朝日記250210 L. Ciompi「システム理論における感情の意義について」
Communication
L. Ciompi「システム理論における感情の意義について」の記事から
Ciompis’ Note “On the Significance of Emotions in System Theory”
荒井康全
(初稿;2022-11-14)2025-2-10
概容
Ciompi L. はスイスの精神治療医師です。ドイツ語圏でのシステム理論はNiklas Luhmannの現象構造理解を核とする理論がひろく理解されている。Ciompiは社会的空気が
個々の感情と思考の結合単位との単位間間の相互作用状態をシステム上の高次構造としてとらえた。これが動力学的(時間)に変化するものとしその‘複雑構造’をフラクタル構造としてとらえ、これを使っての感覚と思考からの行為(なんらかの出力)を階層的システムモデル化し、それによって多様に変化する社会的感情出現の現象論的理解と予測の方法論の提案解説である。Ciompiは現在91歳(2022年11月)でなお健在であることをつたえてぉきている。
Tags: Luc Ciompi, Blog Ciompi, Affect-logic
記事本文
著者Ciompiの意見として、心理学的および社会的プロセスについてのシステム-理論的理解は特にドイツ語圏では社会学者Niklas Lumannの概念が非常に強力な影響下にあって、いくつの意味で全体をとおしての見直しと明確化が求められていると考えるものである。
特に、感情の意義と思考および行動との相互作用についての概念としては、Rosemarie Welter-Enderlinの“emotional framing” 感情的枠組み や Fritz Simonの “symbolically generalized communication media”シンボリック的に一般化されたコミュニケーション媒体論 のような感情についての考察があるがこれらは実践的もしくは理論利用にひろく供するにはあまりにもおおまかなもののようにみえるのである。
感情のエネルギー-動力学的役割りについては一般にあまりにも注意が払われていない。
Elisabeth Wagnerの情報論的新著ならびにUlrike Russingerの感情中心におく心理療法もまたその意味 で十分な解明をあたえていない。
著者は数年まえに“A Blind Spot in Niklas Luhmann?... ,という報文でつぎのことを詳しく説明した、それはLuhmannの説では感情は心理学的領域に属していて社会科学では適切なものではない、ときとして感情は研究での論理遂行上の障害や警告的外乱(ノイズ)として社会科学では位置づけてきたのであるが、これは再考すべきものであると主張する。
この著者の見解としては、感情こそが、逆に、社会の場での中核的な役割りを演じるとするのである。
Luhmannは驚くほど 集合的感情が社会的紛争と緊張をよび混沌に起動をかける事実に注意を払わず、決定づけるのは駆動とエネルギー供給原としてのfunctions機能であると言い続けるのである。Luhmannは機能こそがミクロ社会とマクロ社会のプロセスの動力学の駆動力として位置付けうるとするのである。
家庭内不和、集団的パニックや集団的熱狂、抗議運動、また革命はこの問題への分かりやすい例を与える。
長期にわたる社会的プロセス、たとえば社会での女性の役割りにおいての数十年にわたる漸進的変化にみるようにこれらは感情的エネルギーが究極的に駆動をかけてきたものである。
さらに、(Simonの仮説であるが、)感情はコミュニケーションの媒体としては必要不可欠なものであり、そのコミュニケーションそれ自体が顕著な社会現象なのである。
この著者の主張は、感情抜きの情報(もしくは“emotional framing”感情的枠組みを除いた情報)は実践的には効果のないものに留まるということは真であるとさえいえる、すなわちそのようなものは注意を喚起はするがなんら我々の思考のなかで統合化されないからである。
そして最終的にして、しかし少なからず、価値システムは正または負の感情にリンクするのであり、重要な役割りを担うのであり、それは心理学的にもそして社会的圏においても行為についての必要不可欠な規律者として、そして複雑性についての帰納的解釈者として双方において位置づけとなるのである。
10個の中核的項目、感情と認知の相互作用について
以下に非常に簡単ではあるがまとめる、10個のもっとも重要な感情と認知の相互作用に関する綱目である、これらは著者の意見として、精神と社会システムについての現在存在する理論のなかに系統的に組み込まれていくべきである。
