さいごのかぎ / Quest for grandmaster key

「TYPE-MOON」「うみねこのなく頃に」その他フィクションの読解です。
まずは記事冒頭の目次などからどうぞ。

ep5初期推理その3・新たな連続殺人者

2009年08月23日 08時32分47秒 | ep5
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


ep5初期推理その3・新たな連続殺人者
 筆者-初出●Townmemory -(2009/08/23(Sun) 08:09:58)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=31448&no=0 (ミラー
 Ep5当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
 EP5を読み終えた、直後の考えを書き付けておくシリーズです。
 ep5初期推理その1
 ep5初期推理その2・ノックス十戒と赤字への疑問

 以下が本文です。


     ☆


●ヱリカ犯人説序説

 ep5を読んで、「今回の殺人犯は古戸ヱリカかな?」という直感がはたらきました。
 なので、まずはヱリカ犯人説で、推理を組んでみようと思います。組んでみて、うまく整合しないようだったら、また別のやつを考えます。

 さて、古戸ヱリカは、「謎に直面したい」「そして探偵したい」「謎を暴いて賞賛を得たい」という人です。そのためには何でもしそうですね。

 彼女は、こんなことを言っています。
「私が旅行に行くと、必ず人が死ぬってお約束がありまして。」

 もちろん、ジョークかもしれません。しかし、ジョークではないとしたら?

 旅行に行くたび、偶然にも、かならず人死にに遭遇する。そんな馬鹿げたことは、確率的にありえません。「探偵小説じゃあるまいし」。

 でも、こうだったらどうでしょう。
「古戸ヱリカは常習的な殺人者である。誰かに疑いがかかるような状況を用意したうえで人を殺す。そして、自分の用意したストーリーを探偵気取りで披露する」
 これなら、旅行に行くたびに必ず人が死に、事件解決率は100パーセントです。

 ep5の幻想大法廷のシーンで、このゲームにおける「真実」というものの扱いが、ある程度、提示されました。
 夏妃が犯人だ、という推理をみんなが認めるならば、べつに夏妃が真犯人でなくても、魔女幻想は打ち破れる。
 たとえ冤罪でも、つじつまさえ合っていれば「真実」ということでオッケー。
「本当に起こったこと」と、違っていても、かまわない。勝利条件を満たしてゲームクリア。ヱリカはベルンカステルの優秀な駒でしたー、となる。

 ヱリカが暴く「真実」は、明らかに「そういう真実」です。
 彼女は、金蔵がすでに死亡しており、最初から書斎にいなかったことを、確信していました。
 金蔵の不在を確信していたにも関わらず、「金蔵が死体を移動させた」という推理を披露し、そのことに対して、疑問も、心のとがめも、一切感じていません。
 彼女の考える「真実」とは、「その場にいる全員が納得する説明」です。
 彼女は、本当のことを知りたい人、なのではなく、
「かっこよく誰かを告発し、そいつが犯人であることを、みんなに認めさせたい」
 という願望の人だと思えます。

 でも、現実的に考えて、その願望が、常に満たされるとは限りません。人間には限界があるのだから、解けない謎なんて当然あるでしょう。でも、彼女は、謎が解けないなんてことを自分に許すとは思えません。探偵気取りで振る舞ったあげく、答えがわからないなんてカッコワルイにもほどがあります。

 謎が存在しなければならない。
 それは必ず解けなければならない。
 その最も簡単な方法は、自分で謎を作る、です。

 郷田と熊沢の部屋に封印をした。事件が起こる前に。
 ゲストハウスのすべての窓に封印をした。事件が起こる前に。
 一晩中、何かが起こらないかどうか聞き耳を立てていた。事件が起こる前に。

 そんな不自然な行動はありえません。事件が起こるとあらかじめ知っているのでない限り。
 それだけの行動をしたあげく、夏妃がゲストハウス2階に上がるのだけはたまたま見逃した?
 そんな説明を真に受けるよりは、「殺人者は古戸ヱリカであり、夏妃に罪を押しつけた」と考えるほうが自然です。


