Entrance for Studies in Finance

中国人民銀行が本年2度目の利上げを発表(2010年)

中国人民銀行は2010年10月19日 利上げを発表し、公式に金融政策を転換した
Hiroshi Fukumitsu
 
 中国人民銀行は金融緩和政策を転換。2010年10月20日、利上げを実施した(決定発表は10月19日 貸出と預金の基準金利を0.25% 利上げは2年10ケ月ぶり)。その後、市場の関心は中国人民銀行が、いつ2度目の利上げを行うかに集まった。

2010年12月25日、中国人民銀行は本年2度目の利上げを発表した
 2010年12月25日(土)、中国人民銀行は2010年になって2回目、2ケ月ぶりの利上げを発表した(貸出と預金の基準金利を0.25% 26日から実施)。12月27日(月)の上海総合指数は午後に入って急落。終値は2781.402と2ケ月半ぶりに2800を下回った(先週末比1.9%安)。元相場は(利上げをすでに織り込んでいるとして)先週末比0.06%安(小幅安)の1ドル6.6308元で引けた(元相場は11月11日に2005年7月以降の最高値の6.6257元を付けている 2011年1月の胡錦濤国家主席の訪米を控え中国が元高を許容するとの観測がある)。
 背景には海外からの資金流入の加速でインフレ(11月の消費者物価上昇率は前年同月比5.1%上昇 2年4ケ月ぶりに5%台の高い伸び なお庶民の間では物価上昇の実感はこれを上回っているとの指摘がある)や不動産バブル(主要70都市の不動産価格は11月まで3ケ月連続で前月比上昇)の懸念が高まっていることがある。12月12日に閉幕した中央経済工作会議(党と政府によるもの)で金融政策の基本方針を「適度に緩和的」から「中立に近い穏健」に転換することが決まり、市場では早期に利上げが行われるとの観測が高まっていた(2011年7月に中国共産党は結党70周年を控え、中国は社会の安定を強く必要としている)。

2008年秋以降の金融緩和政策が転換された
 中国人民銀行は2008年秋以降、金融緩和政策を続けてきた。たとえば通常は金融引き締めに使う窓口指導を2008年秋以降、融資残高の目標を決めてうながすなど積極的な金融緩和で景気回復を演出した。また人民銀行は、2008年人民元の相場固定以降の相場維持のための市場介入を行うことで市場への資金供給を続けてきた。中国人民銀行はこの両面から市場に資金に供給してきた。
 こうした金融緩和政策は景気回復に役立った半面、株式不動産バブルなど副作用も顕著になっている。そこで2009年秋以降、中央銀行手形による資金吸収、窓口指導を通じた選別のほか。2010年に入ってからは、預金準備率の引き上げなど、人民銀行はすでに過剰流動性の吸収に乗り出していたとみられる。
 しかしこれが金利の引き上げまでゆくと、景気の中折れの懸念があった。そうでなくても今回の景気回復は、富裕層を中心とする高額消費の伸びであって、一般大衆の消費は落ち込んだままとされる。すなわち一般大衆の賃金が十分上がらないなかで、食料品などが値上がり。一般大衆は消費を抑制していると指摘される。だとすると一般大衆の賃金があがるところまで景気回復を持続させないと、つまり早い段階で景気が後退すると格差の拡大が広がる恐れが高かった。

利上げへの決定と実施(2010年10月19日決定 10月20日から実施) インフレ抑制に強い姿勢
 2010年10月の利上げ決定は、こうした懸念よりも、インフレ抑制が急務になったことを示している。背景にはCPIの年間の抑制目標値3%を7月8月と連続で超えたことと不動産価格上昇のきざしがあった。預金準備率引き上げに加え、政策金利の引き上げ(0.25% 従来は0.27%刻みだがこれを国際標準にしたとのこと)に踏み切り、不動産市場などでのバブルを抑え込もうとしたものである。
 2010年10月19日(火) 中国人民銀行は2007年12月以来、2年10ケ月ぶりの利上げを決定した(期間1年の基準金利 貸出が5.56% 預金が2.50%)。このタイミングは10月18日(月)に習近平国家副主席を次の最高指導者にする共産党人事が固まったこと(第17期中央委員会第5回全体会議 5中全会)を受けたものと考えられる。胡錦濤政権は「調和社会の実現」という課題を習政権に託することになった。

