「こと一打席に関して言うなら、代打は日本一の四番打者である」
チームがチャンスを迎え、ネクストバッターズサークルにその姿を現しただけで、球場がざわめく。代打のコールで場内に名前がアナウンスされると、球場のボルテージが一気に上がる。打席に立つ瞬間にはこの試合で一番の歓声となる。そして、そのひと振りでチームの勢いを一変させ、チームを勝利に導く力を持っている。
過去から現在まで代打として一打席に賭けてきた選手は数多くいます。レギュラー選手なら一年でも達成してしまう数字です。これを何年も、何十年もかけて積み上げた来た代打の記録です。
通算代打起用回数 / 宮川孝雄 778打席
通算代打安打 / 宮川孝雄 186安打
通算代打本塁打 / 高井保弘 27本
通算代打打点 / 宮川孝雄 118打点
通算代打打率(起用数300以上) / 若松勉 .349
年間代打起用回数 / 真中満 98打席 (2007年)
年間代打安打 / 真中満 31安打 (2007年)
年間代打本塁打 / 大島康徳 7本 (1976年)
年間代打打点 / 真弓明信 30打点 (1994年)
宮川孝雄さんは以前、このブログでも書いた広島東洋カープのスカウトでも活躍した方です(http://blog.goo.ne.jp/full-count/e/98cad72ee79e8c63cd563ac5d8db1cd0)。
さて、この本の中で繰り返し取り上げられるのは、代打という役割における「準備力」の大切さです。
「打てなかったらどうしようとも思いますが、どうしようだけでは駄目なのです。打つためにはどうしたらいいのか、準備を怠ってはいけないのです」
和田豊さん(元阪神タイガース監督)から「準備の達人や」と言われた桧山進次郎さん(元阪神タイガース)
「ピッチャーはマウンドで8球も投げるやんか。ブルペンでも投げるやろ。こっちにも準備がいるんじゃい」
相手投手の癖を徹底的に分析し、何度もメモを確認してから打席に入っていた高井保弘さん(元阪急ブレーブス)
「急に出番が来るわけですから、精神状態としてかなりの高揚感がありますから、逆に冷静さを保つ努力をしないといけません」
心の準備の大切さを訴える八木裕さん(元阪神タイガース)
「代打は割り切りや決断ができるかが大事な要素になります。迷ったら絶対に負けます。どっちかな、あっちかな、どうしようかなと思ったら絶対に苦しい。1球で絶対に仕留めるんだろいう積極性がないとね」
キャッチャー出身らしい配球の読みまで含めた準備と備えの重要性を説く、秦真司さん(元千葉ロッテマリーンズほか)
代打はいつもチームがチャンス(ピンチ)の場面で出番がやって来ます。その期待度はものすごく大きいと思います。スタメンで出ているバッターが30%の確率で(打率3割)で満足する期待度とは違い、代打で登場すると100%であることを期待してしまう。だから、頼りにされる反面、失敗したときのダメージも大きく、レギュラー陣とは違って、挽回のチャンスはすぐにはやって来ません。
だからこそ、悔いのないように準備に努めなければなりません。そして、どちらかというと、打席に立つまでの間の準備が勝負であり、そこで既に勝負がついてしまっていることがあります。自分の出番がいつ来るか判らないからこそ、その一打席のために最善の準備を行い、たった一打席、一振りにすべてを賭けます。
「こと一打席に関して言うなら、代打は日本一の四番打者である」
水島新司さん(漫画家)