武器少女ガーネットスプリンガー
ー 第六話 ー
青い星の乾いた荒野
強奪犯
サウスエデンに有る、宇宙軍の戦闘騎兵隊の砦の部屋で、ガーネットがスズランの髪を梳かしていた。
「動くんじゃない、お前の髪が纏められない」
「いい加減にしてくれよ、あたしは、お前のオモチャじゃないんだ!」
「うるさい、動くなコラ!」
髪を左右二つに束ねられて、リボンを付けられたスズランが、
「何だよコレ、あたしは、バカなお人形見たいじゃないか」
と、文句を言いながら、ガーネットの周りをちょこまかと歩き回る。
そんなスズランとガーネットの姿は、まるで仲のいい姉妹が楽しげにしているように見えて、正也は目を細めていた。
高速輸送馬車が何者かに襲撃されて、それを追って来たのだが、空間騎兵隊の正也とガーネットは、宇宙軍の戦闘騎兵隊の砦で一時的に、駐留する事になった。
正也はガーネットと一緒に砦の部屋にいたが、暫くして高速輸送馬車を襲撃した犯人の手掛かりが見付かった。
それは、高速輸送馬車から強奪した特殊な装置が、宇宙軍港へと運ばれようとしていた事が、宇宙軍の戦闘騎兵隊の捜査班の調査で判明したからだ。
だが、その犯人たちは、正也たちの、銀河連邦と対立する、銀河王国の貿易商人の武装集団だった事から、銀河条約で迂闊には手が出せない上に、彼らは、進んだ技術を持っていた。
正也の武器の最新型のガーネットでも、太刀打ちが困難な強力な武器を装備している。
その銀河王国の貿易商人の武装集団は、銀河王国貴族のサージョニス男爵の手の者たちだった。
サージョニスは、銀河貿易で功績を上げ、勲功爵を与えられて、準男爵のスターナイトの称号を受けていた。
彼が持つ星間甲冑装甲は、どんな如何なる武器をも跳ね返す、特殊な物質で作られていて、
更には、スターナイトの持つスターブレイドは、どんな物も切り裂く事が可能と言われていた。
それを知った正也は、眉を顰めて考え込んでいたのだ。
そんな正也を見て、ガーネットが言う、
「正也、銀河王国の貴族ごときで、高速輸送馬車を襲った犯罪者を逃がすのか」
正也がガーネットに言う、
「逃がす事はしない、だけどまともに立ち向かうと、銀河条約に触れるんだ」
ガーネット、
「なら何も出来ないと言うわけか?」
首を振りながら、正也が言う、
「まあ、そう言う事だが、まだ手は有る」
「どんな手だ?」
「僕は、まだ空間騎兵隊の見習い准尉で、部下も与えられていない」
「だから何だ」
「そこが手なんだ、僕が制服を脱げば、空間騎兵隊では無い事に為る」
「だから?」
「だから、自由に奴らを捕まえて、銀河連邦警備軍に突き出せるんだよ」
「そう言う事か!」
「だが、あいつらの武器は、簡単には排除出来ない、そこが問題だ」
「私が殲滅してやる」
「そうは簡単にいかないだろう、だから先ずは、僕は、サージョニス男爵に会う事にするよ」
正也は、空間騎兵隊の服を脱ぎ、民間人として、銀河王国貴族のサージョニス男爵の屋敷に向かった。
正也は、銀河王国貴族のサージョニス男爵の屋敷で、サージョニス男爵の応接間に通されて、サージョニス男爵と面会した。
サージョニス男爵が正也を前にして、後ろ手に手を組み歩きながら、そのサージョニス男爵が正也に言う、
「君は、この私の所で働きたいと言うんだね」
「はい、身元の保証は、サウスエデン宇宙軍の戦闘騎兵隊の砦のザイイス将軍からの推薦状です。」
「ほう、銀河連邦宇宙軍の戦闘騎兵隊のザイイス将軍からね?君は、銀河王国の貴族の屋敷の労働をしに、態々将軍の推薦状まで携えて来たのかい?」
「はい、おかしいですか?最近、身入りのいい仕事は、サウスエデンには有りませんから」
「うーん、所で、君の横にいるお嬢さんは?」
「はい、僕の武器です。」
「ほう、君は、中々美しい顔をした武器を持っているんだね。フフフフフ」
「君は、その武器を幾らなら手放すのかな、一万クソぐらいかな?ククク」
「何万クソを積まれても、僕は、ガーネットを手放しません」
全く正也の話を聞こうともしない、サージョニス男爵、
「ほう、ガーネットと言うんだね、その美しい武器は」
「その武器なら、私は、幾らでもクソを出してもいいな、フフフフフ、」
ガーネットが呟く、
「クソ、クソって、何だか汚い感じがする?」
そんなガーネットの呟きを聞いた正也が、苦しげに笑った。
「クソは、銀河王国の宇宙貿易用の貨幣単位なんだ。だから銀河王国の貨幣パンと交換できるんだ。」
「クソをパンに交換して替えるのか!」
