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チェックメイト――黄金郷再び・金蔵翁の黄金郷
筆者-初出●Townmemory -(2009/05/24(Sun) 21:17:42)
http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=25644&no=0 (ミラー)
[Ep4当時に執筆されました]
●再掲にあたっての筆者注
本文中の目次を削除しました。
ここに書いてあることを思いついた瞬間、「『うみねこをなく頃に』で意図されていることは全部見た」と思いました(が、そのあといくつでも未解決の謎を見つけてしまいました)。
作者さんが描く真相がこれでなくても良いです。むしろこれではないのであってほしい。どちらにせよ、これが、私のたどり着いた黄金郷です。
なお、この記事は「駒の動き」シリーズの最終回です。シリーズを上から順に読むことをお薦めします。
駒の動きその1・南條(大爆発説)
駒の動きその2・戦人、真里亞、嘉音
ルールXYZを指さそう
駒の動きその3・銃(とわたしはだあれ)
駒の動きその4・盤面(I)
駒の動きその5・盤面(II)
駒の動きその6・盤面(III)
以下が本文です。
☆
金蔵翁にとって、黄金郷ってなんなんだ、ということについて考えたいと思います。
そもそも、「黄金郷」という言葉を最初に持ち出したのは、誰だったのか。
それは金蔵翁です。
肖像画の下に、意味ありげな碑文をかかげた。その中に、「黄金郷」という言葉が入ってた。それがすべてのはじまりだったのです。
それを見た一族が、
「これはきっと黄金のありかを記した暗号だ。謎を解いたら、黄金をくれてやるという意味だ」
そう思い込んだのが、事件と、もめごとの始まりだったわけです。
でも、なんで、金蔵翁は、そんな碑文を公開したんでしょうか。
彼の人物描写を正しいとするなら、彼は、遺産の配分でもめてばかりいる自分の息子と娘を、嫌いきっていました。ハゲタカとか、ハイエナとまでいっていた。
そんな子供らに、黄金をくれてやりたいでしょうか。「誰にも継がせぬ。全額ユニセフに寄付する!」くらいの行動のほうが、自然じゃないでしょうか。
ちょっとしたクイズに正解する程度にはチエのまわる息子もしくは娘が、たったそれだけの理由で、黄金を手に入れて、金塊に抱きついて、ワーイワーイと図に乗る。そんな光景って、シャクじゃないですか?
そもそも、謎を解いたら後継者になれるっていう条件は、ほんとなの?
黄金10トンがあるという噂は、ほんとうなの?
*
私は……たぶん、それはほんとだったんだろう、と考えています。
そして、ある日、碑文の謎を解く者が現れた。
その人物は、判明した方法に従って、地下通路を通った。
そして、九羽鳥庵にたどりついた。
それが、今回の連続殺人事件の犯人です。
私は、それは朱志香だと考えていますが、べつに朱志香でなくてもかまいません。もう誰にも確かめられないわけですから、誰でも良いのです。
だから、これ以降、「朱志香」とか「犯人」とか書いてあったら、あなたが思う真犯人の名前を、そこに当てはめて読んでください。
さて、九羽鳥庵にたどりついた犯人(朱志香、任意の誰か)は、何を見つけるのでしょうか。
九羽鳥庵とは、金蔵にとって、どういう場所だったでしょうか。
九羽鳥庵とは、金蔵が、愛するベアトリーチェを住まわせていた、大切な大切な場所です。
九羽鳥庵には、たぶん本当に黄金があったでしょう。
でも、黄金以外に何があったかが大事なんじゃないでしょうか。
たぶん、「黄金見つけた、嬉しい、やったー」という態度の者に、金蔵は継承を許さなかったような気がするんです。
愛がなければ視えない。
愛がなければ、そこにたどり着いても、黄金しか視えない。
そこにあるのは、きっと、金蔵翁が、ベアトリーチェのことを本当に愛していた、そのことを証明する数々のものです。
だから、金蔵翁は碑文を公開したのではないか。
黄金にたどり着いてみろ、なんていう意味じゃなかった。
私の本心にたどり着いてみろ、そういう意味だった。
言い換えるなら。
私の気持ちをわかって欲しい。誰かに理解してもらいたい……。
真里亞がそれを「い」る、と認める。
ベアトリーチェがそれを「い」る、と認める。
すると、他の誰にも視えなくても、「さくたろう」は確かに存在する。
「さくたろう」が存在できる場所を、黄金郷と呼ぶ。
