母だって・・・

母はこの街で生きている、
小さな出来事に一喜一憂しながら

母、詩を読む    その十五

2010-09-25 16:25:33 | 文学
晩夏









あちらこちらの

木々から

蝉が

落っこちる



ある蝉は

人間の男の子に

生まれ変わってゆく



そんな

はかない夢を

思い描きながら

落っこちて



暑すぎた

夏が

過ぎていく









清崎進一著  ”蝉の啼く木” より






久しぶりに

ほんとうに久しぶりに

清崎さんの詩のご紹介です。







今年の夏は例年になく暑くて

元気な者でも大変でした。

そんな夏の最後の暑さがまだ残っていた9月の半ばに

義母様の弟が亡くなりました。


入院を知らせる電話があったけれど

ここは奈良で叔父さんは千葉。

思案の末、一人旅も心許ない義母様を

新幹線の座席まで送り

途中から乗ってくれる伯母と姪にお願いしました。



病院に着いて1時間

待っていたかのように亡くなったそうです。

それからはもう・・バタバタで・・・



遠方なので法事くらいしか会わなかった叔父さんだけれど

誠実で優しい人でした。




母、詩を読む   番外編

2010-01-18 20:47:12 | 文学
日曜日に大阪へ出かけた。

娘と一日バーゲン品の中を彷徨い

いくつか小さな幸せを手に入れた。



昨日来阪した目的は他にもある。

先日misakiさんに教えて頂いた

清崎進一さんがゲストの詩の朗読会があったからだ。

勿論こういう会に参加するのも初めてでとても緊張したが

会の方が気持ちよく迎えてくださった事に

感謝、感謝!



清崎さんご自身が詩を朗読してくださり

それぞれの詩について

詩作時のエピソード等を教えてくださった。

詩作に当たり一番応援してくださる奥様に対する

感謝の言葉を口にされたのを聞き

お人柄が伺え益々ファンになった。



その後参加者が順に感想を発表していくのだが

私は緊張で思っていることをなかなか言葉に出来なかった。

その時自分が喋った言葉を後から考えると

何だか陳腐で恥ずかしい限りである。



清崎さんはこのブログの事も知っておられ

コメントの中で話してくださった。

私はブログで勝手に詩を紹介させていただくことを

いつも心苦しく思っていたのだが

今回ご本人が快く承諾してくださったのでとても嬉しかった。



帰り際、本にサインしていただき少しお話した時

「今日misakiさんは来ておられないんでしょうかね?」

とおっしゃった。

私もずっと『何方がmisakiさんなんだろう?』と思いながら

キョロキョロしていたのだけれど

来られなかったのか・・・とても残念だった。



『瞬間小説』

この言葉が全てを語るように

清崎さんの詩は一編一編がドラマであり

読む私は心のスクリーンにそれを映し出す。

それはいつも透明感に溢れ瑞々しい。

切なく

哀しく

しかし温かく

優しい。



清崎さんがこれからも活躍されることを祈りながら

昨日の皆様との出会いに感謝いたします。

ありがとうございました。













母、詩を読む  その十四

2009-12-11 09:38:47 | 文学
雨と、風と










雨・・・



あのひとの

なつかしい影を

つれてくる



そんな

雨なら

濡れていたい



風・・・



あのひとの

やさしい声の響きを

のせてくる



そんな

風なら

吹かれていたい







清崎進一著  ”蝉の啼く木” より









misakiさんに清崎さんが新しい詩集を出すと教えて頂いて

すぐに注文し心躍らせながら待っていた。

Amazo○にしては時間が掛ったけれど

届いた時の喜びは一入だった。

大好きな清崎さんの心の世界がまた広がった。




今日は朝から雨。

だからこの詩を選んでみた。



人を想う心は激しいものだけでなく

時に静かで、やさしく、深い。

今日の雨は濡れると冷たいが

心を少し雨に濡らし

あのひとのことを想ってみよう。







母、詩を読む  その十三

2009-04-04 20:18:51 | 文学
初恋
 




お父さまは

お元気ですかと

そのひとは

訊く



ええ お蔭様でと

ぼくは

軽く会釈する



そのひとは

父の

初恋の人



そのひとの中で

父は

今なお

生きている





清崎進一著  ”眠れない時代” より







50年生きてくると

親しい人を失うことも多くなる

逝った人も、残った人も

中年であれ高齢であれ、かつては若く

希望に満ち

恋し

愛し

涙し

生きてきたのだ



心に燃え盛っていた炎は

小さな小さな蛍火になって

それでも消えることなくそこにある



その時、逝く時

きっと流れ星のように

その火を散らしながら

逝くのだろう





母、詩を読む  その十二

2008-08-26 16:44:24 | 文学
海が、呼ぶ。





海が呼ぶ



ぼくの名を

呼ぶ



なつかしい

響きで



海が呼ぶ



時に

波は

亡き恋人の

ひとがたをして






清崎進一著  ”眠れない時代” より









夏の終りの海はどうしていつも

あんなに淋しいんだろう

ひとりでじっと見ていると

良かったことなんて

思い出したりしない

この胸が切なくなるような

そんな出来事だけが

私を支配する



でも私は淋しさだけに囚われたくない

緩やかな波の優しさに

ため息を一つつき

空になった私の肺に

優しさだけを吸い込んで

私はまた

明日を生きるのだ


        





















