私の読書記録

ミステリー、サスペンス、アクション
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相剋のスナイパー / アンドリュー・ピーターソン

2024年08月13日 | 読んだ小説
               

☆☆
主人公の元海兵隊スナイパーの男は、親友であるかつての同僚と警備保障会社を経営していた。
そこへ元FBI長官から、武器密輸組織に潜入捜査している自身の孫でもあるFBI捜査官の救出作戦に
参加してほしいとの依頼が入る。 しかし、作戦は失敗に終わり組織のリーダーの末弟を射殺する事はで
きたが、兄弟2人を取り逃がし組織が隠し持っていたプラスチック爆弾も回収できなかった。

武器密輸組織のリーダー兄弟は、末弟を殺したスナイパーを主人公だと特定し激しい復讐に燃え、まず
見せしめにFBI支局を爆弾攻撃する。 この爆弾テロで主人公といい仲になっていた女性FBI捜査官
も重傷を負い、他にも多くの死傷者を出した。 怒りの主人公は、どんな手段を使ってでも武器密輸組織
の兄弟を追い詰める事を決意する。

主人公は、組織の次男の元妻に接触し、敵をおびき出す作戦に出るが、そんな中で小さな組織の兄弟が、
大量のプラスチック爆弾を入手できたのは、FBIが関与していた事が明らかになる。 そんなの次男が
起こしたかつての交通事故を調べたら、次男と元FBI長官との繫がりなんて簡単にバレるのに、何で
元FBI長官や現FBI長官が、そんなリスクの大きい危ない橋を渡るのか意味が分からなかった。

主人公は、アメリカ議会の有力上院議員の父を持ち、目的遂行のためなら法やルールを破る事も厭わない
冷徹非情なスナイパーで、組織の長男のスナイパーとの闘いを最後のメインに、固い絆で結ばれた相棒の
親友、お互い心を寄せ合う女性捜査官、主人公の父と子の確執なども織り交ぜながらスナイパー対スナイ
パーの白熱した死闘を描く。 

スナイパー物としては平均的な出来だと思うが、最後の闘いまでに主人公が撃たれて満身創痍になるのは
どうなんだろう。 この兄弟程度のザコ敵には、北斗の拳のケンシロウじゃないけど、主人公の圧倒的強
さを見せてくれた方がスッキリと気持ちいいんだが。 他には翻訳者が上手いのか読み易い文章というの
もありそこそこ面白かった。

君の膵臓をたべたい / 住野よる

2024年08月06日 | 読んだ小説
                    

☆☆
膵臓の病気で余命が1年もない女子高生と、非常に面倒くさい性格のクラスメイトの陰キャな少年の切な
くて儚い中二病の青春恋物語。 しかし、一度見たら忘れないインパクトのあるタイトルはいいけど、
このタイトルのせいで逆に敬遠もされそうで損をしている所があるかもしれない。

病気の少女は、死を前にして本当は絶対に怖くて辛くて悲しいはずなのに、わざと明るく快活に振る舞っ
ているし、少年の方は、そんな少女の病気と死に対して実感がないのか、特に何も思ってなさそうでわり
と素っ気ない。ただ少女は、死ぬ前に思い出や生きた証として甘酸っぱい恋愛ごっこがしたくて、自分が
自由に転がしやすい大人しい少年を利用しただけという感じがする。 もちろん少年の事は嫌いじゃない
んだろうけど、途中までは、そこまで本当に好きなのかどうかは怪しい。 それにしても2人の会話が
日常的じゃなくて、いちいちちょっと鬱陶しい。

そしてなんと少女は病死ではなく突然事件に巻き込まれて命を落とすが、これもかつての人気作「セカ
チュー」との差別化と、死にゆく少女の病気など別に適当に何でもよかった作者が、膵臓の病気の事も
医療の事も何も調べてもいないから、少女の最期が描けないものだから取って付けたような最期で驚く
前に後味が悪い。