譲治が紗音に「愛してる」と言い、紗音がそれを認める。
紗音が譲治に「愛してる」と言い、譲治がそれを認める。
このとき、視えもせず、さわれもしない「愛」というものが、たしかに存在する。
「愛」が存在できる場所を、黄金郷と呼ぶ。
真里亞はさくたろうが大好きだ。
さくたろうも真里亞が大好きだ。
でも、さくたろうは、死んでしまいました。
黄金郷は、壊れてしまいました。
金蔵翁が愛してやまなかったベアトリーチェは死んでしまいました。
黄金郷は壊れてしまいました。
九羽鳥庵にあるのは、黄金郷の残骸です。
でも、残骸があるということは、証拠があるということ。そこに愛があったということを証明できるということ。
金蔵翁は理解されたかったのだと思うのです。
自分の愛を。
そして愛するものを失うことの悲しみを。
共感されたかったんだと思うのです。
気づいて欲しかった。共感されたかった。だから碑文を公開した。
金蔵翁は、子供たちが遺産争いをしているから怒ったんじゃなく。
そんなことをしている子供たちの「愛のなさ」に憤り、悲しんでいた。
自分はベアトリーチェを亡くして、こんなにも悲しい。
自分が死んだとき、こんなにも悲しんでくれる者はいはしないだろう。
それが悲しい。
黄金郷をよみがえらせねばならない。
金があるところが黄金郷なんじゃない。
愛のあるところが黄金郷なんだ。
だから。
その愛に気づいてくれた者は、私の愛の後継者だ。
右代宮家の者でなくたってかまわない。
気づいてくれさえすれば、私の全てを継がせよう。
それは最初から、全部碑文に書いてあったのかもしれない。
黄金郷にたどり着いた者は……。
そこに黄金を見つけるだろう。
そして、愛の証をそこに見出すだろう。
愛を悟った者は、失われて久しかった、「家族の愛」をよみがえらせるだろう。
かくして魔女金蔵は(男性であってもWitchです)安心して死ぬことができる。永遠に眠りにつくだろう。
*
朱志香は……犯人はきっと、黄金以外のものを、「視る」ことができました。
たぶん、すべてを悟って、金蔵翁に言ったでしょう。あなたの愛を、あなたの悲しみを理解しました。そんなようなことを。
金蔵翁は、そうか、わかってくれたか、ありがとう、そんな返事をしたかもしれません。
お互いに理解しあったと認める。そこには、見えもせず、触れることもできないが「絆」というものがたしかに存在するといえる。
それもひとつの黄金郷。「絆」が存在するとは誰にも証明できないけれど、それでもたしかにあるといえることが黄金郷。
犯人は、金蔵翁の後継者となりました。
金蔵翁の意思をうけつぎました。
金蔵翁の望みとは、失われた愛をよみがえらせること。
そのために尽力してほしい、というのが、金蔵翁が、後継者に期待することでした。
ところが。
後継者は魔女だったのです。
*
ここで。
前に残しておいた、ひとつの疑問について考えましょう。
「駒の動きその5・盤面(III)」
ep3で、儀式外の14人めの被害者として、「譲治」が殺されます。
儀式の犠牲者となるのは、13人。
14人め以降は、イレギュラーな事情で殺さなければならなかったのだと推定されます。
犯人は、「譲治」を、どうしても殺さなければならなかった。
その理由とは何か。
それは、殺される前に譲治がしみじみと語ったことを、犯人が聞いたから。
譲治は言っていました。
紗音を失って、本当に本当に悲しいと。金蔵が愛する者を失って、それをどうしても甦らせたい一心で、オカルトに没入してしまった気持ちが理解できると。自分だってそうしたい、紗音を生き返らせるために、全人生を投げ打ってオカルトの研究をしたいくらいだと。
そうなんです。譲治もまた、愛を知る者、悲しみを知る者、共感を知る者だったんです。
今回の連続殺人事件は、「おまえは愛を知る者か? 知らざる者か?」「知らざる者は知るがいい」というメッセージのものなんです。
譲治は知る者でした。
犯人は彼を高く評価しました。共感すらしました。
だから殺しました。
譲治は、「一生を投げ打ってでも、もういちど紗音に会いたい」と言いました。
だから、犯人は、会わせてあげることにしました。
金蔵翁を殺した理由も、たぶん同じなんです。
死んでしまった愛する人を生き返らせる方法を、犯人は知っていました。
それは、死ぬことだけなんです。
どうして、死んでしまった人間は、「死んでしまって」いるのでしょうか。
殺されたから? 事故が起こったから?