●朱志香説との関連

 わたしはep1~4の殺人者は、例外的な局面を除いて、朱志香だと見ています。
(詳しくはこちらをご覧ください→ ■目次(全記事)■
 朱志香の殺人計画は、当然、ep5でも存在しました。
 が、それを実行する前に、朱志香本人が殺されちゃった。そしてヱリカが、別の思惑に基づいて連続殺人を始めた。そういう感じで見ています。

 ep5で描かれる現象のうち、いくつかは朱志香が起こしたものであり、それ以外はヱリカが起こしたものだと考えています。


●電話の男(ひとりめ)

 電話の男は、どうも2人いるっぽい、という話はすでにしました。 →ep5初期推理その1【EP5ネタバレ注意】

 電話は3回あるのですが、1回め(親族会議前)と2回め(4日深夜、秋のカード)の電話の男は「俺」なのに対し、3回め(5日朝、クローゼットの命令)は「僕」なのです。

 ひっかけの可能性もありますが、ここは、「俺男」「僕男」がいるのだと仮定することにします。

 で、1回めと2回めの電話をかけてきた「俺男」は、朱志香だと見ます。

 そんな電話をかけた理由は、夏妃を脅し、命令を聞かせるため。
 聞かせたい命令とは、「親族会議を中座し、自室にこもり、一切の連絡を絶て」というもの。
 どうしてそんな命令を聞かせたいのか。
 親族会議のメンバーは、基本的に7人。夏妃が中座することで、6人になる。第一の晩の被害者をちょうど6人、一室に集められるから。
 どうして、除外する1名に夏妃が選ばれたのか。
 お母さんだから。お母さんをその手にかけたくないから。


●「秋」カードと逆トリック

 夏妃の部屋にカードを仕込むためには、マスターキーがなければなりません。

 わたしは「朱志香は6本めのマスターキーを持っている」という推理ですから、問題ありません。問題ある方は、源次か紗音から借りたことにするか、嘉音が実在しないことにして、彼の分のキーを朱志香が持ってることにして下さい。

 カードは、タロットカードに酷似したデザインだということでした。それは、オカルトに精通した人物=従来の犯人、を容易に連想させ、整合します。

 カードは、春夏秋冬、4枚用意された。これはOKだと思いますが、それはそれとして、朱志香は、夏妃が「秋」と答えることを知っていたのではないかと考えます。
 もちろん、紗音から聞いたのです。

 わたしはこれは、『四季』シリーズで有名な森博嗣リスペクトの「逆トリック」じゃないかと見ました。前にもちょっと書きました→ep5初期推理その1【EP5ネタバレ注意】

 カードが4枚あるという簡単な謎が解けた人よりも、それが解けなくて、「紗音が怪しい」と思った人のほうが、実は真実に近いところに立っている。

 そんな趣向ではないか、と考えました。ちょっと深読みがすぎるのかもしれませんが、そう思っておくと、個人的に面白くて好きなので、そう思うことにしました。


●ふたりめの「電話の男」

 さて、本来の電話の男(俺男)=朱志香と夏妃との通話を、なんらかの方法で、今回の殺人犯が聞いていたとします。この推理では、ヱリカです。
 朱志香が使っていたボイスチェンジャー(存在を推定)を入手すれば、同じ声が出せます。

 4日深夜の電話を盗み聞きしたヱリカは、夏妃のアリバイをまるまる6時間空白にできることに気づき、それを利用します。
 朱志香は、夏妃を犯行から遠ざけるために工作をしていたのですが、ヱリカはそれをまるっきり悪意で逆用します。

 まず朱志香を殺し、「電話の男」という立場を乗っ取ります。
 翌朝、蔵臼を縛り上げ、ボイスチェンジャーを使って夏妃に電話をかけます。そして、ある特定の時間帯に一時間、クローゼットで隠れん坊をしろと命令します。
 もちろん、夏妃からアリバイを奪い、その時間帯に次の殺人を発生させることで、彼女を犯人に仕立て上げるためです。