この作品の一番のハイライトであるはずの少女が書いた共病文庫を、少女の死後に母親から少年が見せて
もらい読むシーンだが、私的には一番の盛り上がりを期待した分、この作品の中で一番つまらないシーン
だった。 人の気持ちや思いは時に複雑な事もあるが、それを言葉や文章にする時は、できるだけシンプ
ルにした方が心を打つんだと改めて感じさせられた。

この作品は、よく感動できる作品、泣ける作品としてネットなんかでも取り上げられているのを見るが、
本当に中二が喜び或いは感動しそうな、お子ちゃま向けの作品で、大人が読むとそこまで感動作という
ほどでもない。 そして、最後に1つ、世の中には本当に膵臓の病気で苦しんでいる人もいて、作者は、
そんな人達への配慮を欠いていると思う。(病気の少女のありえない行動で)
病気の人の痛み苦しみ思いが分からない、想像できない人に重い病気のヒロインを描くのは難しい。

限界集落株式会社 / 黒野伸一

2024年08月01日 | 読んだ小説
                    

☆☆☆
妻子と別れ仕事を辞め、祖父と父が昔に住んでいた田舎にふらっとやって来た主人公の男が、農業の知識
も経験もない中、自らが中心となって村人と共に限界集落を農業で立て直していくサクセスストーリー。

当然のように村人との意見の食い違いや、獣害問題、役場や農協の妨害など、いろんな問題が発生するの
だが、限界集落が農業での新しい事業を始めるなら、行政や農協の協力は不可欠だと思うのだが・・・。
行政や農協と対立してどうするんだという感じだ。

とにかくどの問題も、それほど大きな苦労もなく、わりと簡単にポンポンと解決していき、他にも漫画
でのPRもすぐに大人気になり、新しく始めた事業が僅か1,2年で成果が出て、更に農作物を生産するだ
けに留まらず、村全体が一大レジャー産業化して事業が巨大に膨れ上がるとか、こんな楽に大成功できる
なら日本全国の限界集落の農業従事者は誰も苦労はしない。 しかし、思わぬ傷害事件で最大のピンチに
見舞われる。 ジャニーズもそうだが、巨大になり過ぎたものは、やがて崩壊する運命にあるのだ。 
この村の一大事業も、このまま完全崩壊して村ごとなくなってしまえば良かったのに。

私自身が、農業にさほど興味がないというのもあるが、読んでいて農業もいいなと農業を魅力的に思わせ
る所がなくてつまらない内容だった。 オマケに主人公は、村で若い嫁さんまで見つけてご満悦。
こんな何でも簡単に、いろんな事がバカみたいに上手くいく本作を、アヒさんとイラさんが読んだら、
農業を農村を農民をナメ過ぎだと怒る前に呆れるだろう。

カフーを待ちわびて / 原田マハ

2024年07月23日 | 読んだ小説
                    


カフーとは、沖縄 与那喜島の方言で、いい知らせ(果報)とか幸せという意味なんだそうだ。
そして、主人公である利き手に障害を持つ島の35歳の男性明青が飼っている犬の名前でもある。

明青は、北陸に旅行に行った時に神社の絵馬に、島と自身の名前と共に「嫁に来ないか 幸せにします」
と書いた。 そうして数ヶ月した後、幸という女性から「お嫁さんにしてください」という手紙が届き、
数週間して幸が島に明青を訪ねやって来て、そこから2人の妙な共同生活が始まるピュアで切ないラブ
ストーリーで、終盤までは胸がキュンキュンする。

女慣れしていないシャイな明青は、自分の気持ちを上手く幸に伝えられないし、幸も謎めいていて何か隠
している事があるようで、そもそも明青の所に現れた幸が凄い美人だとか、そんな上手過ぎる美味しい話
が世の中にあるわけないだろうと明青も思うし読者もそう思う。 だから明青が幼馴染に騙された時、
自分の所に幸が現れた、どう考えてもありえない奇跡より、幼馴染の言葉の方がリアリティーがあって
信じてしまうのは、私も自分に自信のない劣等感を持つ人間として何か分かるような気がした。 
そして、その後に幸に取った劣等感の反射からくる冷たく悲しい行動も・・・。