ちがいます。
「あの人はもう死んでしまっている」と「観測」する「自分」がいるからです。
シュレディンガーの猫箱。
どうして猫は死んでしまうのでしょうか。
それは箱を開けて「観測」してしまったからです。
開ける前は、「生きている」と「死んでいる」が両立してたのに、開けたから、死んじゃった。
じゃあ、猫を殺さないためには、箱を開けなければいい。
でも、もっと確実な方法があります。
絶対に「観測」できなくなればいい。
「観測」する「私」が、いなくなればいい。
譲治が存在しなくなることで、「紗音はもう生きていない」という証拠は、譲治にとっては、存在しなくなります。
「生きていない」という証拠がないかぎり、「生きている」と「死んでいる」が両立する。
両立するなら、願えばいい。「生きている」ほうを取ればいい。
ほら、紗音は生き返りました。
金蔵が存在しなくなることで、「ベアトリーチェはもういない」と観測する「主体」はもういません。
観測不能だから、生きてる可能性がある。生きててほしいなら、生きてる方を取ればいい。こうして、ベアトリーチェは、よみがえりました。
自分を愛してくれるお母さんが欲しい。
そのための方法は、死ぬことだけなんです。
自分が存在しなくなることで、「お母さんが私を愛していない」という証拠が消滅するから。「愛されてない」と観測する者がいなくなるから。
証拠がなければ、そこには無限の可能性。
無限のなかから、好きなものを取れば良い。
これが、魔女ベアトリーチェの「黄金郷」です。
六軒島で死んだ者は、実は死んだのではなく、黄金郷に招かれました。
黄金郷ではすべての願いがかないます。
譲治は紗音と再会し、
金蔵はベアトリーチェと再会し、
真里亞は自分を愛してくれるお母さんを手に入れ。
そして犯人は。
「信じあい、頼りあい、遺産などで争ったりしない、愛のある親族」
を手に入れます。
それが、犯人の考える、「失われた愛をよみがえらせる」だったのです。
どうして犯人は、六軒島の全員を殺そうとしていたのか。
これが、その動機です。
*
どうして、譲治と紗音がねむる客間に、謎の数字「07151129」が書かれていたのか。
「07151129」は、億単位の資産をおさめた貸し金庫の暗証番号でした。
つまり「小さな黄金郷」の鍵でした。
譲治と紗音は、再び出会い、永遠に愛し合うことができるようになりました。
それも、やはり、ひとつの小さな黄金郷です。
だから、その扉には、「黄金郷の鍵」がささっているべきなんです。
そのことで、
「ここは彼と彼女の黄金郷」
というしるしになっているのです。
愛がなければ、死は、死でしかない。
けれど、愛があれば、死は、すべての望みを手に入れる手段になります。
犯人は、「信じあい、頼りあい、遺産などで争ったりしない、愛のある親族」を手に入れたいのだと、さきほど考えました。