 蔵臼を人質に取る、というオプションは、いくつかの理由で、必要でした。
 朱志香は、「19年前の罪を夫と娘にばらすぞ」という脅迫をしていました。
 夫と娘のうち、娘のほう、朱志香が死んでしまっているのですから、この脅迫は効果が半減です。
 だから、よりさしせまった、さらに強力な脅しのタネが必要だったのです。
 もう一つ。夏妃の味方を、出来る限り取り除いておいたほうが良い。
 夏妃が精神的に追い詰められすぎた場合、電話の脅迫を夫に知らせてしまう可能性が高い。蔵臼に知られれば、あとは全員が知るのはすぐのことで、そうなれば夏妃はクローゼットに隠れる必要をなくしますから、第二の晩の工作は失敗です。


 続きます。


 続き→ ep5初期推理その4・第一の晩



■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■


■関連記事
●EP5推理

 【ヱリカ犯人説】Ep5第二の晩以降の展開は?
 『Land of the golden witch』の大ネタって何?
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ep5初期推理その2・ノックス十戒と赤字への疑問

2009年08月22日 06時04分35秒 | ep5
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


ep5初期推理その2・ノックス十戒と赤字への疑問
 筆者-初出●Townmemory -(2009/08/22(Sat) 05:34:49)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=31375&no=0 (ミラー
 Ep5当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
 EP5を読み終えた、直後の考えを書き付けておくシリーズです。
 2回目です。前回→ ep5初期推理その1・俺男と僕男/逆トリック

 以下が本文です。


     ☆


●ベルンカステルの論法の欺瞞について

 ベルンカステルは、戦人の戦い方を評して「アンチファンタジー」だと言います。
 その上で、ファンタジーを殺すにはアンチファンタジーでは駄目だ。ミステリーでなければならない。そのように力強く主張します。
 自信たっぷりに、「ミステリーになれないオマエ、バーカバーカ」くらいの勢いでしたね。
 その勢いに、ラムダデルタが「そうよねー」みたいな形で乗っかるので、一見、その通りなのか? とこちらは思ってしまいます。

 けど、よく考えると変なんです。

「アンチファンタジーでは駄目だ。ミステリーでなければならない」とまでは言いますが、その後に続くべき「なぜなら」を彼女は言わない。
 力強く決めつけはするが、根拠は言わない。
 というか、根拠を言わずに済ませるために、あえて力強く決めつけたように見えるのです。

 ベルンカステルは、「未知の犯人Xや未知の薬物Yはノックス十戒に違反しているから、最初から考慮する必要がない」というようなことを断言します。
 でも、この事件がノックス十戒に準じているかどうかなんて誰にもわからないし、誰も保証していません。
 この発言をちょっと見ると、
「この事件はノックス十条の範囲内で行われている」
 という保証のように読めますが、でもよく考えたら、
「未知の犯人Xや未知の薬物Yはノックス十戒に違反しているから、最初から考慮する必要がない、“と私は見なす”
 という以上のことを、言ってはいません。

(この、“と私は見なす”は、これ以外のさまざまな謎にも通用するキーワードだと思えました。これ以後のエントリにも出てくる予定です)

 ここで彼女が言っているのは、「このゲームをミステリーだと見なし、私はミステリーの手法で解こうと思う」という、個人的な意志だけです。
「この事件がミステリー準拠であり、ミステリーの解法が有効であるという根拠」を、何一つ示していません。何の保証にもなっていません。

 ある殺人者がいたとして、彼もしくは彼女が、ミステリーのお約束を守らねばならない理由がいったいどこに?
 ミステリーのお約束に抵触しないような状況での犯行をあえて選ばねばならない必然性はどこに?

 彼女が言ってるのは、事実上、「現実は、フィクションの約束事に準ずるべきだ」というむちゃくちゃな主張です。

 これは一種のミスリードといって良いのではないかと思えます。
 この後、ミステリーのお約束「ノックス十戒」を文字通り伝家の宝刀として振り回す強力なキャラが出てきます。
 ベルンカステルのアンチファンタジー否定、ミステリー肯定発言があるために、ノックス十戒の有効性を疑いづらい下地が作られた。
 十戒にもとづく赤字が正当なもののように感じられる誘導がなされた。
 そういう感じがします。


