技が試される。舞台に上に立ったらすでに審査の段階で完璧な演技を求められるという、こうした著名なミュジーカルならではの選考の厳しさには吸い込まれるような緊張感がある。
落とされたものは去ってゆく。しかし成功への夢は終わらない。妥協のないプロの世界の厳しさと成功にかける多くの人の情熱がよくわかる映画だ。努力することを忘れている人に見せたい映画だ。2006年の再演は成功した。2006年10月から2008年8月まで759回の上演を記録している。
every little step trailer
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
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