そのためには、「親族が争いあっている」と「観測」する「自分」が、いなくならなければなりません。
つまり、この儀式で、犯人は必ず死にます。
自ら死にます。
無粋なことばを使えば、無理心中ということになります。
これは、自分を殺すための儀式なんです。
でも、儀式が止まる条件、がありましたよね。
碑文の謎を解けば、殺人は中止される、と、犯人は明言しています。
碑文の謎を解けば、九羽鳥庵に至ります。
でも、至っただけではだめです。絵羽が至っても、だめでした。
九羽鳥庵に至り、「愛」について悟れ。金蔵が何を言いたかったのか、気づけ。
そういうメッセージなんだと思うのです。
もし、それに気づく者が現れたら、それは、犯人は、「愛を知る家族、愛を知る親族」を手に入れたということ。「愛をよみがえらせた」ということ。
それは黄金郷がよみがえったということです。
黄金郷をよみがえらせることが、儀式の目的なのだから、黄金郷がよみがえれば、儀式は必要なくなる。
だから、儀式は中断されるんじゃないでしょうか。
愛し合わない親族を殺す。
愛してくれない両親を殺す。
そして自分を殺す。
そうだ、そこで気づきました。
これまで私は、「戦人の罪」とは、朱志香の存在を否定してきたことだ、と考えてきました。
それは、それでひとつの解として、成立するようにも思います。
でも、「愛」というキーワードを軸にして考えるのなら。
戦人の罪は、父を愛さなかったことじゃないでしょうか。
再婚に関して、留弗夫にも、いろんな事情があったでしょう。やむにやまれぬ状況もあったにちがいない。
そういうことを、理解しようとしなかった。共感しようとしなかった。わかろうとする努力をしなかった。
愛がなかった。
右代宮の名を捨てた、つまり、右代宮の親族を愛すことをやめた。
愛がなかった。
右代宮の名を捨てたことで、戦人という子供は、右代宮から「失われてしまった」。
戦人を愛する者はたくさんいたのに、戦人は、愛しいものを失う誰かの気持ちをおもんばからなかった。
それは、罪です。愛しいものを失う気持ちが理解できないのは罪です。たぶん。
*
最後に、ボトルメールの話をしたいと思います。
ボトルメールの最後に、こう書いてあります。
「これを読んだあなた。どうか真相を暴いてください」
「それだけが私の望みです」
どうして暴いてほしいのでしょう。
これを書いたのは、たぶん犯人なんです。
犯人は、「誰にも真相がわからないようにするために」島の人間を全滅させたのです。
全滅させることで、観測者がいなくなり、そこで起こったことの解釈が無限になるのです。
「永遠に愛し合う譲治と紗音」も、「母に愛される真里亞」も、「愛にあふれた親族」も、すべてその「無限」から発生する可能性なのに。
暴かれてしまったら、それらの可能性は消えてなくなってしまうんですよね?