●「ノックス十戒」を懐疑する

 まず、似たような例として「ベアトリーチェの密室定義」の話から。

 密室定義は、隠し扉の存在を否定します。その点、十戒に似ています。
 密室定義が宣言されるまでは、「犯人は未知の隠し扉から出入りしたんだ!」という青字推理が可能ですが、宣言以降は、隠し扉を使った推理はすべて無効になります。

 ところが「ノックス十戒」は、不思議なことに、
「この事件(この密室)は“ノックス十戒”に準ずる」
 という宣言が、一切ないにもかかわらず、有効であるかのように扱われます。

 このゲームが、ミステリーの約束に順ずるミステリー作品であるという提示がない。
 にも関わらず当然ノックス十戒が守られているという前提で話が進む。

 大まかに、ふたつ考え方があります。
「そういう前提で話が進んでいるのだから、このゲームはノックス十戒に準じているのだ」
 という考え方と、
「ノックス十戒とは無関係であるにもかかわらず、準じているかのように誤認させようとしている」
 という考え方です。

 わたしは、3:7くらいの確率で、後者が有望と見ます。

 ドラノール・A・ノックス(ロナルドの逆さ読みですね)が振り回す、ノックス十戒系の赤字は、極論すればすべて、
「私(ドラノール)は、この事件をノックス十戒に準じたものだと“個人的に見なす”
私が勝手に準じると見なしたノックス十戒に照らせば、隠し扉はないべきだ」
 というだけの、単なる個人的主張にすぎないと見ることができます。

 だから、ドラノールのノックス十戒系赤字は、
「俺はこの事件をノックス十戒に準じたものとは“見なさない”ッ!」
 と言うだけで、すべて迎撃できるはずです。

 つまり、
 合意が取られていないルールを大声で振りかざして、それが成立しているかのように振る舞っているだけなのではないか。
 例えるなら、アメリカ合衆国に行って、
「銃を持ってはなりませんッ! なぜなら、銃の所持は日本の法律では禁止されていますッ!!」
 と、大声で叫び続けている。そんな状態なのではないのか。


 いくつか具体例を挙げます。金蔵の書斎バトルからです。

「赤:ノックス第3条。秘密の通路の存在を禁ず。」

 ノックス第3条は、秘密の通路の存在を禁じていますから、命題としては真です(だから赤で言えます)。ですが、金蔵の書斎がノックス十戒に即しているかどうかは誰も知りません。
 だからここは、
「青:ノックス第3条は、秘密の通路の存在を禁じているが、そのことと金蔵の書斎とは何の関係もない」
 これでOKだと思うのです。
 単にベアトリーチェが、
「金蔵の書斎に秘密の通路が存在することを禁じられ、それに抵抗することができない」
 と、勝手に思いこんだだけだと思うのです。


「赤:この部屋に、隠し扉が存在することを許しマセン」

 ドラノールは、それを許さないという意志を持ってるのでしょうから、命題としては真です(だから赤で言えます)。
 これに対する答えは、
「青:ドラノールが許すか許さないかは、この書斎の現実とは何の関係もない。ドラノールの許可不許可に関わらず、隠し扉は存在しうる」
 でいいのでは?
「許されない」と力強く言われたから、ベアトリーチェがああ駄目なんだと納得してしまっただけでは?


「赤:繰り返しマス。神の名において、そのような薬も機械も存在させマセン。未来永劫、存在することも許しマセン」

 これも。ドラノールの「存在させないという意志」や「存在を許さないという意志」は、金蔵書斎の物理的現実に影響を与えない。


 例えるなら、こうです。
 明日は大事なデート。でも空は曇り模様だ。わたしはどうしても、雨が降って欲しくない。
 だからこう言います。
「明日、雨が降ることを許しマセン」
 けど、わたしが許すか許さないかに関わらず、雨は降りえます。


 これって、以下のような問いかけだと思うのです。

 偉そうな肩書きを持った、何だか偉そうな人物が、「許しマセン」と言ったら、ああ許されないのだなと納得して受け入れるのか?
 あなたの意志や、あなたの主張や、あなたの願いは、
「偉そうな肩書きを持った、何だか偉そうな人物」が、大きな声で、ダメッと言ったくらいのことで、ひっこめるような程度のものなのか?

 何が「真実」かは、あなたが決めるのではなく、偉そうな人物の大きな声が決めるのか?