1.感情と認知は精神と社会プロセスにおいて循環的に相互作用する。
特定の認知は特定の感情にトリガーをかける、そして特定の感情はそれらの特定のスイッチングとフィルター効果をとおして認知に影響する。
2.感情はcomprehensive共感性、psychosomatic moods心身的気分からの進化性に根ざす。これは意識に変化するduration持続性、intensity意図性、そしてproximity近郊性である。
それらは特定のエネルギー性と組みあわされ(もしくはエネルギー消費パターン)そのmoving うごきのbasic tendency基本傾向はcertain cognitive objectsしかるべき認知対象に“away from” 離れるかあるいは“toward”向かうかである。
3.集合的感情はどのような規模の集合体であってもそのメンバーの多数派や少数派によってシェアされる感情である。
集合的感情エネルギーは、もし同じ方向に向かうなら、顕著場としての社会的効果をもつことができる。
4.Cognitions認知 (これは perception感受, attention,注目 memory記憶, combinatory thinking結合的思考, およびdecision-making意思決定)はsensory distinctions,感覚的区別、もしくはSoncer-Brown の意味で、区別についての区別に究極的に基づいている。
5.同時的に経験された感情、認知、そして行為は記憶にintegrated feeling-thinking-behaving programs,総合化された感覚-思考-行為プログラム(FTB programs)にストアされる、これが類似状況での未来行為をコントロールする。
6. 種々のサイズのFTB programsはそのpsycheのbasic基本となる “building blocks” を形成する。
FTB programsの合計はpersonality-specific,個人特定 group-specific グループ特定、そしてculture-specific affective-cognitive views of the worldその世界での文化-特定的影響-認知見解 (“Eigenworlds”固有世界)の結果のものである。
7.個人FTB programs および個人もしくは集合的感情 -認知的affective-cognitive worldviewsな世界観はそのシステム-理論的意味での典型的システムに対応する。ここではequilibration 平衡化(homoeostasisホメオスタシス) またはtransformation 移行化(morphogenesis形態発現)は正もしくは負のfeedback mechanisms.帰還機構の多重性によって規制される。
8.認知は精神および社会のシステムの構造を決定し、そして感情はその動力学を決定する。
9.FTB systemsでのいかなる次元において。限界判断的に起る感情-エネルギー的緊張は突然的非線形シフト(a bifurcation分岐)を引き起こし感覚の別途のグローバルパターンに向かわせる(たとえば、a “logic of peace平和論理” からa “logic of war,戦争論理”、日常論理から恐怖や怒りの論理へ、特定の配置をもつ人物にあるものからの“psychotic logic.”精神病的な論理世界へ)
10.感情と認知との間の-およそ循環的-相互作用はフラクタル的構造化される;それらは精神的および如何なる次元の社会システムにおいてself-similar自己類似的である。
これらの項目すべてはaffect logic.影響論理の概念にもとづいているのである。
このことをさらに詳しく説明するのにはあまりには紙面が限られているこの場ではあまりに遠く、困難であり私の著書で事例を見てほしい。
しかしながら、これらの仮定によって提供されたシステム理論が提供することになるたくさんの利点を簡単にあげることができよう。
これらの10項目を精神的ならびに社会的プロセスについてのシステム理論に持ち込むことのよき理由である。
上記すべてにわたり、感情についての心理学的動力学と社会的動力学効果はすぐれて精神的ならびに社会的プロセスのシステム理論のなかにおいて重要性に基づいて、統合化されるのである。それは非鮮明にして周辺的役割りにおいてのみ演ずるこれまでの方法論に替わるものである。
同時に実践的および理論的に意味ある継続性が確立されるである、これは感情と認知的次元のプロセスにとどまらず、精神的と社会的プロセスへとおよぶのである。
