私の読書記録

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危険なビーナス / 東野圭吾

2024年07月18日 | 読んだ小説
                    


主人公の獣医、伯朗には異父弟の明人がいた。 そして、2人の母親は、16年前に一応屋内での事故死と
いう事になっているが不可解な死を遂げていた。 そんなある日突然、明人の妻だと名乗る楓という女性
から連絡があり、明人が行方不明でいっしょに捜してほしいと頼まれる。 伯朗は長い間、明人とは疎遠
で最近結婚した事も知らなかった。 伯朗は義父の戸籍には入らなかったが、義父の実家の矢神家は資産
家で、明人は遺産相続を巡る親族内のトラブルに巻き込まれたのかと思われた。 伯朗は、大胆な楓に翻
弄されながらも、いっしょに明人を捜していく中で次第に楓に惹かれていく。

読んでいて気になるのが、楓の妙に軽いノリと伯朗のまるで中学生のような美人の女性を、すべてエロ
目線で見ている事だが、男はいくつになっても大体こんなもんだろう。 しかし、楓に他の男が近づくと
異常に嫉妬する姿は流石にちょっとキモいかも。 それから、遺産相続という重要な問題なのに、明人の
妻だと自己申告しているだけで証拠のない楓の素性を、誰も疑わないのは不自然な感じがした。

話の焦点は明人の謎の失踪だと思って読んでいたが、それ以外にも楓の正体、母親の死の謎、矢神家の
人々の謎とか不可解な点が多くて、ただでさえ焦点がハッキリしなくてぼやけているのに、更に後天性
ザヴァン症候群の研究報告書や伯朗の実父が書いた絵の行方が話の一番の軸になってしまい、益々焦点
がぼやけてしまって何がしたいのか分からなくなってくる。 結局、明人の行方を探るという伯朗と楓の
一番大事であるはずの事が、直接的には横に除けられてしまっているように読んでいて感じてしまう。
まぁ妻という事になっている楓は、最初から明人の行方を本当は知っているから、そもそも必死に捜そう
とは思ってないのだが。 楓に惚れて散々振り回されて適当に使われている伯朗が哀れではある。

最後は、矢神家とは別の人物が犯人で驚かされるが、警察が明人を拉致監禁しようと企てている人物を
特定するために、明人と相談して行方不明になっている事を装い、楓は警察の潜入捜査官だったなんて、
明人は皇族でもないし、有力政治家でもないただの一般人で、まだ事件が起こる前から警察が動くなんて
事があるわけないだろ。 この辺りのご都合主義が残念で最後にがっかりしてしまう。

教場 / 長岡弘樹

2024年07月10日 | 読んだ小説
                    

☆☆☆
警察学校を舞台にした連続短編集。
教官も警察官を目指す生徒も異常者や犯罪者ばっかりで、警察学校の実状を知らない者が読んでも、
実際には、こんなわけがないだろうと思うだけでまるでリアリティーがない。
ろくでもない胸糞悪いエピソードばかりが続き読んでいて不快になってしまう。
作者は、何か警察に恨みでもあるのだろうか。 せっかくの興味深い面白そうな題材を、
作者が変な所に力み過ぎなために、つまらない残念な作品になってしまっている。

置き去りのふたり / 砂川雨路

2024年07月06日 | 読んだ小説
                    

☆☆
みちかと太一と空人は大学の親友同士だった。 そして、みちかと太一は、それぞれ密かに空人に恋心を
抱いていた。 しかし、ある日突然、空人は恋人と謎の心中自殺をしてしまう。
残された2人に、空人が自殺の直前に書いた2人宛の手紙が届くが、そこには「ふたりをいつまでも恨ん
でいる」と書かれてあった。 親友であり密かに愛する人の突然の自殺に、衝撃と共に喪失感を抱いてい
る上に、親友だとばかり思っていた相手から予想もしない言葉を浴びせられ戦慄し混乱する2人。