 逆に言えば。
 こうなります。
「存在させないという意志」「存在を許さないという意志」をドラノールは主張し、押し通し、認めさせることで、
 彼女は、「金蔵の書斎に隠し扉は存在しない」という「真実」を、作り出してしまったのです。


●赤字懐疑論再び

「赤字というのは、叙述トリックというより、物理的な事実とは真っ向から異なることを言っているかもしれないよ」ということを、わたしはネットの虚空にときどきそっとささやくのですが、ep5では、ずいぶん赤字を疑いやすい環境が揃ってきたな、と感じます。

 どういうことをわたしがふだん言ってるのかを、カンタンに説明しますと、「6本めのマスターキーがある」「ep3の南條は(赤字で否定されてるにも関わらず)朱志香が殺した」「ep1の夏妃は(生存者全員のアリバイを赤字が保証しているにも関わらず)朱志香が殺した」とか、そういうことを悪魔のようにささやいています。

 ミもフタもない言い方をすると、こう。
「“妾が赤で語ることは全て真実”というベアトの主張は、わたしの真実とは何の関係もない」
 もうちょっとふみこんで極論すると、
「“赤字の全てが真実だとは、認めない”という意志を明言し、主張することで、“赤字は必ずしも真実でない”という“真実”を作りだそうとしているのがわたし」
 みたいなことにも、なりますね。後者はあまり、力強くやってはいないんですけど。


 わたしはある時期から、
「赤字にはウソが混じってる」
 という言い方を、やめました。その言い方には愛がないからです。

「赤字には、やさしい嘘が混じってる」
 これならば、わたしはOKです。

 戦人は、
「魔法ってのは、やさしい、嘘、なのか?」
 と尋ねて、ワルギリアはそれを否定しませんでした。


 ベアトリーチェの魔法は、やさしい真実を作るための優しい嘘なんだと、わたしは考えているのです。

 子供を喜ばせ祝福したい。だからプレゼントを枕元に置いて、いないサンタクロースをいるものとして“見なす”
 さくたろうとお話したくてたまらない。だから命を持たないぬいぐるみを、生きてお話ができるものと“見なす”
 金蔵翁の望みに応じてあげたい。だから使用人みんなが、六軒島の夜の主ベアトリーチェが本当にいるのだと“見なす”
 なんとしても夫の危機を救ってあげたい。だから使用人たちと協力して、金蔵翁がまだ生存しているのだと“見なす”

 それが、魔法で。
 魔法とは、愛をもって“見なす”ことで。
 愛がなければ、“見なさない”……見えない。

 そして、
 魔女を存在させるために、不可能現象を存在させるために、6本以上あるマスターキーを、5本しかないと“見なす”。

 これもまた、魔法だと、わたしは考えて良いと思っているのです。
 これを魔法だと“見なす”のならば、
「ベアトリーチェは、魔法で密室を作った」は、命題として真です。

“赤字は必ずしも真実でない”ことを認めてあげることで、逆説的に、この物語を、
「どうしても手に入れたい望みを、“真実”にするために、必死になっている、ひとりの人間の物語」
 と“見なして”あげることができるようになるのです。
 そして、その人物に、「その真実を手に入れる手段」を与えてあげられる。
 わたしは、密室の謎よりも、「望む真実を手に入れる方法」のほうが存在して欲しいと思いました。

     *

 さて、先ほど、
「“妾が赤で語ることは全て真実”というベアトの主張は、わたしの真実とは何の関係もない」
 と言いました。

 わたし(=Townmemory)の真実とは関係ありませんけど、戦人の真実とは大いに関係があります。
 なんでか。
 わたしは、「赤が真実のみを語る」とは認めていませんが、戦人は、認めたからです。
 ep2で、ベアトリーチェが「赤は真実のみを語る」というルールを提案したとき、戦人は、
「ようし乗ったぜ、受けてやるぞそのルールッ!!」
 と言っています。つまりこのルールに合意しています。「赤は真実のみを語る」ことを認め、承認しています

