日々の寝言~Daily Nonsense~

「キリエのうた」by 岩井俊二

岩井俊二監督の新作
「キリエのうた」を観た。

3時間という長さは
特に気にならずに楽しめたが、
既に多くの人が言っているように、
賛否両論だろうな、とは思う。

私が観た回も、お客さんは
あまり多くはなかった。

公式サイトを Google 検索すると
音楽映画『キリエのうた』とあるように、
BiSH で活躍した
アイナ・ジ・エンドさんが扮する
架空のシンガーソングライター「Kyrie」の
とても長いプロモーションビデオ。

そういう意味で、岩井俊二さんのファンや
アイナ・ジ・エンドさんのファンはもちろん、
松村北斗さんや広瀬すずさん、
黒木華さんのファンには愉しめるが
それ以外の人には厳しいかもしれない。

岩井監督の作品は、
「Love Letter」の頃から
ときどき見ていて、
「花とアリス」が好きだった。

相変わらずの岩井さんらしい
詩(ポエム)的表現が肌に合うかどうか
も重要かもしれない。

私も、このシーンは必要なのか?
というところはいくつかあったが、
岩井さんなりのこだわりなのだろう、
ととりあえず納得できる範囲だった。

ただし、全体的にテーマを詰め込み過ぎ
なのは確かだ。

メインであるだろう「自由さ」以外に、
その裏にある「哀しみ、はかなさ」を
サポートするものとして、
東日本大震災に関するエピソードが
重要な役割を果たしているのだが、
さすがに、ちょっと消化不良な
感じの部分もあった。

この映画を見る直接のきっかけになったのは、
NHK で 10月28日の夜に放映されたドキュメンタリー
「ETV特集 いま ここを歩く~映画監督・岩井俊二~」
を見たことだ。

その番組の中で、岩井監督は、
震災に関するエピソードを入れ込んだ
ことについて、震災直後に書こうとして
書けなかったストーリーがあって、
それを今回入れた、と語っていた。
そこには、いろいろな葛藤もあったようだ。

個人的には、いろいろなものが
重層的に積み重なってできあがる
岩井監督的世界、というか、そもそも、
世界をすっきりしないものとして
描くスタイルは嫌いではない。

NHK の番組の中では、
大林宜彦監督からの遺言的な言葉として、
「岩井俊二は表現者として死ぬ気だな」
というものが紹介されていた。

それを伝えられた岩井監督は
ちょっと不思議そうな感じの顔をしていたが、
「自分の表現スタイルや感性に殉じる」
という意味だとすればそれほど不思議はない。

大林さんも、岩井さんも、
いわゆるエンターテインメントの作者ではなく、
自らの感性や記憶に従って
作品を紡いでいる作家だと思う。

自分の中の痛みを伴うような記憶、
忌まわしくもあり愛しくもある記憶、
がベースにあって、作品を作らざるを得ない人
という種類の人のように見える。

映画界の外から映画界に入った
という点でも共通しており、
そういう道を拓いた人が大林さんで、
それを継いでいる人の中でも、
大林さんと近い匂いがするのが岩井さんだ。

その結果として、ということも
あるのかもしれないが、
誰かをプロモーションする
作品が多いという面も共通している。

薬師丸ひろ子さん、
原田貴和子・知世姉妹、
富田靖子さんなど、
大林さんがプロモーションした
女優さんは多い。

そして、この作品では、
アイナ・ジ・エンドさんが
プロモーションされている。

彼女の歌、そして、
映像の自然さ、美しさ、などを
作品に込められたメッセージを
バックグラウンドとしながら
愉しむ3時間は、
至福、とまでは言えないが、
決して長くはなく、貴重だった。

映画『キリエのうた』60秒予告【10月13日(金)公開】


映画『キリエのうた』本予告ディレクターズカットver【10月13日(金)公開】


追記:
架空のミュージシャンのプロモーション映画
と言う意味では、先日観た Blue Giants も同じだ。
こちらは原作がある作品ではあるが、
近い時期に同じような作品が上映されたのは
何か社会的な背景があるのだろうか?
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