それは、多分こういうことじゃないでしょうか。
金蔵翁は自分のことをわかってほしかった。
犯人も、自分のことを、わかってほしかったんだと思うんです。
誰にもわからないようにしているけれど、やっぱりわかってほしいんだよ。
わかってほしくない人間なんていないんです。
私はわかった。
と、思う。
黄金郷に誰かがたどり着いたとき、魔女は永遠に眠りにつくそうです。
お休みなさい。
あなたの夢が、幸いでありますように。
チェックメイト。
*
いかん、あまりにセンチメンタルなことを書いてしまった。
少し恥ずかしい。
恥ずかしいので、照れ隠しに、全ての密室ミステリーのドアを開錠してしまう「魔法の呪文」を唱えて、終わりにしたいと思います。
「犯人は作者。作者がそういうふうに書いた」
■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■
■関連記事
●盤面解析
駒の動きその1・南條(大爆発説)
駒の動きその2・戦人、真里亞、嘉音
ルールXYZを指さそう
駒の動きその3・銃(とわたしはだあれ)
駒の動きその4・盤面(I)
駒の動きその5・盤面(II)
駒の動きその6・盤面(III)
チェックメイト――黄金郷再び・金蔵翁の黄金郷
チェックメイト――黄金郷再び・金蔵翁の黄金郷
筆者-初出●Townmemory -(2009/05/24(Sun) 21:17:42)
http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=25644&no=0 (ミラー)
[Ep4当時に執筆されました]
●再掲にあたっての筆者注
本文中の目次を削除しました。
ここに書いてあることを思いついた瞬間、「『うみねこをなく頃に』で意図されていることは全部見た」と思いました(が、そのあといくつでも未解決の謎を見つけてしまいました)。
作者さんが描く真相がこれでなくても良いです。むしろこれではないのであってほしい。どちらにせよ、これが、私のたどり着いた黄金郷です。
なお、この記事は「駒の動き」シリーズの最終回です。シリーズを上から順に読むことをお薦めします。
駒の動きその1・南條(大爆発説)
駒の動きその2・戦人、真里亞、嘉音
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駒の動きその3・銃(とわたしはだあれ)
駒の動きその4・盤面(I)
駒の動きその5・盤面(II)
駒の動きその6・盤面(III)
以下が本文です。
☆
金蔵翁にとって、黄金郷ってなんなんだ、ということについて考えたいと思います。
そもそも、「黄金郷」という言葉を最初に持ち出したのは、誰だったのか。
それは金蔵翁です。
肖像画の下に、意味ありげな碑文をかかげた。その中に、「黄金郷」という言葉が入ってた。それがすべてのはじまりだったのです。
それを見た一族が、
「これはきっと黄金のありかを記した暗号だ。謎を解いたら、黄金をくれてやるという意味だ」
そう思い込んだのが、事件と、もめごとの始まりだったわけです。
でも、なんで、金蔵翁は、そんな碑文を公開したんでしょうか。
彼の人物描写を正しいとするなら、彼は、遺産の配分でもめてばかりいる自分の息子と娘を、嫌いきっていました。ハゲタカとか、ハイエナとまでいっていた。
そんな子供らに、黄金をくれてやりたいでしょうか。「誰にも継がせぬ。全額ユニセフに寄付する!」くらいの行動のほうが、自然じゃないでしょうか。
ちょっとしたクイズに正解する程度にはチエのまわる息子もしくは娘が、たったそれだけの理由で、黄金を手に入れて、金塊に抱きついて、ワーイワーイと図に乗る。そんな光景って、シャクじゃないですか?
そもそも、謎を解いたら後継者になれるっていう条件は、ほんとなの?
黄金10トンがあるという噂は、ほんとうなの?
*
私は……たぶん、それはほんとだったんだろう、と考えています。
そして、ある日、碑文の謎を解く者が現れた。
その人物は、判明した方法に従って、地下通路を通った。
そして、九羽鳥庵にたどりついた。
それが、今回の連続殺人事件の犯人です。