 たとえば、将棋のルールを熟知したベアトと、将棋をまったく知らない戦人が、将棋で対戦するとします。
 ベアトが、「妾は二歩ができるが、そなたは二歩をしてはならない。そういうルールだ」と、ウソっこを教えたとします。
 もし戦人がバカで、「そうなのかー」と納得し受け入れたとしたら、その場では、そのルールが適用され、それでゲームが進みます。ホントのルールがそんなんじゃないとか、そういうことは、この場では意味をなしません。

 それって、以下のようなことと、相似ではないでしょうか。
 ep5の、幻想大法廷にて、
 古戸ヱリカが「自分は一晩中、壁に耳を当てていとこ部屋を監視していた」という真実を「提案」し、
 ベルンカステルが、「午前3時以降、いとこ部屋には不審なことが一切なかった」と赤字で「承認」した。
 そのことによって、それは「真実」として通用するようになった。

 提案され、合意されたことは、真実となる。



 わたしは、
「赤は真実のみを語る」の「真実」とは、その場における合意のことである。
 だから実際の物理的事象と一致しなくてもかまわない。
 という説を提唱しています。これです↓
 http://blog.goo.ne.jp/grandmasterkey/e/d289d6af1b438aabf7c43607825109dc

 そして、
「この物語は、“真実”という概念の正体を問うもの」
 という考え方で、うみねこを読んでいます。ここです↓
 http://blog.goo.ne.jp/grandmasterkey/e/4e3589905dba3c2579c4141e229bce4d


 ep5クライマックスの幻想大法廷のシーンで、
「この物語において、“真実”という言葉が、どういう概念で使われているか」
 が、かなり明らかになったと思うのです。

 あの幻想法廷における「真実」の定義とは、
「否定されなかった主張で、なおかつ、成立した対抗主張がないもの」
 くらいの感じじゃないでしょうか。

 夏妃は犯人ではないのに、夏妃犯人説が「真実」と呼ばれ、真実として通用するようなのです。
 ヱリカは、夏妃犯人説を主張し、細部にわたって検討された結果、否定されませんでした。
 それに対抗する戦人の対抗主張は、否定され、不成立となりました。

 ヱリカの主張は否定されず、対抗主張は不成立となったため、ヱリカの主張は真実であると“見なされ”ることに決まりました。

 ヱリカの主張が「ほんとの真実」であるかどうかは、問われないのです。
(というか、正確には、問う方法なんてない)
 真実とは、常に「我々はこれを真実と“見なす”が」という意味です。
 犯人ではない夏妃を、ヱリカが願望によって「犯人にしてしまう」のも、魔法です。だから彼女は、一時的に魔女の列に参加することを許された。

 ep2での、赤字のことも、これと同じだと思えるんです。

 ベアトリーチェは、「妾が赤にて語ったことは全て真実だ」と、主張しました。
 その主張は、戦人によって否定されませんでした。
 戦人は、「赤字は真実とはいえない」という対抗主張をしませんでした。むしろ「使用人を疑いたくないから、赤字が真実であり、マスターキーが5本までであってほしい」とすら願望したのです。

 これにより、「赤字に虚偽が混じっていたとしても、“赤で語られたことは真実だ”が、真実であると“見なされ”る」ようになった。それは唯一の真実として、通用するようになった。のだと思うのです。


 だから、ポイントは対抗主張なのです。
 ep5幻想大法廷において、オーラスで戦人は、「俺が犯人である」という対抗主張を提示しました。
 これは夏妃犯人説とは真っ向からぶつかるものです。
 戦人は人を殺していませんから、戦人犯人説は物理的な事実ではありません。
 けど、それは問題ではありません。

「戦人犯人説」は、検討された結果、否定されませんでした。つまり成立しました。
 ヱリカの夏妃犯人説も、否定されず成立してはいますが、同レベル以上に成立した戦人犯人説という対抗主張が存在する以上、「真実」の定義を満たしません。
 よって、ヱリカの夏妃犯人説は、真実ではなくなったのです。
(正確には、唯一の真実ではなくなり、採用されなくなった)