「そうだよ、十万クソが、一パンに為るんだ。」
「君は、銀河連邦の生まれなのに、銀河王国の宇宙貿易の貨幣のクソやパンをよく理解しているね。君は、おもしろいよ、私は、宇宙のお金の価値を知っている。君とは気が合いそうだ、それに君の美しい武器のガーネットも気に入ったよ、クククク」
「では、僕を雇ってくれるんですか?」
「まあ、ちょっとした採用試験をしてからだがね。フフフフフ」
サージョニス男爵の採用試験は、ある特殊な物を、ある所まで運ぶ事だった。
その後、サージョニス男爵の屋敷の敷地の奥の倉庫で、運搬貨車に空間縮小装置を積み、
正也が、運搬貨車に乗り込むと、助手席にガーネットが乗った、そこへ、屋敷のあるじのサージョニス男爵が、正也たちに言う、
「君が、それをちゃんとサウスエデンの銀河王国の軍港に運んだら、この屋敷で雇う事にするよ、ククク」
サージョニス男爵は、空間縮小装置を、運搬貨車に積み、その運搬貨車に正人を乗せて、
サウスエデンの銀河王国の軍港まで運ばせると言う、サージョニス男爵が、正人の横にいるガーネットに声を掛ける。
「ガーネット、君は、すぐに私の物にするからね、フフフフフ」
正也を無視して、ガーネットに対して、薄気味悪い笑いを浮かべているサージョニス男爵、
それをガーネットが正也に言う、
「アイツ、何だかおかしいぞ、気持ち悪い」
「そうだな、確かに気持ちが悪く為るな」
「屹度、これは僕たちを葬る罠だな」
「それを知ってて、運搬貨車に乗ったのか?」
「んん、まあ、そうだけど」
「どうするんだ、運搬中に狙い撃ちされれば、一貫の終わりだぞ」
「そうはしないさ、この空間縮小装置の運搬が無事に終わったら、多分始末するだろうけどね」
「そんな悠長な事を言っていていいのか?若しもの時は私が居るからいいが、ちょっとは自分の心配をした方がいいぞ」
「そうだね」
そんなガーネットの心配も、気にしない正也だった。
サージョニス男爵の屋敷の敷地から、正也とガーネットを乗せた、十二頭立ての武装馬が牽引した銀河王国貴族の専用の運搬貨車が出発する。
運搬貨車には特殊空間縮小装置が収められている、向かう目的地は、数十キロ離れた、サウスエデンの銀河王国の軍港だ。
そこから、銀河王国へこの荷物を送り出すと言う、正也とガーネットは、運搬貨車を操りながら、サウスエデンに向け運搬貨車を走らせる。
然し、その運搬貨車は装飾の豪華な貴族の専用貨車だった。
十二頭立ての武装馬と銀河王国貴族の専用の運搬貨車の疾走する光景は、それはさながら銀河王国貴族惑星の栄華を髣髴させる光景だった。
そんな、運搬走行中、正也の横でガーネットは歌を歌う、古い故郷の歌だった。
それを聞きながら正也が言った、
「ガーネット、君の歌はいいけど、今は、ちょっと」
「何か問題でも有るのか、運搬中は退屈だから、何か余興が必要だと思ったんだけど」
「うん、まあー、でもその歌は、少し不味いよ」
「何が不味いんだ、故郷の子守歌だ」
「うん、ハッキリ言うと、その歌を聞くと眠く為るんだ、眠ったら不味いだろ」
「そうか、なら子守歌は正也が眠る夜にする」
ガーネットの言う事に、少し苦しげに苦笑いをする正也、
正也とガーネットを乗せ運搬貨車が川沿いを疾走する、運搬走行中の運搬貨車が大きな渓谷に差し掛かった。
そんな時だった、そこに潜んでいた盗賊のアウトローたちが一斉に正也たちの乗る輸送貨車を襲って来た。
慌てる正也、
「な、何だ、盗賊が」
ガーネットが貨車の窓から外に飛び出す。
「私が撃退するから、正也は、輸送貨車で振り切るんだ!」
「分かったガーネット、無理はするなよ」
「分かっている、無理はしない」
ガーネットは貨車の屋根の上で屈み、足の電磁マシンガンを連射して、ガガガガガガガ、襲い掛かるならず者どもを蹴散らして薙ぎ払っていく、
輸送貨車を追い並走する、ならず者どもが乗る武装馬が、その主を失い嘶きを上げて逸れていく、
だが、貨車の屋根の上のガーネットを、走る武装馬から電磁ショットライフルで、一斉に狙い撃ちしてきた。
ガーネットは腕で弾き返すが、流石に四方八方からの一斉射撃に体が揺らいだ。
「クソー、これじゃあ、幾らクソを貰っても合わない!」
ガーネットは輸送貨車の上で両手で体を支え両足の電磁マシンガンで全方位射撃をして、ならず者どもを薙ぎ払う、
正也が輸送貨車を上手く捌きながら渓谷を抜け出して開けた平原に出ると、ガーネットが後を追うならず者どもたちが渓谷を抜け出す前に、