私は、それは朱志香だと考えていますが、べつに朱志香でなくてもかまいません。もう誰にも確かめられないわけですから、誰でも良いのです。
だから、これ以降、「朱志香」とか「犯人」とか書いてあったら、あなたが思う真犯人の名前を、そこに当てはめて読んでください。
さて、九羽鳥庵にたどりついた犯人(朱志香、任意の誰か)は、何を見つけるのでしょうか。
九羽鳥庵とは、金蔵にとって、どういう場所だったでしょうか。
九羽鳥庵とは、金蔵が、愛するベアトリーチェを住まわせていた、大切な大切な場所です。
九羽鳥庵には、たぶん本当に黄金があったでしょう。
でも、黄金以外に何があったかが大事なんじゃないでしょうか。
たぶん、「黄金見つけた、嬉しい、やったー」という態度の者に、金蔵は継承を許さなかったような気がするんです。
愛がなければ視えない。
愛がなければ、そこにたどり着いても、黄金しか視えない。
そこにあるのは、きっと、金蔵翁が、ベアトリーチェのことを本当に愛していた、そのことを証明する数々のものです。
だから、金蔵翁は碑文を公開したのではないか。
黄金にたどり着いてみろ、なんていう意味じゃなかった。
私の本心にたどり着いてみろ、そういう意味だった。
言い換えるなら。
私の気持ちをわかって欲しい。誰かに理解してもらいたい……。
真里亞がそれを「い」る、と認める。
ベアトリーチェがそれを「い」る、と認める。
すると、他の誰にも視えなくても、「さくたろう」は確かに存在する。
「さくたろう」が存在できる場所を、黄金郷と呼ぶ。
譲治が紗音に「愛してる」と言い、紗音がそれを認める。
紗音が譲治に「愛してる」と言い、譲治がそれを認める。
このとき、視えもせず、さわれもしない「愛」というものが、たしかに存在する。
「愛」が存在できる場所を、黄金郷と呼ぶ。
真里亞はさくたろうが大好きだ。
さくたろうも真里亞が大好きだ。
でも、さくたろうは、死んでしまいました。
黄金郷は、壊れてしまいました。
金蔵翁が愛してやまなかったベアトリーチェは死んでしまいました。
黄金郷は壊れてしまいました。
九羽鳥庵にあるのは、黄金郷の残骸です。
でも、残骸があるということは、証拠があるということ。そこに愛があったということを証明できるということ。
金蔵翁は理解されたかったのだと思うのです。
自分の愛を。
そして愛するものを失うことの悲しみを。
共感されたかったんだと思うのです。
気づいて欲しかった。共感されたかった。だから碑文を公開した。
金蔵翁は、子供たちが遺産争いをしているから怒ったんじゃなく。
そんなことをしている子供たちの「愛のなさ」に憤り、悲しんでいた。
自分はベアトリーチェを亡くして、こんなにも悲しい。
自分が死んだとき、こんなにも悲しんでくれる者はいはしないだろう。
それが悲しい。
黄金郷をよみがえらせねばならない。
金があるところが黄金郷なんじゃない。
愛のあるところが黄金郷なんだ。
だから。
その愛に気づいてくれた者は、私の愛の後継者だ。
右代宮家の者でなくたってかまわない。
気づいてくれさえすれば、私の全てを継がせよう。
それは最初から、全部碑文に書いてあったのかもしれない。
黄金郷にたどり着いた者は……。
そこに黄金を見つけるだろう。
そして、愛の証をそこに見出すだろう。
愛を悟った者は、失われて久しかった、「家族の愛」をよみがえらせるだろう。
かくして魔女金蔵は(男性であってもWitchです)安心して死ぬことができる。永遠に眠りにつくだろう。
*
朱志香は……犯人はきっと、黄金以外のものを、「視る」ことができました。
たぶん、すべてを悟って、金蔵翁に言ったでしょう。あなたの愛を、あなたの悲しみを理解しました。そんなようなことを。
金蔵翁は、そうか、わかってくれたか、ありがとう、そんな返事をしたかもしれません。
お互いに理解しあったと認める。そこには、見えもせず、触れることもできないが「絆」というものがたしかに存在するといえる。
それもひとつの黄金郷。「絆」が存在するとは誰にも証明できないけれど、それでもたしかにあるといえることが黄金郷。
犯人は、金蔵翁の後継者となりました。
金蔵翁の意思をうけつぎました。
金蔵翁の望みとは、失われた愛をよみがえらせること。