 ということは、
「赤で語られたことは必ず真実だ」という主張に対して、「赤で語られたことは必ずしも真実でない」という対抗主張をする者がいたら、それは唯一の真実としては通用しなくなります。
 ep2のあの段階で、戦人がそれをしていたらきっとよかった。
 でも、戦人はそれをしなかった。
 だから、彼の代わりに、遠くから、その対抗主張をしているのが、わたしです。
 そして、なんと、仮に「赤で語られたことが全部ホントにマジで真実だった」としても、そんなことは問題ではないのです。
 マスターキーが本当に5本しかなかったとしても、6本目の存在を真実にしてしまう方法を、わたしは実行しているのです。


 ネット上のいたるところで、何人かの人が、
「赤字を信じられないとしたら、真実を推理することなんてできない。だから信じる」
 というスタンスを表明しているのを見ます。

 でも、「真実」が、上で述べたような性質のものだとしたら、どうでしょう。


 戦人は、幻想法廷で、いみじくもこうつぶやいています。

「本当の真実なんて、存在するのか…? そしてそれは、必要なものなのか……?」


 前に書いたことを、もう一度。
 何が「真実」かは、あなたが決めるのではなく、ドラノールとかいう偉そうな人物の大きな声が決めるのか?

 真実は、あなたが決めるのではなく、ドレスの女の赤い文字が決めるのか?
 真実は、妾が決めるのではなく、冗談みたいな髪型をした赤いシャツの男が決めるのか?
 真実は、探偵気取りの女の子が決めるのか?
 真実は、裁判官気取りのピンクの魔女が決めるのか?

 つじつまの合ういくつもの真実の中から、あなたは何を選びたいか。

 それが問われており、それがこのゲームの「推理」だというふうに、わたしは理解しています。


 さて、ここまでの大量の赤字論議を、なんでわざわざ書き付けたかと言いますと、

 次以降のエントリで、「古戸ヱリカは犯人ではない」という赤字をガン無視して、「古戸ヱリカ犯人説」を検討していきたいからです。


 続きます。


 続き→ ep5初期推理その3・新たな連続殺人者
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ep5初期推理その1・俺男と僕男/逆トリック

2009年08月21日 07時38分19秒 | ep5
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


ep5初期推理その1・俺男と僕男/逆トリック
 筆者-初出●Townmemory -(2009/08/21(Fri) 07:22:13)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=31322&no=0 (ミラー
 Ep5当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
 EP5を読み終わりました。読んで思いついたことを羅列します。

 以下が本文です。


     ☆


 いくつか推理に微調整の必要が生じました。
 たとえば、戦人は下位世界に2人いなくても別によさそうだなー、といったこと。檳榔=台湾=台湾説を単独で再検討の必要あり、といったようなこと。
 ただ、大筋の推理(朱志香犯人説・赤字懐疑論・「神々のお人形遊び」世界観)を捨てる必要は、なさそうだなという印象です。

 ep5は、かなりの部分が「Land of the golden witch」なのではないかな、という印象も持ちました。たとえば、「探偵役の彼女がいないep5」というのを想像したとき、もしそれがep3として公開されたら、かなりのユーザーが「真犯人は夏妃」でファイナルアンサーしてしまいそうだ、というような感じがしたのです。

 読みおえたばかりなので、細かい検討はしていないのですが、「ep5は古戸ヱリカが全ての犯人」、これで基本的に押して行けそうかな? 手触りとしては、そういう感じです。

 以下、些細な思いつきの羅列。


●愛のないゲーム

 ロノウェが、ラムダデルタのゲームを評して「愛がない」と言います。
 仮に、ベアトリーチェ=朱志香という説を採るとして、
 もし朱志香がゲームマスターであったとしたら、「両親が金策に困って首が回らない」とか「それが原因で醜い言い合いをしたり侮蔑の感情を持ったりする」というような描写を、彼女は絶対に、ゲームには入れない(と思える)。
 ラムダデルタは、べつに蔵臼や夏妃に対する愛なんてミジンもないから、こういう描写が平然とできる。

 そういう意味にも取れるなー、愛がないなー、と思って読み進めたところ、もっとひどい探偵が出てきてビックリでした。


●金蔵は去年の親族会議以前に死んだ「のではない」可能性

 ep5は、1年以上前に、金蔵が大往生するところから始まります。
 が、金蔵の大往生は真実なのか?
 ぶっちゃけ、このあたりの描写(金蔵の死を、1年以上に渡って夏妃たちが伏せる)は、まるごと幻想描写ではないのか? という疑問を持ちました。
 もしくは、「このタイミングで金蔵が死ぬのは、ep5限定のイベントである」可能性。