 2010年6月の元相場弾力化発表以降、ゆるかやな元高を容認して、輸入物価を通じてインフレの抑制を図っていた。中国共産党は10月27日に発表した第12次5ケ年計画(2011-15年)のなかで、成長と見合った家計の収入の増加、環境対策の推進などを打ち出した。中国は新しい経済成長モデルを提供しているとの評価があるが、民主化の停滞を中国の経済成長のリスクとしてとらえる見方も根強い。こうした中で、インフレの抑制により民衆の不満を抑えることが、重要な政策課題になってきたと考えられる。(インフレが国民の不満につながる面と、賃金が上がりコストが上昇して企業活動に打撃を与える面の両面を見る必要がある また賃上げには内需を高める側面もある)
 なお北京コンセンサスというのは、一部の中国研究者が、中国の経済モデルに付けた名称である。

 ワシントンコンセンサス (他国に対して) 民主化を促す 緊縮財政 市場経済化 
 北京コンセンサス(ステファン・ハルパー)(他国に対して)内政不干渉 (自国における)民主化の抑制 高成長の実現 専制体制のままで資本主義の利益を実現
 エコノミスト2010年5月8日の翻訳

2010年3月 不動産バブル、物価上昇などの行き過ぎが表面化 経済政策についての合理性重視
 2010年3月10日不動産価格発表。住宅バブルやインフレの懸念。2010年2月の主要都市70都市の不動産販売価格は前年同月比10.7%上昇 9ケ月連続の伸び1月の9.5%を超える。ここに景気過熱を抑制する意味で金利の引き上げ論が出てきた。
 2010年3月11日消費者物価発表。消費者物価の上昇率(2010年2月)が前年同月比で2.7%上昇(今年の目標の3%に近い 2009年11月にプラスに転じ4ケ月連続の上昇 上昇率は2008年10月の4.0%以来 食品の値上がりの側面 これは一般大衆にとって負担が重い。2010年2月の消費者物価上昇率は1年物の定期預金金利現行2.25%を上回っている。つまり金利が低すぎるのではないか。
 金利引き上げを許容するもう一つの理由は、2009年の経済成長率が一応政府の目標を達成したことにある。2009年の実質成長率は目標8%に対して8.7%となった。2008年秋の金融危機にもかかわらず、景気回復背景には2008年11月発表の4兆元の景気刺激策にせよ、人民銀行の金融緩和政策も貢献して目標は達成された。そこで金融緩和がバブル発生などの問題にいたっているなら、今が政策修正のチャンスだといえる。
 2010年3月の全人代でも8%前後成長の目標化掲げる状況で金利引き上げは個人消費抑制につながる不安がある。消費よりも貯蓄に流れるとも。こうした不安はとくに政府側に強いようだ。。
 2009年11月末の融資残高は39兆5900億元に対し、2010年の人民元融資残高の増加額の目標は7兆5000億元(約97兆5000億円 09年実績の9兆5900億元よりは抑制 09年当初目標の5兆元よりは大きい)と置かれているが、人民銀行はもっと小さな値を主張して政府側に押し切られた。つまり景気の先行きへの懸念を中国政府は強く抱き、人民銀行はそれに譲歩してきたといえる。
 それだけに2010年10月以降の金利引き上げは、人民銀行側の懸念が、政権内部でも共有されるようになったことを反映しており、中国の経済政策が、官僚により一定の節度をもって展開されていることを示唆している。 