みちかと太一は、空人の自殺の真相と、自分達を恨んでいた理由を知るためにいろんな人を訪ねて訊いて
回るが、そこで明らかになってきた事は、空人には2人に見せていた顔とは違う別の裏の顔があり、
性悪で非常に嫌なクズの一面があるという人間だった。

私には、どこまでが友達で、どこからが親友なのかよく分からないが、たとえ親友同士でも相手にすべて
をさらけ出す必要もないし、そんなのは世間では普通にいくらでもある事だと思う。
でも、何で空人の弟は、みちかと太一に空人の遺言の手紙の最初の1枚だけ送ったのだろうか。
そんな事をしたら2人は困惑して絶対に調べ始めるに決まっているし、自身の犯罪を隠し通したいのな
ら、2人に手紙なんて見せなければいいんだし。 まぁどちらにしても弟の共犯はいずれ警察に暴かれた
だろうと思うけど。

非常に読み易い文章で、みちかと太一の心情もよく表されていてなかなか面白かったが、私なら空人の
ような人物と親友同士だった事を恥じて黒歴史として封印してしまいたい所だが。

瓶詰の地獄 / 夢野久作

2024年06月25日 | 読んだ小説
                    

☆☆☆
奇妙で怪奇で幻想的な世界観とエロティシズム漂う夢野久作の短編集。
作者は、あの有名な奇作「ドグラ・マグラ」を書いた人で、私も昔に「ドグラ・マグラ」は読んだ気が
するが、ハッキリと内容までは憶えてないが、非常につまらなかったという印象は残っている。

それでこの本作だが、「ドグラ・マグラ」ほど意味不明な難解さはなくまだ読み易い方だが、
短編集だという事もあり、どの作品も古典的な内容のシンプルさが鮮烈ではあるけど、
やっぱり古典はつまらないかな。

表題作の「瓶詰の地獄」なんかは、もっと肉付けして膨らまして長編で書いたら面白そうなのになぁ。
でも、近親相姦の性描写でエロ小説になってしまいR15指定とかなりそうかも。
「瓶詰の地獄」以外では「一足お先に」が、そこそこ面白かった。

さよなら、ムッシュ / 片岡 翔

2024年06月19日 | 読んだ小説
                    

☆☆
主人公の青年が幼い頃に病気で亡くなった母親が、生前に作った縫いぐるみのムッシュは、
母親が亡くなったその日から突然に喋り出し動き始める。 そんな事あるわけないやないかーっ。 
あったらなかなかのホラーだと思うが、本作はホラー要素は皆無で、絵本を小説にしたような
優しく温かく悲しいファンタジー作品だ。 

青年は、かれこれ20年もムッシュと共に生活してきたが、亡くなった母親と同じ病気に犯され余命半年と
知る事になる。 本作は、青年にとって親友であり、兄弟であり、家族であるムッシュとさよならする
までの日々を綴った物語である。

普通この手の作品って感動的で泣けるはずなのに、そこまで感動も涙も私は覚えなかった。
何でそうなのか理由を考えてみたが、
①絵本ではなく小説の中で縫いぐるみのコアラが喋り、自由に動く事にやはり違和感があった。
②主人公とムッシュの主観が何度も変わるが、主人公主観だけの方が良かった気がする。
③死ぬ前に、やりたい事をいくつか書き上げ実行するが、つまらないものが多い。
④最初から泣かそうという魂胆を隠さずに来るから逆にシラけてしまう。
⑤装丁の絵にもあるように、少年とも青年ともつかない男が、コアラの縫いぐるみを大事そうに
 抱えているのは流石に気色悪い。

この物語は、例えば母親がロボット工学の権威で、母親が生前に作った超高性能コアラ型AIロボットと
青年との友情と別れの話だったら、そこまで違和感や抵抗を感じずに読めたのかもしれないが・・・。
でも、ラストは青年とムッシュの別れが、切なくて、優しくて、美しくて、なかなか良かったのが救い。