この日、いつも通り午前一時に出勤してパンを焼くための準備をはじめるものの、こちらでも午前二時ごろ計画停電が容赦なく始まり、オーブンが使えないため、準備したパンたちはこの通り台無し。ベーカーとしてはこのまま家に帰りたいところだが、所詮はスーパー内のベーカリーで働くスーパーの従業員に過ぎないので、残った他の従業員たちと冷蔵ケースおよび冷凍ケース内の商品の救済に勤めることになる。
具体的には、店全体の冷凍・冷蔵ケースにビニールを被せてテープでとめ、できるだけ商品の劣化を防ぐようにしたり、その他食材をほぼ外の気温と同じになりつつあるバックルームに移動させたりした。
8時間の労働を終え、結局電気が戻らなかったのでパンを処分するのに多少残業してやっと帰路につけると思いきや、店の駐車場はスケートリンク状態。従業員は日頃から客のために出入口からなるべく遠くに自分の車を駐車するように言われているため、自分の車まではかなり長い道のり。転倒覚悟でやっとのこと車にたどり着くと今度は凍り付いた開かないドアとの戦い。幸い、スクレーパー用意しておいたのでそれで何とかこじ開け乗り込むと早速エンジンをかける。窓ガラスのくもりとりと暖房を始動させて、その間日本の家族とLINEで話したりして時間をつぶし、15分くらいだろうか? やっとのこと車を走らせることができた。
家に戻ると電気で稼働するヒーターを使用している我が家は徐々に冷え始めてきていたので、普段は使わないガスが繋がっているマニュアル式の暖炉に薪をくべ火をともすことに。これ、暖かそうに見えるけど、炎の真上にある扉を開け放して煙突に排気するタイプなので、そこから冷気が入って来て部屋全体があったまることはない。 それでも外がー17℃までに下がると使わないよりはましで、室内の気温は12℃くらいまでには保てたのでは…。
夜になると、この暖炉の炎を見ているだけで、安心感が違う。
思えば、うちの猫さんたち、この日ばかりは外に出たいと言わなかったなー。終始真っ暗で、何が起きたんだろうと猫さんたちもさすがに身の危険を感じたのだろう。
翌日は大雪の予報が出ていたので、計画停電が続いている以上、午前一時に出勤してもまたパンを無駄にしてしまう可能性が大だし、道路も凍結して危険なので、マネージャーに休みたい旨を伝え休ませてもらった。翌々日はこの通りよく晴れたが、従業員が足りないことや、電源が安定してないのでレジ決済ができないことなど、様々な混乱を想定して、店はクローズすることに。三日目となると計画停電の時間も徐々に短くなり、ヒーターを継続して使えるようになり家の中も徐々に温まってきた。
食料を求めて途方に暮れた渡り鳥さんたちがうちの低木の赤い実をついばみにたーくさんやってきた。 未だ寒すぎて外に出れない猫さんたちにとって自然が作り出すエンターテインメントになって、こんなことならー17℃もたまになら悪くないんじゃないかって思ったりして…。 いやいや、この計画停電のせいで、使い慣れない薪ストーブを使って火事になって亡くなった方もいたし、水道管破裂のために家が水びたしの被害にあった方もたくさんいたので、もう二度とこんなことがあってはならないことを祈らねば…。 私たちはたまたま無事乗り切れただけなのだから…。