を久しぶりに読み返した。
短い小説で、村上さんの作品の中では
お気に入りのうちのひとつ。
だいぶ前に書いた文章に
> この本は、心の隙間を満たしてくれるのか、
> それとも隙間をより大きくするのか、
> よくわからないのですが、
> アンニュイな気分?のときに、ときどき読みたくなります。
> きれいな文章が好きです。
とあった。
毎年1回くらい、トータルで
もう20回くらいは読んでいると思う。
とかく難解というか、
読後がすっきりしない村上さんの作品の中では、
構成や筋立てが明快で、
わかりやすいほうだと思う。
表と裏の二つの世界が
相互に微妙に影響しながら独立に進行する、
という定番の構造が既に現れている。
僕の世界では、
直子(唯一の固有名)を失って、
それ以外の世界から解離してしまった僕が、
双子の姉妹と暮らしながら
淡々と翻訳業にいそしむ。
ちなみに、「風の歌を聴け」に出てきた
小指の無い女の子は、双子の妹が
いると書いてあった。
今回の出現は、その姉妹の恩返しなのかもしれない。
鼠の世界では、
故郷の街に閉じ込められた鼠が
ずるずると自閉的な暮らしを続けている。
この小説で特筆すべき点は、
情景描写の美しさだ。
特に、鼠の世界についての描写は、
紋切型ながらも素晴らしい。
小説の後半、僕は、
昔、直子が死んだ後に(たぶん)
はまっていたピンボールマシンのことを
思い出し、それを探すことになる。
ちなみに、このピンボールマシンは、
ちゃんと「風の歌を聴け」の中に
登場している。
冥界を象徴する倉庫で
ピンボールマシンと再会した僕は、
後ろを振り向かずにそこから戻ってくる。
典型的な黄泉の国巡りの物語。
一方、鼠のほうは、女との関係を絶ち、
街を出てゆく決意を固める。
粗筋を書くとこれだけのことなのだが、
何度読んでもいいものなのだ^^;
ちなみに、この小説の中で、
翻訳会社の社員旅行?が計画されるのだが、
その行き先は「北海道」。
こういうちょっとしたギミックも
村上さんらしくて好きだ。
「ダンス・ダンス・ダンス」までの
村上さんは、僕+鼠と直子を軸として、
直子を悼み、僕を癒そうとする物語を
何度も何度も、手を替え、品を替え
書き直しているという印象がある。
直子にあたる人は実在したのだろうか?
というのは下衆な疑問だが、
ある人の死が、村上さんに
大きな影響を与えたのは、
たぶん事実なのだろうと思う。
大切な誰かを失う経験をした人の心に
これらの物語は静かに滲みこみ、
村上さん的な気持ち良さ
慰撫を与える。
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