渓谷の両側の崖に向かって胸の電磁キャノンで吹き飛ばす。
崩れ落ちる大きな岩に押し潰されるならず者たち、それで、やっとの事ガーネットと正也はならず者たちを振り切った。
「ありがとうガーネット、お陰で何とか振り切ったみたいだ」
「私に礼はいらない、あるじを守るのが武器の務めだ」
「そうか、でもありがとう!」
正也の言葉に、目を瞑り静かに頷き、そして正也の腕に抱き付くガーネット、
それを正也が、
「何だいガーネット、貨車が操れないじゃないか」
「少しだけこうしていたいんだ、いいか」
「んん、いいよ、ガーネット」
正也は寄り添い腕に頬を宛がうガーネットを優しげに見つめる。
その後、正也たちを乗せた輸送貨車は、目的地のサウスエデンの銀河王国の軍港へと到着する。
そこで待っていたのは、サージョニス男爵の手の者たちだった、正也とガーネットを出迎えるとすぐに、正也に電磁ガンを突き付けた。
「てめえの仕事はここまでだ!」
正也は、電磁ガンを押し付けた男を見上げた。
「俺たちは、お前が、輸送馬車を襲った犯人を追跡して来た事を知ってんだよ」
「どう言う事ですか?」
「わかんねーのか、小僧、俺たちが輸送馬車を襲ったんだよ」
「そう言う事ですか」
正也が、ガーネットのほうを見ると、ガーネットは、男たちに、電磁シールドに拘束されていた。
「正也!」
ガーネットが電磁シールドの中でもがくが、全身を拘束されていて、身動きが取れなかった。
ガーネットの動きを封じる電磁発生器を見る正也、
「ガーネット、敵を殲滅しろ!」
正也は、ガーネットに命じるが、ガーネットは動けなかった。
「く、クソー、動けない、ここから出て殲滅してやる、クソー、出られない!」
男たちが嘲笑う、
「小僧、頼りの武器も使えないみたいだな、グハハハハハ」
然し、正也は不敵に微笑み、
「僕の武器は、一つじゃないですよ、ガーネットを拘束している装置を破壊しろ!」
男たちが、辺りを見回すが、どこにも武器らしき物が無い、大笑いをする男たち、
「ハッタリもいい加減にしろよ、小僧!」
と、言った時だった、手荷物のバックの中から、スズランがやっとの事でて来ると、
「ちゃんと出られるようにしといてくれよ」
スズランが、ガーネットを拘束する装置を、両足の電磁ショットガンで破壊する。
ズガーン、
拘束が説かれると同時に、ガーネットが全力で、男たちをことごとくなぎ倒していく、
一瞬の爆風のようにガーネットが狭い格納庫を弾丸のように跳ね回った。
ダダダダダ、ガガガーツ、ダダダダダダダダ、グオーーーン、ギャーーーーツ、
次々と男たちが悲鳴を上げる、走り回るガーネットが正也の前で立ち止ると、床に倒れ込む男たちの姿が有った。
「良くやったガーネット」
「正也、スズランを連れて来ていたのか?」
「ああ、護身用に」
正也の横で、胸を張るスズラン、
「えへん、あたしゃちゃんと役に立つんだ」
ガーネットが、スズランの足を見る、
「ハイパー電磁ショットガン、圧縮高出力電磁ガン」
銀色に輝くスズランの両脚、その足を上げてガーネットに見せるスズラン、
「そうさ、あたしの電磁ショットガンは、最新型の高出力電磁発生器の電磁ショットだよ」
正也が、
「ああ、ちょっとした電磁爆弾みたいな物だね」
「えへん!」
正也を見るガーネットに、正也が、
「すまない、ガーネット、スズランにガーネットには秘密にして欲しいって頼まれて」
「あたしにとっちゃー、ちょっとしたためし撃ちだよ」
と、スズラン、ガーネットがスズランの襟首を持ち抱き上げる。
「不覚にもアイツラに捕まって、今回は助かった」
ガーネットは、スズランを抱きかかえた儘、正也に言う、
「何時、スズランに装備したんだ?」
「ああ、砦のザイイス将軍にお願いをして」
「そうか」
高速輸送馬車を襲撃した犯人たちは、直ぐに、宇宙軍の戦闘騎兵隊に引き渡された。
然し、銀河王国貴族のサージョニス男爵には、銀河王国の貿易商人の特権で身柄を抑える事が出来なかった。
宇宙軍の戦闘騎兵隊は、準男爵のスターナイトの称号に対して手も足も出せない、
サージョニス男爵は、銀河王国の軍港から、銀河王国支配領域の星系へと出発して仕舞った。
銀河王国の特権の前に、正也たちは、悪の根を見す見す逃して仕舞ったのだった。
2023、12、31、個人雑誌グラス編集部、編集長兼雑用作家の 齋藤 務、
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