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寂れた学生街にある喫茶店の3階にあるビリヤード場で働く主人公の青年の周りで不可解な連続殺人事件
が起こる。 まずはビリヤードフロアを担当していた男性が自宅アパートで刺殺され、次は主人公の年上
恋人女性が自宅マンション6Fのエレベーター前で刺殺され、更に恋人女性がボランティアで毎週訪れて
いた児童施設の園長が、学生街に設置されたクリスマス・イルミネーションの前で刺殺される。
一連の事件は、この学生街に関係する者の犯行なのだろうか? そして、その犯行動機は?
主人公の青年は、殺害された恋人の妹と共に事件を調べていく。
話が進んでいく中で、コンピュータのAIテクノロジーが絡んでいる産業スパイである事が浮上してくる
が、ミステリー小説だから犯人は、主人公、殺害された人物以外の登場人物の中に必ずいるはずで、
ミステリーとしてはインパクトのある意外な人物が犯人というのが望ましいわけだが、最初に明らかに
なった犯人が作中での印象の薄い人物でショボイし、学生街とも特に関係がなくてガッカリだった。
でも、それで事件の完全解決ではない事に主人公が気が付き、園長を殺害した犯人は別人で、2つの殺人
事件と園長の殺人事件は二重構造の事件だったわけだ。 そして、ミステリーの定石通りの案の定な犯人
を追求する為に、犯人が結婚式を挙げる教会へ向かうが、そんな最高に幸せな瞬間の時に、最悪な事を告
げに行くくらい犯人の事が許せないのなら(恋人と姉が殺害されるように仕掛けた人物なのだから許せな
くて当然)、中途半端な事を言ってないで最初から警察に犯人を引き渡せばいいのにと思う。
それにしても女の友情なんて所詮こんなものなのかと読者に思わせてしまうのも残念な所だ。
元々、主人公の青年が、この事件の事を調べ出したのが、殺された恋人の自分が知らない秘密を知りた
かったからなのだが、そこまで思うほど恋人の事を愛していたとは文中からは最後までまったく伝わっ
てこなくて、主人公の行動の動機が希薄に思われ、それがこの作品の最大の弱点かもしれない。
本作は東野圭吾の初期作品であるらしいが、全体を通して暗くうら寂しい雰囲気が漂い、物語のテンポも
妙にモタモタした感があり無駄にページ数が多くて、その後の作者の映像化される事を意識した華やかな
エンターテイメント路線とは明らかに違った趣がある。