 全エピソードで、1年以上前に金蔵が死亡しているのだとしたら、ボイラー室で焼けて発見される金蔵の死体は、白骨化していないとおかしいです。

 もちろん、冷凍しておけばかまわないのですが、その場合、
・人ひとりが入れる巨大冷蔵庫を秘密裏に購入、搬入し、
・限られた使用人以外には決して知られないようにそれを設置し、
・それを1年以上にわたって悟られないようにしつづけなければならない。


 何より、蔵臼と夏妃には、金蔵の死体を冷凍しなければならない理由がない。

 もうひとつ。蔵臼と夏妃はなぜか、「当主の指輪」をまったく、気に留めていない。これに違和感があります。
 4日午前0時の鐘とともに現れたベアトリーチェの手紙に、当主の指輪が入っていましたが、これを仕込んだのは蔵臼たちとは思えません。彼らは、どうしても戦人の跡継ぎ継承を認めるわけにはいかない立場だったからです。

 さらに補足として、金蔵の死亡を打ち明けられている使用人の中に、「紗音」と「嘉音」がいる。そのことにも違和感があるのです。
 これまでのエピソードの描写では、夏妃は、この2人は信頼に値しないと考えていたのではないでしょうか。夏妃は、この2人を人選しないような気がするのです。

 以上のことから、
「ep5のタイミングで金蔵が大往生し、夏妃たちがそれを長期間にわたって隠蔽しようとする展開は、まるごと幻想描写である」
 あるいは、
「このタイミングで金蔵が死ぬのは、ep5限定のイベントである」
 という可能性を、頭の隅に入れておきたいと思います。
(まだ、断定はしません)


●電話の男が2名以上いる可能性

 夏妃を脅迫する電話の男ですが、4日深夜の電話までは、彼の一人称は「俺」です。
 しかし、翌朝にかけてきた電話は「僕」になっています。

 素直に考えれば、4日までの男と、5日の男は、別人です。
(そう考える場合、内訳に関する推理もあるのですが、これは別記事で)

 ただ、ひっかかるのは、こんなわかりやすい別人サインは、逆にひっかけじゃないのかということ。
 ひとりの男性が、気分や状況によって、自分のことを「俺」といったり「僕」といったりするのは、ごく普通に見られることです。

 ついでですが、4日深夜までの電話の男は、少なくとも戦人ではない。と見ます。
 根拠は「カアサン」という呼び方。
 戦人は、明日夢のことは「お袋」と呼び、母とはどうも認めづらいが母的存在(霧江)のことは「カーチャン」と呼びます。

 ただ、これも、意識的に言い方を変えるだけで良いので、難しいところです。


●「秋」のカードは「逆トリック」の可能性

 夏妃の部屋に隠されていた「秋」のカードは、春夏秋冬4枚のカードを、部屋のあちこちに隠しておけば良い。これはOKですよね。この手が使われたと思います。

 ところで、森博嗣さんのとあるミステリに「逆トリック」というのが仕込まれた作品があります。
 目に見えるメイントリックが簡単で、誰にでも看破できるのですが、それが解けた人は逆に、より大きな謎が見えなくなってしまう。背後にある「神のトリック」が解けなくなってしまう。そんなような仕掛けです。
(ほんとは大分違うのですが、だいたいそんな意味でとっておいて下さい)

 たとえば、「カードが4枚ある」というトリックに気づけた人は、「好きな季節が秋だと知っているのは紗音だけ」という情報を、ミスリードだろうと判断する可能性が高いです。
 ところが、「紗音だけ」が本命だった……。
 というような仕掛けは、竜騎士さんが好みそうなひっかけです。

 ちなみに、森博嗣さんには「四季 春」「四季 夏」「四季 秋」「四季 冬」という四部作もありますね。


 長くなりましたので、続きます。


 続き→ ep5初期推理その2・ノックス十戒と赤字への疑問



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