「メバルの刺身が食べたい。」
金沢から来ていた友人が私を見てそう言った。
ならばと出向いた。6月25日だった。
このところ毎日間断なく雨が降り続けていたが
丁度、午後過ぎから止んだところだった。
ポイントは前回と同じ「右足の崖」である。
メバルシーズンの終盤である今、私のシーズンを気分良く締めくくるためにも
尺をもう一匹あげたかったし、この時期、尺を狙えるポイントはここの他なかった。
前回このポイントは期待はずれの凪だったが、今回は丁度いい荒れ具合だった。
1~1.5メートルの波、サラシがいい感じで渦巻いていた。しかし、風が悪かった。強い向かい風。
6センチ7グラムのプラグもまともに飛んでくれない。自作のシンキング飛ばしウキ15グラムもサラシの向こうまで届かなかった。
ここでデカイやつが来るのは遠いところだというのに。
活性が強いときはサラシの中でもアタックして来るが、今回は全くダメである。
釣り座を変えてなんとかキャスト出来る方向に投げてみるが、ラインは風に流され、反応はなかった。
流石に2時間、アタリもなければ諦める。
諦めかけた頃、俄に風が弱くなった。
チャンス到来と風に向ってサラシの向こうへフルキャストする。
数投目、やはり遠いところでコンときた。待ちかねたアタリだ。
しかし乗らない。
同じところを何度も通す。
と、ココン。やはりきた。今度は乗せる。
遠くから引き寄せる。案外の手応え。魚は暗い海面を滑るように近づいて来る。
27センチ。
しかし、その後が続かない。
一時間後、25センチが一匹。
その後、再び風が強くなり、諦めた。
2匹だが、なんとか友人に刺身を作ってやれるではないか。
空はどんよりと厚い雲が覆い、細かな雨も落ちて来た。
車までの道を急いだ。
と、帰り道右手の大きなテトラ群にふと目が止まった。
普段、この巨大なテトラは危険過ぎて釣り人はあまり近寄らない。
私も過去何度か降りてゆく道を見つけて中段ではあるが、釣り座を見つけキャストしたことがある。
確かにあまり人が来ないところだし、メバルのポイントとしては最高で、デカメバルの入れ食いも経験している。
しかし、始めからそこに行く心構えと体力がないとひとりで行く気にはならない。
正直、何度か登り降りしたが、だからといっていつもうまく登れる自信が今ひとつないのである。
もし、足を滑らせ落ちたら、それで終わりなのである。要するに怖いんである。
それにその降り道も今では確かな記憶がないのである。
もしテトラからキャストすれば丁度いい感じの追い風となる。
ひょっとして降りなくても、テトラの上からキャスト出来ないか、と思った。
で、探してみると、あった!!