そのために尽力してほしい、というのが、金蔵翁が、後継者に期待することでした。
ところが。
後継者は魔女だったのです。
*
ここで。
前に残しておいた、ひとつの疑問について考えましょう。
「駒の動きその5・盤面(III)」
ep3で、儀式外の14人めの被害者として、「譲治」が殺されます。
儀式の犠牲者となるのは、13人。
14人め以降は、イレギュラーな事情で殺さなければならなかったのだと推定されます。
犯人は、「譲治」を、どうしても殺さなければならなかった。
その理由とは何か。
それは、殺される前に譲治がしみじみと語ったことを、犯人が聞いたから。
譲治は言っていました。
紗音を失って、本当に本当に悲しいと。金蔵が愛する者を失って、それをどうしても甦らせたい一心で、オカルトに没入してしまった気持ちが理解できると。自分だってそうしたい、紗音を生き返らせるために、全人生を投げ打ってオカルトの研究をしたいくらいだと。
そうなんです。譲治もまた、愛を知る者、悲しみを知る者、共感を知る者だったんです。
今回の連続殺人事件は、「おまえは愛を知る者か? 知らざる者か?」「知らざる者は知るがいい」というメッセージのものなんです。
譲治は知る者でした。
犯人は彼を高く評価しました。共感すらしました。
だから殺しました。
譲治は、「一生を投げ打ってでも、もういちど紗音に会いたい」と言いました。
だから、犯人は、会わせてあげることにしました。
金蔵翁を殺した理由も、たぶん同じなんです。
死んでしまった愛する人を生き返らせる方法を、犯人は知っていました。
それは、死ぬことだけなんです。
どうして、死んでしまった人間は、「死んでしまって」いるのでしょうか。
殺されたから? 事故が起こったから?
ちがいます。
「あの人はもう死んでしまっている」と「観測」する「自分」がいるからです。
シュレディンガーの猫箱。
どうして猫は死んでしまうのでしょうか。
それは箱を開けて「観測」してしまったからです。
開ける前は、「生きている」と「死んでいる」が両立してたのに、開けたから、死んじゃった。
じゃあ、猫を殺さないためには、箱を開けなければいい。
でも、もっと確実な方法があります。
絶対に「観測」できなくなればいい。
「観測」する「私」が、いなくなればいい。
譲治が存在しなくなることで、「紗音はもう生きていない」という証拠は、譲治にとっては、存在しなくなります。
「生きていない」という証拠がないかぎり、「生きている」と「死んでいる」が両立する。
両立するなら、願えばいい。「生きている」ほうを取ればいい。
ほら、紗音は生き返りました。
金蔵が存在しなくなることで、「ベアトリーチェはもういない」と観測する「主体」はもういません。
観測不能だから、生きてる可能性がある。生きててほしいなら、生きてる方を取ればいい。こうして、ベアトリーチェは、よみがえりました。
自分を愛してくれるお母さんが欲しい。
そのための方法は、死ぬことだけなんです。
自分が存在しなくなることで、「お母さんが私を愛していない」という証拠が消滅するから。「愛されてない」と観測する者がいなくなるから。
証拠がなければ、そこには無限の可能性。
無限のなかから、好きなものを取れば良い。
これが、魔女ベアトリーチェの「黄金郷」です。
六軒島で死んだ者は、実は死んだのではなく、黄金郷に招かれました。
黄金郷ではすべての願いがかないます。
譲治は紗音と再会し、
金蔵はベアトリーチェと再会し、
真里亞は自分を愛してくれるお母さんを手に入れ。
そして犯人は。
「信じあい、頼りあい、遺産などで争ったりしない、愛のある親族」
を手に入れます。
それが、犯人の考える、「失われた愛をよみがえらせる」だったのです。
どうして犯人は、六軒島の全員を殺そうとしていたのか。
これが、その動機です。
*
どうして、譲治と紗音がねむる客間に、謎の数字「07151129」が書かれていたのか。
「07151129」は、億単位の資産をおさめた貸し金庫の暗証番号でした。
つまり「小さな黄金郷」の鍵でした。
譲治と紗音は、再び出会い、永遠に愛し合うことができるようになりました。
それも、やはり、ひとつの小さな黄金郷です。