一般に感情と認知について、それを現象とみるときに、多重的な現象次元の構造でも双方での相互作用をより理解することができよう。この現象ではその構成要素が不十分に明示化された状況においての相互作用となるからである(たとえば、信頼/非信頼、恥辱、嫉妬などである)。
同じことがつぎのような意識にたいしても有効である。“institutional climate制度論的空気、“mentality” モノの考え方や気質、“class spirit”階級的精神などはFTBプログラムやシステムの典型問題を形成しよう。
そこに含まれた認知がこのシステムの内容と構造を決定する、そしてここに含まれた感情の切り替え効果がその動力学を決定する(e.g. 防御と回避行為、または反対に、接近と結合行為)。
これらのふたつの要素の間での相違性と場所をこえた相互性を明解に把握することは影響的感情と/あるいは認知への実際的可能性を提供する。
提案されている概念化についての別途の有利としては、その経済性がある。
事実、感情と認知のdescribed interplay記述化相互活動は顕著な効率と経済性の進化によって生みだされた発生的二進コード に対応しているのである。
基本となる感情的状態は限られた数でありこれが、認知対象は無限の数で、それとの結合よって、このコードは無限多様な経験ベースFTBプログラムを発生することが可能となり、このプログラムが生存のための奉仕ということにおいて思考と行為をすべてをコントロールする。
このコードはより経済的にすぐれているとさえいえる結果をみせている、ひとをして、わたしCiompiが埋め込んだ仮説であると次のように考えるときにである、ここでは、感情的要素はすでに組み込まれておりそれに沿って有意に演じている初期構成での有意な構造的役割りと記憶のなかでのFTB系でのストレージによってきまるのである。
Antonio Damasio 提案による謂うところのmarker hypothesisマーク付け仮説と全く類似したものである。
多元的実用内容
これらの概念によって装備されたシステム理論の実用的な内容は、つぎの状態のときに明示的になる;あらゆる種の精神的もしくは社会的システムの動力学的状況たとえば紛争の管理や、精神治療や、危機介入や仲裁といった状況にあるときである。
思考と行為の感情のエネルギー化された効果は組織体の運営、宣伝、またpolitical propaganda24という政治的宣伝での中核的役割りを演じている。
この事実は永い時間のあいだ使われてきた、当初は、より直観的ベースに乗っていたが、より最近ではさらなる高度に知的な内容をくわえた科学的ベースにのっている。
ひとつの例として現在の米英のコンサルタントであるCambridge AnalyticsによるFacebook情報についてのBig Data analyses巨大データ解析がスキャンダル的なデータ解析であることをあげることができる。この結果2016年の選挙投票で二大政党が極端に肉薄した結果になってあらわれたことに統計的にすべて決定的貢献をしている;
欧州連合からのイングランドの脱離運動(the “Brexit”)、およびアメリカ大統領選でHillary ClintonにたいしてDonald Trumpの選挙運動がそれである。
Luc Ciompi(1929生まれ)、スイスの精神科医師、結合失調症研究者、統合的精神廟のパイオニア、かつAffect-Logicの創設者である。いま九十歳の誕生(2022年11月)を祝う。
彼はわれわれに彼自身の,科学的および思想的反省に参加することを許している。それは高齢であることでさえ期待せざる高揚のうねりに満ちた魅力的な時間にあることが可能であることを証明するものである。
Ciompiが自ら推奨する著書を以下にあげておく;
1.Ciompim,L.(1997) Die emotionlalen Grundlagen des Dennkens,Ent-wurf einer fraktalen Affedtlogik, Vandenhoeck & Ruprechi, Goetingen 1997
邦訳版;ルック・チオンピ、訳山岸、野間、菅原、松本 「基礎としての情動 フラクタル感情論理の構想」、学樹書院 2005
2.ルック・チオンピ、訳 松本、井上、菅原、 「感情論理」、学樹書院、1994
3.河本英雄、L.チオンピ、花村誠一、W,フランケンブルグ「精神医学」青土社, 1008
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