比較的安全で簡単に行ける釣り座。しかも足下の海は沈み根、浮き根があり、魚が好んで集まりそうなポイントである。
ただし、問題が一つ。足場の高さである。
それはもうメバル釣りの釣り座としては考えられないほどの高さである。
おそらく15メートルはあるであろう。ルアーをピックアップするにも巻き上げる途中、ルアーはテトラの隙間に引っ掛かるかも知れないし、こすることはまず避けられない。魚が掛かってもそうであろう。およそ人はここからキャストしようとは思わない。
勿論、ジグヘッド単体などは問題にならない。かろうじて重いプラグか飛ばしウキならなんとかなりそうだった。
私の飛ばしウキはウレタンゴム製のラグビーボール型のやつで、衝撃には極めて強いし重さも10グラム以上である。
こんなところにはもってこいであった。
試しに投げてみた。
追い風ということもあって、案外綺麗に飛んでくれる。
飛ぶというより、放物線を描いて遥か下へと落下するのである。
着水するのに時間はかかるが、案外問題なくキャスト出来ることに驚いた。
ゆっくり引いてみる。
暗闇の中、何処にルアーが落ちたのか、どの辺りをルアーは動いているのか遠過ぎて分からない。
頼りは長いラインを伝わって来る細かな信号と勘である。
どのくらい引いて来たか、おそらく足元のテトラ近くまで来て、ゴゴン!!と引ったくられた。
合わせると重さがロッドに乗った。よし、と巻き上げる。グングン巻き上げる。
いつもは引き寄せ抜き上げるわけだが、それとは違い、巻き上げる。長い距離をぐんぐん巻くんである。
魚の重さがもろにロッドに掛かり、予想通り、何度かテトラをこすりながら魚はあがって来た。
26センチ。
巻き上げる時間は長いものの、デカメバル専用のロッドである。折れる心配はない。
尺でも大丈夫だ。
とにかく、素早く巻き上げなくちゃならない。魚がテトラに擦らないように。
二投目、また掛かった。
23センチ。
三投目。
25センチ。
案の定、入れ食いとなった。
どれも25センチ前後であったが
先程までの釣れない釣りが嘘のようであった。
10匹も続いただろうか、突然時合いは終わり、静かになった。
暫くするとまた釣れるだろうと思ったが、
もう十分だった。
この釣り座は発見であった。
いつもは通り過ぎていたが、ちょっと発想を変えてみると
それが宝のポイントなのだった。
でかいのは釣れなかったが、このポイントにはきっと大物がいる、そんな確信めいたものを感じられ
それが嬉しいではないか。
明くる日、友人は刺身と煮付けに舌鼓をうち、大いに喜んでくれたのである。
そして3日後、28日。
予報を見ると、今度こそ追い風である。
波も1.5メートルらしい。
出かけた。
またまた「右足の崖」である。
いつもの釣り座は予想通りの追い風。波もいい具合に荒れていた。
サラシの15メートル先には潮目が横たわっている。
状況は申し分ない。これを待っていたのだ。
よし!!
と、まずはプラグを定番の方向、潮目を狙って投げてみる。
風に乗ってルアーはよく飛んだ。
ここは大物は遠くで掛かることが多い。
すぐにでもアタリがあると確信していた。
ルアーが潮目に差し掛かり、
くるぞ、くるぞ・・・とドキドキしながらルアーを引く。
がしかし、
サッパリ、であった。
時々、小さいのが掛かる程度。
状況がいいからと言って、いつも釣れるわけじゃないんだな。
潮目だからといって、そこにいつも魚が溜まっているとは限らない。
いない時はいないし、釣れない時は釣れないんだ。
当たり前のこと。
考えうる全てのことをやってみたが、ダメである。
しかし、一度、底を引いているうちに食いついて来たやつがいた。
そいつは手応えからデカメバルのレベルを確かに超えた大物だった。
メバルなら軽く尺越えだったと思えるが、やり取りの間とうとうバレてしまった。
3月30日の女釣り師との釣りでも、大物を逃がした。あの時は寄せる途中、障害物であるテトラの根に引っ掛かり、バラしてしまったのだった。
手応えからしてスズキでもないし、クロダイでもない。それは確かだ。鈍重でありながら、下への強い引きである。おそらく根魚だろうと思われる。メバルか、ソイか、キジハタか、アイナメか、タケノコメバルか、どちらにしても大物である。
メバルなら35センチ級の怪物に違いない。
バラした後の強烈な手応えの印象が長く尾を引いた。
思い返せば、このポイントでのこんな経験はこれまで一度や二度ではない。
ラインが切られたり、バラしたり、フックが伸ばされたり、一度も上げることができなかった。
そいつをもう一度と同じ底をしつこく狙ってみるが、アタリはその一度だけだった。
結局、3時間粘って25センチが一匹。
海の状況がいいにもかかわらず釣れない時は、ホントに釣れないんである。
場所を移動した。
前回の入れ食いテトラに期待した。
前回は追い風だったが、今回は向かい風である。
最初のポイントとは逆になるのだ。
海面まで15メートルの高さである。
この高さで向かい風は厳しい。
空中に長く伸びるラインはもろに風の影響を受け、難しい釣りであった。
しかし、なんとかルアーを海面に落とすことができれば、それがどの方向へ流されても、食いついて来ると確信していた。
数投目、案の定、食いついて来た。
15メートルをえんや、えんやと抜き上げる。
向かい風のせいで、テトラに何度か当り、こすりながらの抜き上げである。
25センチ。
前回ほどではないが、まあまあの活性である。
23センチ。
26センチ。
その後、風を利用し思い切り右方向、テトラの足元にルアーを落としゆっくりと引いていると、ガツン!!ときた。
強い引き。ドラグが軋む。走る。絞られるロッド。
なんだ、なんだ!!
