2009年の夏。第91回全国高校野球選手権大会 三回戦 静岡・常葉橘高校 vs. 大分・明豊高校は両チームのエース常葉橘高・庄司隼人選手(現; 広島東洋カープ)と明豊高・今宮健太選手(現; 福岡ソフトバンクホークス)の対戦で注目を浴びました。
明豊高に2点を先制された常葉橘高は3回裏に4点を返し逆転、さらに4回裏にも2点を追加し、一時は6-2と4点リードしますが、明豊高に5回に1点、8回に2点を返され、9回表に明豊高についに追いつかれ同点になり、延長戦に入ります。そして、延長12回表に2点を挙げた明豊高が常葉橘高の反撃を抑えて勝利しました。
明豊 200010021002|8
常葉橘004200000000|6(延長12回)
実はこの試合の勝敗を分けたのは庄司選手と今宮選手の対決ではなく、8回の攻撃時の代打だったと言われています。
3-6で迎えた8回表の明豊高は代打攻勢でした。1アウト一塁で代打一番手として松本拓真選手。残り2回で3点差であり、バッター心理としては打ちたい気持ちでですが、ここはボールを良く見極めて、フォアボールで出塁しました。
「代打でチャンスがあると思っていたので冷静でした。ボールが見えました」(松本選手)
点差はそのままで、2アウト一・二塁となった場面で代打となったのが、寿雄大選手。寿選手は初球の高めの変化球を見流した後、2球目の高めのストレートを打ち、ライト前に落ちる2ベースヒット。2アウトだったこともあり、塁上にいた2人のランナーが還り、1点差に追い上げる貴重なタイムリーになりました。
「自分の出番はいつも終盤なので、6回ぐらいからスイングをしていつでもいけるようにしてました。(出番は)予想どおりのタイミングです。代打としては三振を怖れず、1球目からどんどん振っていくことを心がけています。落ちてくれて良かった」(寿選手)
この2人に共通していたのが、代打に出る前の準備でした。出番に備えてベンチ裏で素振りをしていたのはもちろんのこと、ヘルメットをかぶり、エルボーガードを着け、いつ代打を告げられてもすぐに打席に入れる状態で待っていたそうです。
1点差に追い上げられた八回裏の常葉橘高の攻撃。2アウト二塁のチャンスを迎え、ここで八番バッターに代えて、代打の沢康平選手を送ります。初球から積極的に打ちに行き、3球連続ファールの後、4球目も振ってファーストゴロに終わりました。
藤沢選手も出番に備えて、素振りはしていました。また、積極的にバットを振る姿勢もありました。しかし、明豊高の代打2人とは決定的に違うことがありました。
それは、いつでも打席に入れるための準備です。代打を告げられ、審判にせかされ、打席に向かいながら、打席の横で打撃用の手袋をはめていたのです。もし、手袋をはめたまま「待ってました」と打席に入っていても、結果は同じだったかもしれませんが、打席へ入る時の気持ちは違ったものに違いありません。
「(8番打者が)ネクストにいるときに代打を言われたんですけど、そのときのバッターが(初球送りバントで)すぐに終わってしまって。言い訳にはならないんですけど」「悔い? それはちょっとあります。打ち損じちゃったので。あそこで一本出てれば勝てた試合だったかもしれません」(藤沢選手)
後悔しないためにも準備力は必要です。