利上げ転換前後の預金準備率引き上げ(10月 11月に2回 12月)
 2010年に入り人民銀行は余剰資金吸収のため預金準備率の引き上げを2回引き上げている(2010年1月12日0.5%引き上げ 大手金融機関で16%に:大手銀行に限定した引き上げとのこと。引き上げは2008年6月以来1年7ケ月ぶり。実施は1月18日から。続き2月12日にも0.5%引き上げ大手金融機関で16.5%になる)。 
 2010年10月12日 さらに一部の大手行を対象に預金準備率引き上げ(0.5% 10月11日発表)。その後、10月20日の利上げを経て、11月10日発表(16日実施0.5%:投機資金流入に対応)、11月19日発表(29日実施0.5%:今年2回目)、12月10日発表(20日から0.5%)にも預金準備率を引き上げた。背景には住宅価格の上昇、消費者物価の上昇率などが顕著であることがある(2010年10月は前年同月比4.4%上昇:2年1ケ月ぶり、2010年11月は前年同月比5.1%上昇:2年4ケ月ぶり 7月から5ケ月連続で政府目標の3%を上回る)。これを受けて銀行間金利(上海銀行間取引金利の上昇がみられた)。
 2010年12月3日の政治局会議で金融政策の方針を「適度に緩和的」から「穏健」に変更(その後、この方針は12月12日二閉幕した中央経済工作会議でも確認された)。また中国人民銀行では窓口指導での選別の指導も行った。こうした流れのうえで10月20日そして12月27日と2度にわたる金利引き上げが実施された。
 
 さらに中央銀行手形を発行して余剰資金吸収に努めている(市場オペ)。3月18日には1300億元(約1兆7000億円)発行。これは1日の発行としては過去最大。この手形には金利がつきこの金利の操作(変更)も一つのサインとみられる。
 3ケ月物。2010年1月に引き上げ。約1.34%→約1.37%

住宅ローンに対する規制(2010年4月と9月末)
 2010年4月半ば以降 個人が2軒目以降の住宅を購入する際の頭金比率を50%に引き上げ→投機目的の購入が一時期抑える効果があった(5月ー6月 伸び率4毛月連続で抑えられる)。
 2010年9月29日 不動産取引規制(頭金の引き上げ 1軒目で頭金30%以上 3軒目購入以降の住宅ローン停止)。しかしこの規制は4月の規制を強化しただけであったため、評価されなかったとされている。

 同じような状況に人民元の問題もある。
 現在、人民元相場は事実上固定されている(2005年から2008年にかけて2割元高へ。その後は金融危機で企業の業績悪化し1ドル6.83元前後に固定している。)。これに対して貿易不均衡を理由に海外から引き上げ圧力高い。ところが、中国は米国債の最大の買い手。(元高にすればドル建て資産の目減りを招くという中国の懸念に米国は正面から答えることができない。)そして相場を維持するための介入により国内に生まれた過剰流動性が、不動産バブル、インフレの温床になっている。これを受けて中国国内にも早期切り上げ論。
中国国内でも人民元切り上げ論あり。ところが中国国内では商務省が輸出企業の利害を代表して切り上げに強力に抵抗。妥協できない状況にある。2010年4月現在1日あたり5%以内としている変動幅拡大で米国と妥協の図る可能性が議論されている。
 つまり金融緩和政策にしても、人民元の相場にしても、中国国内の議論も割れており、人民銀行の選択肢の幅は極めて狭いものだった。
 その後、中国政府は、2010年6月に人民元の弾力化、そして2010年10月に利上げへの転換に踏み切ることになる。

 originally appeared in April 12, 2010
corrected and reposted in October 31, 2010, December19, 2010 and December 29, 2010

(2010年6月19日)中国 人民銀行による人民元弾力化強化
東アジア論 映画論 開講にあたって 企業戦略例 経営学 現代の金融システム 現代の証券市場 検索サイト 財務管理論 証券市場論 文献目録 My Home Page Tutorials
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Area Studies」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2024年
2023年
人気記事