大物だった。引き寄せる。心臓が早鐘を打った。
足元まで寄ったが、そこでテンションが抜けた。
あんらら~~。
おまけに、ルアーを回収する途中、飛ばしウキがテトラの隙間に挟まったとみえ、仕方なくライン切れ。
ラインを編み、飛ばしウキのシステムを作り直し、さて再開。
一瞬、風が弱まったので、正面遠くに投げてみる。うまく飛んでくれた。
引いて来るとテトラの沈み根があり、そこで食いついて来た。
激しいアタック、手応え十分、こいつもでかかった。
走る走る。負けじと引き寄せる。
0.6号、14ポンドのラインに合わせ強く締めたドラグが出る出る。
尺か。いやそれ以上かも。怪物の期待が膨らむ。
バレるなよ。
足元まで寄ったところで、抜き上げに掛かった。
一気に巻き上げる。
ロッドに掛かる全重量。折れ曲がるロッド。重かった。いいぞ。
しかし、何回か巻いたところで重さが消えちまった。
軽くなったラインを巻き上げてみると、
かろうじてリーダーは残っていたものの、飛ばしウキも、ジグヘッドもなくなっていた。
2.5号のリーダーが切れちまって魚は海へと落ちたのだ。
いくらなんでも魚の重量に耐えきれず切れたとは思えない。
抜き上げの時、ラインがテトラに擦れ傷ついたのだ。
それに魚の重量が重なった。単なる重量ではない。暴れる時の重量は二倍になる。
それにしても魚体を見たかった。
どんなやつだったのだろう。
その後もトラブルは続いた。
ラインブレイク2回、飛ばしウキのロスト4つ、ジグヘッドのロスト数個と散々であった。
しかし、最後の最後、28センチがあがって来た。
そして、持っていた飛ばしウキを全てなくしたところで終わりにした。
高い釣り座での風との格闘、やはり難しい釣りだった。
がしかし、事件も多々あり、
嗚呼!!なんという夜だったのだと、愉快なのであった。
正面の中空、斜めに傾いた北斗七星も北極星を挟んで水平線近くのカシオペアも笑っているようだった。
今回、大物を三度取り逃がした。
このポイントには何か得体の知れない怪物が確かにいる。
尺メバルのレベルを超えたやつ。
メバルではないかも知れない。
釣れそうで釣れない。
そいつは一体どんなやつなのか?
とにかくそいつを釣り上げてみたい。
ラインやリーダー、ジグヘッドなど、もう少し強いものにして望もう。
なんだか
闘志が湧いて来る。
ロッド:テンリュウ、ルナキア9.3フィート
リール;ダイワ、イグジスト2506ダブルハンドル
ライン;ラパラ、マルチゲーム0.6号13.9lb
ジグヘッド:自作(がまかつJIG29サイズ2+がん玉0.5~1g)、尺ヘッド0.5g
飛ばしウキ;ウレタンゴム製ラグビーボール(自分で鉛を埋め込んだりして11~15g)
ワーム;ガルプ、ベビィサーディン他いろいろ。