だから、その扉には、「黄金郷の鍵」がささっているべきなんです。
そのことで、
「ここは彼と彼女の黄金郷」
というしるしになっているのです。
愛がなければ、死は、死でしかない。
けれど、愛があれば、死は、すべての望みを手に入れる手段になります。
犯人は、「信じあい、頼りあい、遺産などで争ったりしない、愛のある親族」を手に入れたいのだと、さきほど考えました。
そのためには、「親族が争いあっている」と「観測」する「自分」が、いなくならなければなりません。
つまり、この儀式で、犯人は必ず死にます。
自ら死にます。
無粋なことばを使えば、無理心中ということになります。
これは、自分を殺すための儀式なんです。
でも、儀式が止まる条件、がありましたよね。
碑文の謎を解けば、殺人は中止される、と、犯人は明言しています。
碑文の謎を解けば、九羽鳥庵に至ります。
でも、至っただけではだめです。絵羽が至っても、だめでした。
九羽鳥庵に至り、「愛」について悟れ。金蔵が何を言いたかったのか、気づけ。
そういうメッセージなんだと思うのです。
もし、それに気づく者が現れたら、それは、犯人は、「愛を知る家族、愛を知る親族」を手に入れたということ。「愛をよみがえらせた」ということ。
それは黄金郷がよみがえったということです。
黄金郷をよみがえらせることが、儀式の目的なのだから、黄金郷がよみがえれば、儀式は必要なくなる。
だから、儀式は中断されるんじゃないでしょうか。
愛し合わない親族を殺す。
愛してくれない両親を殺す。
そして自分を殺す。
そうだ、そこで気づきました。
これまで私は、「戦人の罪」とは、朱志香の存在を否定してきたことだ、と考えてきました。
それは、それでひとつの解として、成立するようにも思います。
でも、「愛」というキーワードを軸にして考えるのなら。
戦人の罪は、父を愛さなかったことじゃないでしょうか。
再婚に関して、留弗夫にも、いろんな事情があったでしょう。やむにやまれぬ状況もあったにちがいない。
そういうことを、理解しようとしなかった。共感しようとしなかった。わかろうとする努力をしなかった。
愛がなかった。
右代宮の名を捨てた、つまり、右代宮の親族を愛すことをやめた。
愛がなかった。
右代宮の名を捨てたことで、戦人という子供は、右代宮から「失われてしまった」。
戦人を愛する者はたくさんいたのに、戦人は、愛しいものを失う誰かの気持ちをおもんばからなかった。
それは、罪です。愛しいものを失う気持ちが理解できないのは罪です。たぶん。
*
最後に、ボトルメールの話をしたいと思います。
ボトルメールの最後に、こう書いてあります。
「これを読んだあなた。どうか真相を暴いてください」
「それだけが私の望みです」
どうして暴いてほしいのでしょう。
これを書いたのは、たぶん犯人なんです。
犯人は、「誰にも真相がわからないようにするために」島の人間を全滅させたのです。
全滅させることで、観測者がいなくなり、そこで起こったことの解釈が無限になるのです。
「永遠に愛し合う譲治と紗音」も、「母に愛される真里亞」も、「愛にあふれた親族」も、すべてその「無限」から発生する可能性なのに。
暴かれてしまったら、それらの可能性は消えてなくなってしまうんですよね?
それは、多分こういうことじゃないでしょうか。
金蔵翁は自分のことをわかってほしかった。
犯人も、自分のことを、わかってほしかったんだと思うんです。
誰にもわからないようにしているけれど、やっぱりわかってほしいんだよ。
わかってほしくない人間なんていないんです。
私はわかった。
と、思う。
黄金郷に誰かがたどり着いたとき、魔女は永遠に眠りにつくそうです。
お休みなさい。
あなたの夢が、幸いでありますように。
チェックメイト。
*
いかん、あまりにセンチメンタルなことを書いてしまった。
少し恥ずかしい。
恥ずかしいので、照れ隠しに、全ての密室ミステリーのドアを開錠してしまう「魔法の呪文」を唱えて、終わりにしたいと思います。
「犯人は作者。作者がそういうふうに書いた」
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