読んでいて思うのが、島の人々の描き方が少し足りないのと、明青とおばあの心の結びつきも、もう少し
しっかり描いてほしかった。 この2人の関係は、ある意味、明青と幸の関係以上に物語の大事な部分だ
と思う。 そして、終盤までの爽やかな感じが、明青と幸の別れと別れた後に届いた幸からの手紙で、
一気に非常に後味の悪い重く悲しい物語になってしまい、こんな展開いらなかったのでは。 

この作品で学ぶべきは、人間関係や愛は、自分の気持ちや自分の素性は、言葉でちゃんと正しく相手に
伝えるべきという事。 最後は明青が、幸に騙されたと思い込んで島から追い出したのを、幼馴染の言葉
や幸からの手紙で本当の事を知り、幸に再会して謝り、今度は本当の素直な自分の気持ちを伝えるべく、
幸を捜すために船出するという所で終わっている。 上手く幸と再会する事ができるのか。 そして、
幸ともう一度やり直す事ができるのかは読者の想像に任されている。 私としては、もう再び幸と会う事
ができなくて、大きな後悔が残る悲恋のバッドエンドに終わった方が、余韻が残って面白いと思うが。 

危険なビーナス / 東野圭吾

2024年07月18日 | 読んだ小説
                    


主人公の獣医、伯朗には異父弟の明人がいた。 そして、2人の母親は、16年前に一応屋内での事故死と
いう事になっているが不可解な死を遂げていた。 そんなある日突然、明人の妻だと名乗る楓という女性
から連絡があり、明人が行方不明でいっしょに捜してほしいと頼まれる。 伯朗は長い間、明人とは疎遠
で最近結婚した事も知らなかった。 伯朗は義父の戸籍には入らなかったが、義父の実家の矢神家は資産
家で、明人は遺産相続を巡る親族内のトラブルに巻き込まれたのかと思われた。 伯朗は、大胆な楓に翻
弄されながらも、いっしょに明人を捜していく中で次第に楓に惹かれていく。

読んでいて気になるのが、楓の妙に軽いノリと伯朗のまるで中学生のような美人の女性を、すべてエロ
目線で見ている事だが、男はいくつになっても大体こんなもんだろう。 しかし、楓に他の男が近づくと
異常に嫉妬する姿は流石にちょっとキモいかも。 それから、遺産相続という重要な問題なのに、明人の
妻だと自己申告しているだけで証拠のない楓の素性を、誰も疑わないのは不自然な感じがした。

話の焦点は明人の謎の失踪だと思って読んでいたが、それ以外にも楓の正体、母親の死の謎、矢神家の
人々の謎とか不可解な点が多くて、ただでさえ焦点がハッキリしなくてぼやけているのに、更に後天性
ザヴァン症候群の研究報告書や伯朗の実父が書いた絵の行方が話の一番の軸になってしまい、益々焦点
がぼやけてしまって何がしたいのか分からなくなってくる。 結局、明人の行方を探るという伯朗と楓の
一番大事であるはずの事が、直接的には横に除けられてしまっているように読んでいて感じてしまう。
まぁ妻という事になっている楓は、最初から明人の行方を本当は知っているから、そもそも必死に捜そう
とは思ってないのだが。 楓に惚れて散々振り回されて適当に使われている伯朗が哀れではある。

最後は、矢神家とは別の人物が犯人で驚かされるが、警察が明人を拉致監禁しようと企てている人物を
特定するために、明人と相談して行方不明になっている事を装い、楓は警察の潜入捜査官だったなんて、
明人は皇族でもないし、有力政治家でもないただの一般人で、まだ事件が起こる前から警察が動くなんて
事があるわけないだろ。 この辺りのご都合主義が残念で最後にがっかりしてしまう。