母、詩を読む その十一

2008-06-04 10:43:40 | 文学
命のゼンマイ





ぼくの背中に

命のゼンマイを

巻いたのは

だれですか



かみさまですか

ほとけさまですか



ひとによって

長かったり

短すぎたりするのは

なぜですか



ぼくの

ゼンマイは

きっちりと

最後まで

巻き込んで

くれましたか





清崎進一著  ”眠れない時代” より





とても久しぶりに清崎さんの詩をご紹介。

先日、一日に二つのお通夜にお参りした。

両家の距離は20メートルあまり・・・

一人は86歳で、もう一人は96歳だった。

いつもニコニコした優しいおばあさんだった。

  

ふと、川田亜子さんを思ってしまった。

身近な人ならいざ知らず

赤の他人には計り知れない苦悩があったに違いないが・・・

これからの未来を思うと

勿体ない限りである。



命のゼンマイは徐々に動かなくなるのか

突然プチンと止まってしまうのか分からないけれど

止まる日まで精一杯前へ進もうと思う。



母、詩を読む その十

2007-07-12 16:15:39 | 文学
泣く





泣く



きみに抱かれて

泣く



仕事するだけの

いちにちがあるように



ただ

泣くだけの

いちにちがあっていい





清崎進一著  ”眠れない時代” より





久しぶりに清崎さんの詩をご紹介したいと思います。

2冊目の詩集である”眠れない時代”から

初めてのご紹介です。

『泣く』はとても短い詩ですが

読む人によって、大きく感じ方が変わる作品だと思います。

私は『切なさ』と『温かさ』を感じました。

皆様はいかがでしょうか?












母、詩を読む その九

2006-10-20 21:21:59 | 文学
人間の時



人間の時を終えて

一匹の灰色の蛾に

生まれ変わった

夢を見た



だが 運悪く

張り巡らされた

蜘蛛の巣にひっかかり

縞模様の大きな蜘蛛に

息の根を止められた



妙に現実感のある

気掛かりな夢だった



次の日 女ともだちに

大真面目に

そのことを話すと

「おもしろい人ね」

といって

髪をゆらして笑った



その美しい横顔を

見つめていると

不思議な安堵感に

ぼくは 包まれて

今 人間の時を

しみじみと かみしめている





清崎進一著  ”新選組になればよかった” より





以前、若くして逝かれたmisakiさんのお友達がお好きだった

「寂光」「春の光」をご紹介させて頂きました。

今回はもう一編好きだと仰った詩を彼女に捧げます。






母、詩を読む その八

2006-05-04 15:21:04 | 文学
サトコちゃんの犯罪



むかしむかし

サトコちゃんは

だれにでも自信を持って

「ぼくの彼女です」って

紹介できる人だった



いつだったか

遊園地の

コーヒーカップに乗り

ふたりして

くるくる回りながら

「いっしょになろうか?」

「うん それは名案ね」だなんて

まんざら冗談でもなく

将来を誓い合ったことも

あったんだ



ああ だけど

春一番の風が吹いた

あくる日の朝

サトコちゃんは

ぽつりと

ぼくに云ったんだ

「あたしね 大学出た人でないと

結婚できないの」ってね



その瞬間 高校も

ろくすっぽ出ていない

ぼくの心のどこかが

信じられないほど

大きな音をたてて

複雑骨折を

起こしてしまった



お医者さんには

いかなかったけれど

全治三年七ヶ月と

四日間の

重症だった





清崎進一著  ”新選組になればよかった” より



母、詩を読む その七

2006-03-13 13:12:02 | 文学
春の光



君のお母さんに案内されて

二階の この部屋に

足を踏み入れると

そこはかとないその静けさに

君のさびしさがぼくにも感染する



ついこの間まで バイトで

君の家庭教師みたいなことを

やっていたけれど

サイン、コサインがどうのとか

ベルリンの壁がどうなったとか

そんなことよりも もっと

ぼくは君に伝えたいことがあったんだ

ほんとうは



君のお母さんが

空気を入れ替えますからと

窓を開けると

キラキラと こぼれるように

春の光は 部屋いっぱいにちらばって

衣紋掛けの制服は

やわらかな風に揺れ

机の上のポートレートの君は

かなしいほどの笑顔で

時を止めている





清崎進一著  ”新選組になればよかった” より





前回の「寂光」に続き、misakiさんのお友達がお好きだった

「春の光」をご紹介させて頂いた。

ご自分の病状を知りながら、なおこの詩が好きだと仰ったお友達の気持ちは如何ばかりだったのだろう。